エレス冒険譚 ~竜騎士物語~

三木 カイタ

第一巻 冒険の始まり

第一巻 冒険の始まり  序章

「来たぞ、カシム!!」

 俺の後ろで、ハーフエルフのファーンが叫ぶ。

「まかせろ!!」

 叫んで俺は、剣を構える。

 俺に向かって飛びかかってくるのは、大きく枝分かれした角を持つシカ、「ベイルホッグ」だ。

 雪積もる山の中でも、素早く、力強く跳ねて、俺に飛びかかってくる。

 こっちは暑いグラーダ国育ちで、雪なんか今日初めて見たぐらいだ。足元を取られそうになるが、何とか角の攻撃を受け止める。

「今だ、ミル!!」

「ま~かせて!」

 ハイエルフの少女は、雪の中だというのに、半袖半ズボンの見るからに寒そうな恰好でも、元気いっぱいで、雪の積もった地面でも、苦もなく素早く駆けて来て、2本の短刀でベイルホッグに切りつける。

「ピイイィィィッッ!!」

 ベイルホッグが一鳴きすると、ミルをターゲットにしようとする。だが、そうはさせない!!

 剣で角を押さえ込もうとする。・・・・・・が、激しく首を振るベイルホッグと、膝下まで雪に埋まる足場に、俺はバランスを崩して倒されてしまう。


『エアリセント!!』


 吟遊詩人の綺麗な女性、リラさんの風魔法がベイルホックの足元の雪を大きく切り裂いた。

「ピイイィィィィツツ!」

 ベイルホッグは、ようやく戦意を喪失して、飛び跳ねて去って行った。

「結構厄介だったな、ヒヒヒ」

 ファーンが笑いながら俺の元に来て、手を差し出す。

「ああ。俺、雪は嫌いだな・・・・・・」

 俺はその手を取り、立ち上がって、体に付く雪を払いながら言う。

「お兄ちゃん、大丈夫だった?」

 ミルが俺を心配そうに見てくる。

「ああ。それより、寒そうに見えるから、マントだけでもちゃんと羽織っていてくれ」

「平気なんだけどなぁ~」

 ハイエルフは、俺たち地上人より、遥かに体のつくりが優れた幻の種族で、暑さ、寒さにも、たちどころに適応出来てしまうのだ。

 明るい茶色の髪の、清楚な雰囲気のリラさんが、俺たちの元に来る。

「リラさん。魔法、助かりました」

 リラさんは微笑みながら俺を見る。

「たいしたこと無いですよ、カシム君」


 それにしても、何で俺たち4人がこんな雪山を、野獣と戦いながら登っている羽目になったのか。

 それは、とんでもない経緯からだった。



   ◇    ◇

 



 今から30年前のエレス暦3937年。

 砂漠の小国に過ぎなかったグラーダ国にアルバス・ゼアーナ・グラーダ三世が即位する。

 

 グラーダ三世は、即位してから、僅か5年の内に、圧倒的な個人の武を背景に、エレス大陸全土に覇を唱えた。その事から、人々はグラーダ三世を「闘神王」と呼び、恐れていた。


 しかし、世界を一度征服した後、再び元の支配者である王や代表者に国を戻した。

 その際に、様々な条約を結んだ事から、公には、その戦争を「世界会議戦争」と呼称しているが、戦争をする事が目的だったかのようなグラーダ三世の凶行に、人々は「グラーダ狂王戦争」または、「狂王騒乱戦争」と呼んでいた。


 その一連の戦争によって、旧カロン国を併呑したグラーダ国は、世界一の超大国となった。

 更に、グラーダ三世は様々な改革を行い、その統治は公正で、民に支持され、その後のグラーダ国は大いに栄え、また、世界一犯罪の少ない安全な国となった。


 グラーダ三世は、世界規模の大街道を敷設し、その中心に新王都であるメルスィンを据えた。



 グラーダ狂王戦争から25年。

 王都メルスィンは「交易都市」と呼ばれ、陸路、海路の重要な交易地点として、世界中から多くの人や物が押し寄せてくる巨大都市になっている。



 メルスィンの街並みは白い壁の家々が建ち並ぶが、屋根は色とりどりで、形も様々。そして、至る所に広場が有り、バザーや市場が開かれている、活気ある町である。

 元々何も無かった土地に都を築いたので、区画整理がしっかりされていて、道もわかりやすい、平坦な土地の街である。

 市場や商店街では建物と建物を色とりどりの布を渡して彩っているのも名物の風景である。この布は元々日よけの意味があったが、次第にカラフルになってきたのである。この光景もメルスィン名物の一つである。


 観光するに尽きないメルスィンの風景の中でも、特に人目を惹く巨大建築物が、グラーダ国の王城「リル・グラーディア」である。

 その城壁は「白亜の巨城」の異名に相応しく、白く巨大で、高さは25メートル。東西2キロメートル、南北2・8キロメートル。厚みにして40メートル。絶大な防御能力を誇っていると言って良い。

 だがこの城壁、防御に関係の無い装飾が多く施されている。

 城壁のそこかしこにレリーフが彫られていたり、彫像が飾られていたりして豪華で、美しい。

 無論、機能性や防御力は普通の城より遥かに高いが、その大きさと、美しさが、人々の目を惹きつけていた。

 

 それは城壁内の城にも言えることだった。

 各階、天井が高く作られていて、5階建ての建物だが、城壁より高く城下からもその白い美しい城を眺める事が出来た。

 

 城の1階部分は天井が高く、多くの人が訪れられるようになっていて、その分、装飾が多く施されている。

 庭園や中庭や噴水などもあり、訪れた人々の目を楽しませてくれる造りとなっていた。

 飾られている彫像やレリーフでも、特に多いモチーフが獅子である。これはこの城の城主グラーダ三世を表している。「闘神王」は別名「獅子王」とも呼ばれていた。

 

 2階、3階は機能性ある造りとなっていて、4階はこの国の心臓部である、玉座の間とそれに隣接する王の執務室がある。

 

 最上階である5階には王族の居住区画となっていた。屋上テラスには庭園も造られている。角張った造りの王城も、この5階は丸みを帯びた構造となっていて、それが、この城の美しさを際立たせていた。

 

 城の各所には高い尖塔もあり、その塔の上にグラーダ国の国旗が掲げられている。

 この国旗、世界でも希な単純な柄である。白地に黒の十字が入っただけの物で、先代国王からこの柄となっている。

 これは、先代国王の代からこの国に仕えることになった、生ける伝説の「白銀の騎士」の紋章となっている黒地に銀の十字に敬意を表して、国旗を逆の色の物に変更したと言うことだ。


 

 今や白亜の巨城「リル・グラーディア」は、世界の中心と言っても過言では無い。

 





 その王城「リル・グラーディア」に激震が走った。

 これは比喩的な表現では無い。ある事件の報告によって起こった、物理的な現象だった。

 「王女誘拐事件」である。



「何だと、貴様!!!!」

 世界の中心であるグラーダ国王城「リル・グラーディア」の更に中心とも言える玉座の間で、玉座から立ち上がった、かつての狂王、闘神王アルバス・ゼアーナ・グラーダ三世が、憤怒にその身を震わせていた。グラーダ三世の周囲の空気が危険な揺らめきを帯びている。

 

 玉座の間の天井の一部が、グラーダ三世の激しい怒気によって吹き飛んで、穴を穿っていた。


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