白竜の棲む山  襲撃 6

 事実と嘘がある。

 話していることは本当だが、「鷹の目」の異名の由来は、単純に鷹の目に似ているからである。それで言えば、祖父似の俺も「鷹の目」と言う事になる。フフフ。

 そもそもあの技の名前は「無明むみょう」だ。


「俺も未熟ながら、その目を持っている」

「おお!すげぇな!!」

「そこでお前の事だが、お前は時々バカじゃ無いから俺の言うことが理解できるはずだ」

「おう!理解できるぜ!!」

 コイツは乗せやすい。馬鹿にされても気付かない。


「お前は目が良い。よく周囲を見ている。だから、お前は俺の『鷹の目』をもっと観察するべきなんだ。だが、『鷹の目』は観察しているだけでは身に付かないし、理解できる物じゃ無い。実際に使いまくらないと、あっという間に消えて無くなってしまう。これは実体験から言っているんだ」

 本当にこの感覚は、簡単に薄まってしまう。これは俺の才能が無いからなのだろうか?

「だから、お前はこれから、俺たち全周囲をよく見て、俺たちに指示を出すようにして見ろ。それが『探究者』として、一段高みに上がる道なんじゃ無いか?」


 俺が言うと、ファーンが少し考える。

「でもよ。リーダーのお前が指示した方が良いんじゃないか?」 

 確かに、実際の指示は俺がした方が良いだろう。

「それはその通りだ。お前は探究者なんだからな。だから、お前は危険を察知したらどんどん俺たちに伝えるんだ。そして、それに対して俺がどんな対応をしたか、指示を与えたかを探求すれば良い」

 つまり戦術を学べと言っているようなものだな、これは。


「なるほど!!それはすげぇな!!俺の探究者としての仕事にやりがいが増える!!」

 うん。探究者って本当になんだろうな。ファーンにとっては何よりも大切な誇りらしいが。

「それとな。お前は今はウチのパーティーの大切なメンバーだ。かけがえのない仲間だ」

「お、おい!カシム!?やめろ!!!」

 急に言われて、ファーンが真っ赤になる。今の俺の言葉に嘘は微塵も無いが、コイツはこういう事を言われた経験が無く、免疫が無い。これは殺し文句だ。


「お前がいないと俺は困る。信頼している」

「お、おい!どうしたんだよ!!ヤバいからぁぁ!!」

 ファーンが涙目になる。耳の先まで真っ赤だ。

 あれ?リラさんがふくれている。何でだ?

「それと同じように、リラさんやミルの事も俺はとても大切に思っている」

 あ、リラさんの機嫌が直った。良かったよ。

「だから、お前もみんなの事を同じように思って欲しい」

「おう!オレはみんなが大切だ!!大好きだ!!」

「だろう?・・・・・・お前の探究者の仕事も大切だが、仲間が危なくなった時には、さっきの様にパーティーのメンバーとしての仕事を優先して欲しい。お前ならきっと分かってくれると信じている」

 俺の言葉に、真剣な表情でファーンが頷いた。

「おう!分かったぜ!!!」


 俺は改心の優しげな笑みを浮かべてやる。内心は「してやったり」だが。

「さすがは俺の大切な相棒だ!」

 回りくどい説明だったが、単純なコイツは簡単に乗せられた。

「おう!まかせとけよな、みんな!!」

「よろしくね、ファーン!」

 ファーンのガッツポーズに、ミルが抱きつく。リラさんがジト目で俺を見ながら、冷めた拍手を送る。やめてください、リラさん。俺もちょっと詐欺したような気持ちになってるんですから・・・・・・。

 う~ん。後でリラさんにはファーンの「探究者」について、俺が分かる範囲で説明しないといけないな。

 近接戦闘最強職「マスター」になる為の修行職とでも言うべきかな?レベルを上げたらダメらしい。

 それと、俺の動きを観察するのが仕事らしい。そのぐらいしか分からないけど・・・・・・。

 

 ともあれ、我がパーティーの致命的な欠点を、只の欠点ぐらいにする事は出来たかも知れない。




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