旅の仲間 相棒 4
俺は、幾分回復すると立ち上がり状況を確認する。
「まだ、回復が必要です」
リラさんが俺に言ってくれるが、俺はそれを止める。
「ありがとうございます、リラさん。でも、俺以上に回復が必要な人がいます。それに急いでやらなきゃいけない事があります」
俺の言葉にリラさんも周囲を見回して頷く。
「まずは、俺の仲間、ファーンを回復してあげてください」
救出した女性を抱えたまま倒れ込んでいるファーンを指さす。
それなりに身構えてダメージを受けた俺と違い、ファーンは完全に無防備なところを何度も魔法攻撃を受けている。
ファーンも満身創痍なはずだ。それにファーンが動けるようになると助かる。
「わかりました」
リラさんは微笑むと
リラさんを見送ってから、俺は足下に横たわるハイエルフの少女を見る。
エメラルドグリーンの、肩下ぐらいまでのやたらとはねた髪の少女は、見た感じだとまだ10歳ぐらいにしか見えない。やたらと短いズボンにおなかが出るくらい短い薄手の服を着ている。
活発そうな印象の少女だが、今は弱々しく体も震えている。まだ声は出せないが、肩で息をしながらこっちを見ている。
その傍らには黄色い服の父親が跪いて娘を心配そうに見ている。何やらささやきながら、空中を指でなでるようにしてから、少女の頬を触る。
「回復の術!」
と父親が言うが、精霊魔法じゃないのか?
ともあれ、少女の顔色がみるみる良くなっていき、呼吸も落ち着いてくる。
「ミル。もう大丈夫だ。少し寝ると良いよ」
父親はとても優しげな表情を浮かべる。すると、ミルと呼ばれた少女は一つ頷くと目を閉じる。すぐに穏やかな寝息を立て始めた。
それを見届けた父親が立ち上がり俺に向き直る。
「やあ、改めてお礼を言おう・・・・・・でござる」
んん?なんか無理矢理語尾に「ござる」を付け足したぞ。まあいいか。
「して、この状況は一体どういうことでござるかな?」
確かに説明の必要がある。
見ると、ゼアルは完全に白目をむいて倒れている。まだ俺に切られた腕から出血しているので、放っておけば失血死する。
俺の視線に気付いたようで、父親が頷く。そして、ゼアルの出血を止めるべく「回復の術」を使う。とりあえず傷がふさがり出血だけは止まる。
こんな男は死んでも構わないが、冷静になればそうはいかない。法的に裁かれるべきだ。
事件についてももっと調査が必要になるだろうし、救出された人たちの後の影響もまだわからないうちに殺してしまうわけには行かない。
「止めてくださってありがとうございます」
俺が言うと、父親は頷く。
「なに。若者がつまらぬ事で人を殺めたりせぬようにしたまででござる。もし殺すなら、それは大人がする事でござるゆえ」
いや、俺も一応成人なんだけど・・・・・・。まあ、ハイエルフの感覚では人間なんてみんな子どもみたいなものなのかも知れない。
なぜなら彼らには寿命がない。病気もしない。不慮の事故がなければ死ぬ事はない。
この人だって、見た目は俺と変わらないが、年齢は一体いくつなのだろうか?
この横たわる少女だって、もしかしたら俺よりずっと年上なんて事もあるのかも知れない・・・・・・。
「ところで、この状況は?」
父親に問われてハッとする。
「ああ。そうでした。まず自分は冒険者でカシム・ペンダートンと申します」
「ふむふむ。拙者はヒシム」
ここでヒシムと名乗ったハイエルフがクスリと笑う。
「名前・・・・・・似てるねぇ~」
「・・・・・・は、はあ」
え?何なのこの人。派手で変な服だし、もしかして変な人?いや、「センス・シア」みたいにハイエルフって種族もこれが普通なの?俺の戸惑いをよそに、ヒシムさんが続ける。
「この子はミル。ところでペンダートンとは、あのペンダートンでござるか?」
俺は頷く。
「なるほど」
ヒシムさんは何やら独り
それから、ファーンとリラさんの所に一緒に移動すると、リラさんにもわかるように状況を説明する。
「現在、イーラ村の方からの相談を受けて、森の中に立つ謎の塔を調査しに来ました。来てみたところ、どうやらこの塔は、邪悪な魔法使いの実験場だったようです。それがこの黒い鎧たちです。掠った人間を使っての実験を繰り返していたのですが、娘さんを実験材料にしてようやくこの鎧が動いたとの事で、この男はハイエルフを鎧のエネルギー源とするためにこの鎧でエルフの大森林に侵入し、ハイエルフたちを掠ってくる予定だったようです。そして、動くようになった鎧を大量にそろえたら、シニスカに攻め込む計画でした」
軍で行った訓練で、状況を正確に、端的に報告する訓練も一応は受けていたが、事本番にあって実にすらすらと説明できた物だと我ながら感心する。
「うん。わかりやすいね・・・・・・でござるね」
時々素が出るな、この人。
「つまり・・・・・・」
俺が説明を続けようとした時、ファーンが大声を出す。
「つまり!他にもこの鎧に閉じ込められている人たちがいるって事だ!!みんな瀕死だ!!くっちゃべってないでとっとと助けるぞ!!」
まだ万全ではないのにファーンはヨロヨロと立ち上がる。
「鎧の弱点は頭についている金の房飾りだ。そいつを切って頭を外すと鎧が開く様になっている」
ファーンが説明し、自分が切り取った房飾りをハイエルフの父親に手渡す。
「それから、この金の房飾りは危険です。集めて焼却してしまった方が良いでしょう」
俺が提案する。
「ふむ。それは何ででござるか?重要な証拠とはならぬでござるか?」
もっともな意見だが、やはりこれは不吉だと思う。
「いや・・・・・・。俺も言いたくないし触りたくもないんですが・・・・・・…。この金の房飾りは、あの『魔人形ルシオール』の髪の毛を使ってるそうなんです」
「うわ!?こわ!!」
「きゃあ!!」
リラさんが怖がるのは分かるが、ヒシムさん、ハイエルフのくせに怪談を怖がって、思わず手渡された房飾りを振り払おうとした。
俺は必死でその手を握って止める。房飾りが散らばって、魔人形の髪の毛がどこかに行ってしまう事を恐れたのである。
完全に動揺したヒシムさんに落ち着くように目で訴えると、ようやく動揺を抑えつつ、わざとらしく笑みを浮かべる。
そして、服の何処からか、布の袋を取り出すと、金の房飾りを袋に入れる。
「・・・・・・処分するべきだな」
そう言えば、俺がさっき切り取った房飾りは飛び散ったりしていないだろうか?
ああ・・・・・・当然ながら床に散らばっている。ヤバいな。
「よし。あの散らばったのは拙者の『忍術』で何とかしよう。君たちは手分けして鎧から人々を解放してくれ。もちろん拙者もすぐにそっちを手伝う。それともうすぐ妻もここを発見するはずだ」
「・・・・・・そう言えば、あの
リラさんが言う。俺は『忍術って何だ?』と思っていたから聞き流しそうになった。
「狼煙?」
俺も疑問を投げかける。
「やっぱりカシムさんたちではなかったんですね?」
俺もファーンもリラさんも首をひねる。するとヒシムさんが「フフ」と笑う。
「まあ、それは問題ないさ。君がカシム・ペンダートンならね」
良くはわからないが、それより今はやるべき事がある。俺たちは急いでそれぞれに鎧に駆け寄る。
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