LESSON*2 火曜日

「きょーちゃん、いらっしゃーい!」

「店長、おじゃまします」

「この子?」

「そう。野暮やぼったいでしょー」


 火曜日の放課後。

 恭介に連れていかれたのは、ガラス張りのおしゃれな美容院だった。

 

 三十代半ばの筋肉質な男性が、恭介とオネェ言葉で会話している

 見た目がイケメンなだけに、なんだかとっても残念だ。


「こんにちは。トップスタイリストの、藪野やぶのです」

「はじめまして。菅原有紗すがわらありさです」

「あら、ちゃんと挨拶ができるのね。えらいわあ」

「店長、甘やかさないで」


 ピシャリと恭介がいさめる。

 今日も辛口だ。


「ふたりとも、お二階へどうぞ。お足元に気をつけてね」

「はい」


 おしゃれな内装に、ついきょろきょろしてしまう。


「アリサ、はしたないわよ。階段は、前を向いて登りなさい」

「はーい」


 恭介に叱られた。

 あわてて前を向いたのが、悪かったのか。

 次の階段にかけたはずの足が、ガクンと落ちた。


「アリサ!」


 二の腕を、強い力でひっぱられた。


「ケガは!?」


 色素の薄い瞳をめいっぱい開いて、必死の形相でつめよられる。


「……ない、です」


 恭介が、安堵あんどしたようにため息をついて、キッと眉をつりあげた。


「だから言ったでしょ! 落ちたらどうするつもり!?」

「ひえっ、ごめんなさい」

「あやまればいいってもんじゃないでしょ!」


 美形が怒ると、迫力がありすぎて、もはやホラーだ。


「あらあら、だいじょうぶだった?」


 店長さんが、パタパタと走ってくる。


「だいじょうぶです、すみません」


 騒がせたことを謝ると、店長さんがにこにこと微笑んだ。


「いいのよ。それよりね」

「はい」

「あなたたち、いつまで抱き合っているのかしら?」


 とっさに離れようとする私を、恭介がさらに強い力で抱きしめた。


「え! ちょ、恭介!」

「だから、階段で急に動くなって言ってるの!」


 服越しに感じる恭介の体温や、おもったよりガッシリしている体つきに、心臓がバクバクと音を立てる。


「手を貸して」


 言うが早いか、恭介が私の手をつかむ。

 手をつなぐのなんて、何年ぶりだろう。


「あんたが落ちると、皆が迷惑するの。二階まで、このままで行くわよ」


 ほっこりできる理由ではなかった。


「……はい」


 階下で店長が笑っているのが聞こえたが、恭介の顔がこわかったので、言うことを聞くしかなかった。


「そんなき古した靴だから、靴底ソールが滑るの! 明日、買いにいくわよ」

「……はい」


 恭介がこわいので、明日の放課後も空けておこう、ときもめいじる。


 ちなみに私のコケシヘアは、うるつやサラサラ、毛先内巻きの、モテ髪ミディアムボブに、変貌へんぼうげた。

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