第19話 11月17日 木曜日 午後

 相談スペースにお茶を運んでいく時に、玄関の方に人がいる気配がした。お茶を出し、お盆を給湯室に戻してから、小走りで様子を見に行く。

「お久し振りです。呼び鈴を押して下されば良かったのに」

「ガラスの部分からお盆が見えたから、慌てさせないようにと思って」

宮迫さんらしい気遣いだ。

「半年目訪問ですか?お茶を淹れましょうか」

「ご名答。白雪さんのところで飲んできたから良いよ。仕事は、順調そうだね。なによりだ」

「はい。開成の棚の整理も終わりました。書類も含めて今月8日に。私より、皆さんの方が変わったくらいですよ」

そう言って、レッドさんの板金がお客様に褒められたことを話した。クシさんが本当に塗装を覚えて、今ではレッドさんの補佐という意味で朱色さんとも呼ばれていることも。息子さんがお兄さんになり、自動車に興味を持たせる前に妹に関心が行ってしまったと苦笑いするポッポさんのことも。

 でも、一番変わったのはピノさんだった。3日前初めて大笑いする声を聞いて驚いたが、相変わらず述希には挨拶と連絡事項以外は口を聞かなかった。それでも、初めて会う人に接している時や突発的に何かを頼まれる時には、ピノさんの黙って見守る視線を感じていた。宮迫さんに変化を話せないのがもどかしい気もするが、それで良いと思っていた。

 一通り話すと、あのことが気になる

「白雪さんは、どうしていますか?」

「大丈夫だ。例の先輩が多忙になって、いじめられなくなったらしい。活き活きと働いているよ」

「良かったです!芹香さんは元気ですか?」

「ああ。年明けにまたレースに出るって」

述希も宮迫さんも穏やかな年末になると信じていた。


 ところが、例の先輩は恐ろしいことをたくらんでいた。仕事ができなくて年内で辞めさせられそうな男性にこう持ちかけたのだ。

「六角さんをいじめてくれない?そうすれば、辞めさせないでと嘆願してあげるわ」

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