密着取材

賢者:そろそろ南部教会へ移動のお時間です


司祭:では引き続き密着という形で取材させて頂きます

   勇者さんと魔王さんの少し後ろに賢者マネージャーさんがいるという雰囲気で

   お願いしてもよろしいでしょうか?


勇者・魔王:はいよー


司祭:では記録用水晶カメラ回しまーす



――奉納漫才後、大聖堂に横付けされた馬車に乗り込む勇者と魔王。

  今や売れっ子の二人にゆっくりとしている時間などない。


勇者:何や、自分がその場でナレーションするんかいな


司祭:そうなんですけどもう始まってるんですけど


魔王:んなもん編集カットしたらええやろが

   続けろ続けろ


――休みはあるんですか?


勇者:いやないっスよ

   成人した日に教会に行って、お前が勇者やて指名されて

   その日からずっと漫才生活ですからね

   俺は魔王と違って元々お笑いを目指してた人間じゃないから

   ちょっとでも稽古せんとねぇー


――魔王さんは小さい頃からお笑いを?


魔王:勇者って神様の神託で選ばれますけど、

   魔王はそうやないんですよね

   僕は小さい頃から魔王に憧れてて、

   いつか勇者と漫才するんやって決めてましたから


――魔王決定戦を勝ち上がる自信はあったんですか?


魔王:うーん……、自信とかそんなん関係ないんですよね

   出るのが当たり前やったから

   友達とかとネタ見せ合ったりするんやけど、

   全員ライバルやからね

   それおもろいなー言いつつ腹では見下したりしてました


――魔王決定戦ではピンでの面白さのアピールが大事ですよね


勇者:俺は魔王より先に勇者に選ばれてたからずっと見てました

   自分の相方を決める大会やからね、審査員の一人として

   まぁ魔王こいつは群を抜いてましたよね


魔王:止めろやw


――そんな超絶おもしろピン芸人の魔王さんから見て、

  勇者さんはどのような存在ですか?


魔王:……お前またビビらせてほしいんか?


司祭:調子に乗りましたすみません


魔王:神に選ばれただけあると思ってますよ


――その神に選ばれた勇者がボケで、

  多くの魔王候補を蹴散らして勝ち残った魔王がツッコミ

  これはすんなりと決まったのですか?


勇者:ちょっと乱暴な言い方になってしまうんスけど


――お願いします


勇者:ボケって最悪アホな事言うたらええんです

   それこそ変な顔するとかダジャレ言うとか

   お笑いの知識なんかなくても大丈夫

   それは何故かと言うと、ツッコミが料理してくれるから

   ありふれた材料をツッコミが切って炒めてする事で

   そこに笑いという旨味がしみ込んでいくんです


――なるほど、勇者さんはお笑いを目指していなかった

  そして魔王さんはなるべくしてなった魔王である、と


勇者:そうです、そこが決め手というか必然です

   俺にはツッコミをする下地がない

   でも魔王にはもちろんある

   だから俺がボケで魔王がツッコミなんス


――魔王さんは自分がツッコミをすると思われていましたか?


魔王:いや、どっちでも良かった

   台本ほん書いて勇者に渡して、

   ツッコミのタイミングとかニュアンスとかを

   覚え込ませれば舞台上ではやれるからね


勇者:それではお客さんには見抜かれてまうやろ

   俺を人形の魔物リビングドールにするつもりか?

   お前に書かれた台本覚えてお前が考えたタイミングで

   ボケたお前に対してツッコミしろって

   それただのリビングドールやないか!


魔王:何で二回言うてん!

   もっとええ例えあったやろ!


勇者:見ましたか、これですわ!

   どんな小さいボケでもこいつがツッコむ事によって

   面白く見えるようになるんスもん

   これが世界一のツッコミですわ!


魔王:上手い事ボケられへんかった事を

   俺を立てる事によって誤魔化そうとすんの止めぇや


勇者:(言わんかったらバレへんやろが!)


――そんなツッコミの魔王さんが普段心掛けている事は?


魔王:ツッコミって知識がないとダメなんですよね

   勇者が何かを連想するようなボケ方をした場合、

   僕がその連想先の何かを知らないとツッコめない

   そもそもボケであるとすら認識出来ない事もある

   だから広く浅くでも良いから、

   知識はなるべくたくさん入れておくようにしてます


勇者:いっつも本読んでるんですよコイツ

   もう必死か! 言うてこっちがツッコむくらいですわ


魔王:それはお前が俺には全然理解出来ないような

   ボケをかまして来るからだろうが!


勇者:アカンのかい!


魔王:お前が昨日食いに行った食堂にいた女の子の

   モノマネに対して俺はどうツッコんだらええねん!


勇者:知るか!

   それがお前が選んだ仕事やろが!


魔王:……そうやけど


勇者:そこで引くなや俺が悪もんに見えるやろが!


司祭:おっと、そろそろ馬車が目的地に着くみたいですね

   一旦取材を止めさせてもらいます


魔王:お前むず痒い事言うなやー


勇者:だってホンマにそう思ってるしなー

   普段思ってへんかったらこんなセリフ出て来んでー


魔王:だから止めろってやwww


司祭:(仲良いなこの二人)


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