白竜の棲む山 冒険者として 1
「この冒険をお前の義務にするな。お前ももう冒険者だ。って事はお前の好きなことをするべきだ」
ファーンが俺に言った。あれから俺は考え続けた。
俺は何がしたいんだ?仲間と一緒に冒険をして来たが・・・・・・。
竜騎士になりたいのか?誰かに認められたいのか?強くなりたいのか?
何の為に?
家の名誉の為か?義理の為か?誰かの日常を守る為か?
考えたけどわからない。見つけられない。
生を、命を諦めないと誓ったものの、何の為に、何を望んで命を繋ぎ、足掻こうとしているのか?まるでわからない。
覚悟を決めたつもりでいたが、本当のところではわかっていない。
空しい。空しいんだ。どんな馬鹿げたことをしても、失敗を繰り返しても、期待に応えられなくっても、俺の周囲は俺を責めたりせず、常に高すぎる評価をする。俺を褒めちぎる。
俺にそんな力は無い。理想も無い。野望も無い。
重い。重すぎる。押しつけられる期待が、夢が、課題が。
本当はもう何もかもが嫌になっているんだ。投げ出したいんだ。諦めて楽になりたいんだ。
辛いし、痛い。なのに、何で俺は戦っているんだろう?どうせ死ぬのに。
「お前、時々バカだな」
ファーンの声がする。俺の初めての友達だ。
「私を仲間にしてください」
リラさんはいつも優しく微笑んでいてくれる。
「お兄ちゃん大好き!!」
ミルはいつも元気だな。
何でだろうか?まだ1ヶ月程度しか一緒にいないのに、仲間の存在が俺の中で大きくなっている。この人たちを悲しませたくない。そんな気持ちが、俺を奮い立たせている。
でも、それも他人の期待に応えないといけないという、強迫観念が産んだものなのかも知れない。
それは、俺が産まれた時から持っている感情なんだ。骨身にまですり込まれている感情なんだ。俺はそれが辛く感じる時がある。
それでも、俺は家族に感謝している。
偉大な祖父。誰にでも手を差し伸べる優しい祖母。無口で不器用な父。俺は弟なのに常に持ち上げて愛してくれる兄たち。影ながらいつも支えてくれていた執事やメイドたち。
そして、母。アクシス。
思えばあの頃が一番幸せだった。
アクシスがいて、いつも「お兄様」「お兄様」とまとわりついてきた。沢山遊んで、ケンカもして、学んで、失敗して。
そして、母が俺たちにお話をしてくれた。沢山、沢山。
楽しかった・・・・・・。こんな日がずっと続いてくれたら、どんなに幸せだっただろうか?
それが俺の望みなのだろうか?だとしたら無理な話だ。叶わぬ願いなのだ。だって、もう、母はいないし、アクシスも大人になっている。あの頃の様には戻れない。何より俺が変わってしまった。
ごめんよ、アクシス。
俺はもう君に会えなくなっちゃうんだ。
「大丈夫です、お兄様!」
え?アクシスの声が強烈に頭の中で響く。アクシスがキラキラ輝く青い目と、黄金色の長い髪をそよがせて俺を見つめている。王城のアクシスの居室である。
「わたくしはお兄様のやりたい道を応援します。それに、その夢はわたくしにとっても、お兄様に叶えて欲しい道なのですもの。だから、ね?帰ってきたらまたあの頃のように、わたくしにお話ししてください」
ああ。あれは俺が騎士の道を捨てた時の事か・・・・・・。
そうか。そうだった。
俺はやっぱりバカだったんだな。一番大事な夢を忘れるなんて。
走馬燈。死の瀬戸際に見るものと言われているが、極限状態で加速された思考が、過去を見せる。幻覚を見せる。そしてこれまで積み重ねてきた過去の経験から、生き残る為のヒントを探す為の本能が起こす現象。
1秒にも満たない一瞬の思考から覚めると、目の前には、のどを大きく膨らませた竜が、今にも炎を吐き出そうと大きく口を開けていた。
俺は呪いで、全身から血が噴き出し、体の内側から内蔵を引きちぎられるような痛みで、立っているのが奇跡のような状態だった。
だが、溜まっている。足にだけは力が溜まって、しっかりと地面を踏みしめている。
諦めない。例え死んでも、俺には白竜に会うべき理由がある。願いがある。夢がある。
勝機はここしか無い。
閃光が走る。最後の「圧蹴」だ。
俺は剣鉈を捨てて腰の剣を抜き、右手で構え、竜の開いた口目がけて突進する。
竜の顎門が勢いよく閉じて、再び全開する。燃焼液に火花が飛び着火する。
激しい炎が吐き出されるが、俺はそれに構うこと無く、竜の口の奥目がけて右腕ごと剣を突き入れる。
炎が俺の右腕を包み込む。凄まじい熱さで、手が焼け焦げていくのを感じる。
それでも俺は腕ごと剣をのどの奥に突き刺しのどの奥をえぐる。狙いはのどの奥にある火袋だ。
手応えは感じない。激しい炎が、俺の右手全体を焼き焦がしているからだ。だが、剣は狙い通り、火袋を切り裂いたようだ。
竜が吐き出す息を止める。火袋から溢れた燃焼液が気管を逆流する。それらが一気に引火してのどの奥が爆発する。
俺は吹き飛ばされて地面に倒れ込む。
倒れ込みながら、竜が腹の火袋にも引火させて、更に大きな爆発を起こすのを見た。
そして、倒れた俺にも大量の炎が降りかかってくる。
だが、体を動かす事が出来なくなった俺は、それを見ていることしか出来ない。これでお終いか・・・・・・。
大量の炎に俺は全身を飲み込まれた。
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