エレス冒険譚 ~竜騎士物語~

三木 カイタ

第一巻 冒険の始まり

第一巻 冒険の始まり  序章

「来たぞ、カシム!!」

 ハーフエルフのファーンが叫ぶ。

「まかせろ!!」

 叫んで俺は、剣を構える。

 俺に向かって飛びかかってくるのは、大きく枝分かれした角を持つシカ、「ベイルホッグ」だ。

 雪積もる山の中でも、素早く、力強く跳ねて、俺に飛びかかってくる。

 こっちは常夏のグラーダ国育ちで、雪なんか今日初めて見たぐらいだ。

 ベイルホックよりも慣れない雪山の環境に四苦八苦している。 


 雪に足を取られそうになるが、何とか角の攻撃を受け止める。

「今だ、ミル!!」

「ま~かせて!」

 ハイエルフの少女は、雪の中だというのに、半袖半ズボンの見るからに寒そうな恰好でも元気いっぱいで、雪の積もった地面でも、苦もなく素早く駆けて来て、2本の短刀でベイルホッグに切りつける。

 驚愕するのは、雪にも足跡が残らないほど軽やかに動けるという事だ。


「ピイイィィィッッ!!」

 ベイルホッグが一鳴きすると、今度はミルをターゲットにした。

 だが、そうはさせない!!

 俺は力を込めて、剣で角を押さえ込む。・・・・・・が、激しく首を振るベイルホッグと、膝下まで雪に埋まる足場に、俺はバランスを崩して倒されてしまう。

「どぅわっ!?」

 奇妙な声が漏れてしまった。


『エアリセント!!』


 吟遊詩人の綺麗な女性、リラさんの風魔法がベイルホックの足元の雪を大きく切り裂いた。

 普段は前あわせの上衣にきわどいところまでスリットが入ったスカートをはいているリラさんだが、残念ながら現在は雪山装備でしっかり厚着している。


「ピイイィィィィツツ!」

 リラさんの魔法のおかげで、ベイルホッグはようやく戦意を喪失して、飛び跳ねて去って行った。


「結構厄介だったな。やっぱり雪は戦いにくいか?」

 ファーンが俺の元に来て、手を差し出す。ファーンは俺の相棒だが、基本的に戦わないで、口だけ出すのが仕事だ。いや、いつも戦闘中でも何やらメモを取ってばかりいる。それが本職らしい。

「ああ。俺、雪は嫌いだな」

 俺はその手を取り、立ち上がって、体に付く雪を払いながら言う。


「お兄ちゃん、大丈夫だった?」

 ミルが俺を心配そうに見てくる。

「ああ。それより、寒そうに見えるから、マントだけでもちゃんと羽織っていてくれ」

「平気なんだけどなぁ~」

 最上位種族のハイエルフは、俺たち地上人より、遥かに体の造りが優れた幻の種族で、暑さ、寒さにも、たちどころに適応出来てしまうのだ。

 皆、緑系の髪の毛をしている。ミルは明るいエメラルドグリーンである。


 明るい茶色の髪の、清楚な雰囲気のリラさんが、俺たちの元に来る。

「うふふ。カシム君、お疲れ様でした」

 リラさんは綺麗な人だが、丸くて大きな耳が、そこに可愛らしさを演出してくれており、はっきり言ってすっごく良い! おまけに非常に実力のある歌姫でもある。

「リラさん。魔法、助かりました」

 リラさんは微笑んで答える。

「どういたしまして。ふふふ」



 それにしても、何で俺たち4人がこんな雪山を、野獣と戦いながら登っている羽目になっているのか・・・・・・。

 

 とんでもない経緯でそうなってしまったとしか言い様がないが、俺の目的は、この雪山の中に棲んでいる、創世竜の白竜に出会い、話しをする為である。



 創世竜。


 それは、世界に十一柱存在する、このエレスの大地で最も偉大で、最も強大な力を持った特別な竜の事である。

 深い知恵を持ち、独自の世界を創造し自らのすみとする。どんな英傑でも、神でも魔神でも傷一つ付ける事が出来ない神聖不可侵な存在。

 創世竜の住処に勝手に侵入すれば生きて帰る事はほぼ出来ない。


 万が一、創世竜と遭遇して、会話し、尚且つ生きて帰る事が出来た者は「竜の眷属」と呼ばれ讃えられる。

 

 俺はこれから、そんな恐ろしい者に会いに行かなければならないのだ。

 


 命令したのは、この大陸エレスの覇王。「狂王」、「闘神王」として恐れられているグラーダ三世である。

 それは決して拒否する事が出来ない勅命だった。

 つまり、事実上の「処刑宣告」なのである。


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