白竜の棲む山 ギルドの司書様 4
「では、次に白竜山のお話を致しましょう」
ティンピーナさんが説明を続ける。今度は白竜山付近の地図を取り出す。カナフカ西部の大きな範囲が丸で囲まれている。この範囲が白竜のエリアなのだろう。
「創世竜の棲むエリアは全く独自の生態系が築かれていて、外界とは地続きではありますが別の世界だと心得ていてください。人によって差はあれど、白竜様のエリアに侵入した時にはすぐに分かります。
白竜様の棲息エリアは、この円で記した半径20キロメートルの範囲です。その円の中心が白竜山です。この街から少し南下すると見えてくる雪で覆われた白い山です。
白竜山は年中雪に覆われているとても寒い所なので、必ず防寒装備をしっかり調えてください。防寒用のグローブとブーツは特に大切です。吹雪くのでゴーグルとかんじきもあると良いです。
それらの装備は白竜様のエリア内に唯一有る村「カルピエッタ」で揃えられます。ここでも買えますが、品質も値段も、カルピエッタ産がお勧めです。なんと言っても白竜山の獣から捕れた革を使っていますから。それと、白竜山の環境は急激に変化しますので、山に入る時にはご注意下さい」
なるほどなるほど。
「次に出現する野獣についてです」
一般的に野生の獣のことを「野獣」とも言う。野生の普通の生き物のことだ。
魔力を持っている生き物のことは「魔獣」、「神獣」と言う。「魔獣」は魔界産、「神獣」は天界産の違いがあるだけだが、どちらも地上で野生化していたり、ダンジョンに棲息していたりする。
「モンスター」と呼ばれるのは、生物としてのカテゴリーでは無く、人に対して積極的に害意を示すかどうかだ。
亜人種のゴブリン種や亜獣人のコボルト種、鬼人のオゥガ種はモンスターに当たる。
モンスターと呼ばれる亜人種は、コミュニケーションが成立せず、人里を集団で襲ったりする。人に対して、積極的な害意を持つのが特徴である。
言葉が使えないのでは無く、価値観が違いすぎるのだ。
モンスターにとって、自分以外の生物は殺し、食らい、犯し、蹂躙するだけの存在で、仲間に対する仲間意識も家族の意識も無い。残忍で残虐。欲望と本能にまみれている種族である。
同種の仲間であっても、腹が減っていれば殺して食らうのが当たり前の種族である。
幾度も討伐隊が編成されているが、根絶やしにすることは出来ていない。
一説によると、これらの種族は「地獄」の勢力が生み出しているのではとも言われている。
創世竜の棲むエリアの生き物は、エレスとも共通するが、基本的に創世竜が創り出して、生態系をしっかり作るように配置されているそうだ。
なので、創世竜のエリア内にいる生物は、魔獣や神獣ではなく野生生物の「野獣」である。
中には魔力を持っている物もいるが、魔界産でも天界産でも無い。
例えば「竜種」である。竜種は明らかに魔力を持っているし、実際に魔法を使う竜種も存在する。なので、「魔獣」と呼ばれたりするが、厳密にカテゴライズすると「野獣」である。
創世竜の棲むエリアにはモンスターは存在しない。
これは創世竜がモンスターの存在を許していないからだと言われている。
創世竜は地獄の勢力を嫌っているので、それだけに先にも述べたように、モンスターは地獄勢力が作ったのではというのにも信憑性が出てくる。
司書の説明が続く。
「基本的に山に入ると野獣は出現頻度が上がります。まずは『サーベルラビット』。やや大型のウサギですが、前歯が通常のウサギよりも長く、ナイフのように鋭く尖っています。肉食のウサギたちで、群れで行動します。統率するボスウサギがいるので、襲われたらボスを優先的に倒すようにすると良いでしょう。
次に『ベイルホッグ』。これは他の地域でも見られる鹿の仲間です。大きな角を振り回してくる気性の荒い鹿です。草食動物ですが、群れに遭遇すると特に攻撃的になるので危険です。ただし、角や毛皮はギルドでも高値で買い取ります。
『バルブルワシ』。これは高山地帯にも棲息する白い大型のワシで、翼を広げると3メートルにもなるそうです。吹雪になると現れて、視界を奪われる冒険者に襲いかかるという事です。ゴーグルをお忘れ無く」
吹雪というのがどんな物か、あまり実感できないが、寒くて視界が悪くなる物らしい。本での知識はあっても実感としてはわかりにくい。
「白竜山には何カ所か洞窟の入り口があります。白竜山の内側は洞窟でつながっていて、普通の山で言うところの火口が巨大な縦穴となっています。白竜様は、そこを出入り口として使っているようです。なので、洞窟を進めばいずれ白竜様の棲む場所に行くそうです。また、中心に行けば行くほど強力な野獣が出てきます。
『ケイブバット』。これも他地域でもよく見られる大型の吸血コウモリです。数が多いので、一斉に襲われたら大変です。まあ、臆病な性格らしいので、積極的には襲ってこないでしょう。襲われるとしたら瀕死の状態になった時なので、気を付けようが無いですね」
さらりと恐ろしいことを言うなぁ・・・・・・。
「次に『ケイブベア』。これはクマですね。普通に手強いですよ。腕が発達していて、爪も長いです。硬い岩も掘る事が出来る腕での攻撃は厄介です。
『ランドクローラー』は洞窟内に自分だけの通路を持つ巨大なミミズです。肉食で、通路内を周回していて、通路に落ちた生き物を食べています。通路に落ちるような穴が洞窟内には無数に開いていると言います」
聞いただけで恐ろしいな。出来れば、どれにも遭遇したくない。
「そして、野生の竜がいます。竜は一般的には魔獣と呼ばれていますね。なので、私も魔獣と呼びますが、炎を吐く強大な魔獣です。出会ったら、可能ならばお逃げください。まず敵いません。まあ、かなり奥に行かなければ遭遇することは無いでしょう。
この竜ですが、白竜様の主食となっております。ただし、竜種にも色々あるので、白竜山に入るなら、充分気を付けてください。
他にも野獣は多数いますが、主に気を付けるべき物はこんな所でしょう」
なるほど。かなり役に立つ情報だ。ファーンがきれいに整理してメモを取っている。結構几帳面らしい。
「あと、白竜山の内側は暖かいらしいですよ。中心に行くほど温度が上がっていき、中心部は暑いくらいらしいので、気温で大体の位置を把握できます。そして、言うまでも無いですが、白竜様に洞窟内で遭遇したら、もう全てを諦めてください。遭遇さえしなければ洞窟内で好きにしてもお許しいただけているようですよ」
ティンピーナさんが説明を終了する。
「へ~~。するってえと、洞窟に入っただけで白竜にはバレてるって事なのか?」
ファーンが尋ねる。
「いえ、正確にはエリア内に入った時点で白竜様にはわかるようですよ」
「そりゃすごいな」
ファーンが感心する。するとティンピーナさんが上腕筋を主張しながら微笑む。
「私の情報はお役に立てましたでしょうか?」
「おう!立った立った!サンキューな!」
「いえいえ、これがお仕事ですから」
ティンピーナさんが俺たちに握手を求める。ファーンも俺も握手をする。
「あ、そうそう」
握手後にティンピーナさんが情報を付け足す。
「カルピエッタの村に行かれますなら、急ぐことをお勧めします。
ここからカルピエッタまでは1日、2日程度の旅程だから、明日出発しても4月33日には到着できることになるな。
せっかくなので、その白竜祭を楽しんでから白竜山に向かうのも良いだろう。
「良い情報ありがとな!」
ファーンが答える。すると、ティンピーナさんは後ろを向いて広背筋を強調するポーズを取る。
「いいえ。またのご指名をお待ちしています!」
ファーンが嬉しそうに背中の筋肉をつついて笑う。
司書の人選には賛否あれ、その辺りは心を無にして俺たちは面談室を出る。
すると、前から本を数冊抱えた女性が第1面談室に入っていった。その女性は、豊満な胸元も露わに大きく開いた服に、短く、かつスリットが腰まで入った服を着ていて、クルクルの茶色い巻き毛に、厚く潤った唇を尽きだしていて、潤った大きな瞳は半眼で艶やか。色気たっぷりの美人司書様だった。
「!!!!!!??????」
瞬時に俺は涙目になる。
「おま!あれ!あれぇ!見たか?!お前ぇ!」
俺がファーンに怒鳴る。するとファーンが盛大にしかめっ面になる。
「おいおい、カシム。お前は時々バカだなぁ。図書館では静かにするもんだろうが」
すごくあきれ顔されたが、どうにも俺の感情は収まらない。仕方が無いので小声で怒鳴りながらファーンに詰め寄る。
「お前!なんであーゆー人を指名しなかったんだよ!なんで男の司書とか指名してんだよ!!バカなのか、お前は?!」
俺が文句を言うが、ファーンはしかめた表情のままで俺を非難がましく見ている。
「はあ?何だよ。ティンピーナさんの情報は役に立ったろうが?」
そう言われるとグッと言葉に詰まる。
「・・・・・・そりゃあ、役に立ったさ!でも、でもな!俺は司書様に会うのを楽しみにしていたんだよ!ギルドの花形に!!」
それを聞くと、ファーンがシュンとする。
「ああ。そういう事か。・・・・・・それは悪かったよ。謝るよ。オレの配慮が足りなかった」
ん?急に素直に謝った。
そう素直に言われると怒りが冷めていく。まあ、殴るけどな。
「カシムがスケベーさんだったのを忘れていた。さっきの女の司書様みたいな、おっぱい『ドーーン!』なエロっぽい人が良かったんだよな。失敗したよ。これはリラとミルにも報告して、情報共有しておくよ。もう誰もこんな失敗をして、カシムを失望させないようにな・・・・・・」
ええ?!ちょっと、待って!!
「いや・・・・・・。ファーンさん?ちょっと待ってください」
「いや、悪かったと思ってるからさ。相棒としてパーティー全員が困らないように気を回しておいてやるよ」
ファーンがニヤニヤ笑ってる。
「いや、違うんだよ。ファーンさん。俺が言いたかったのはそうじゃなくってだね。いや、俺もさ、言い過ぎたし謝るよ」
「いや、良いんだよ。こっちが悪かったってば」
「いや、俺が悪かったんですよ、ファーンさん」
「ああ、何か甘い物が食べたくなったなぁ」
「ああ。俺もです。どうでしょうか、その辺の店で食べましょう。もちろん俺のおごりです。おごらせて下さい!」
くっそう!ファーンの奴め。マジでなんなのコイツ?女の人とも普通に話したり接することが出来るからって、そりゃ無いでしょうが・・・・・・。
ハーフエルフで、ちょっと可愛い顔してるからってさぁ!さぞかしお前はモテるんでしょうねぇ~。
ファーンを頭の中で、ひがみたっぷりに罵倒しつつも、俺はファーンを殴ることが出来なかった。
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