第45話『豊蘆原中国攻略は最終局面に』

誤訳怪訳日本の神話・45

『豊蘆原中国攻略は最終局面に』  






 兵庫県の西向こうの本州を中国地方と言います。


 岡山 広島 鳥取 島根 山口 の五県です。



 日本の他の地方は、関東、関西(近畿)、東北、北海道という呼び方が一般的で、~地方という言い方はあまりしません。せいぜい天気予報で「明日の近畿地方のお天気」というくらいのことです。


 ところが、この五県に限っては、必ず『中国地方』と言います。


 石平さんが山陽地方の高速道路を走っていて『中国自動車道』の標識を見て驚いたとおっしゃっていました。


 自国での弾圧を恐れて日本にやってきたのに、なんの陰謀か、知らぬ間に中国の道に入り込んでしまった!?


 石平さんを驚かせたように『中国~』と書くと、非常に紛らわしいので、多くの場合『中国地方』と表現します。


 中国自動車道の場合は『中国地方自動車道』では長くて、語呂が悪いので付けられた例外的な表現だと思います。




 で、あの隣国と紛らわしい『中国』という名称を使っている事情は記紀神話に遡ります。




 神武天皇以前の神話世界は、大きく分けて二つの世界がありました。


 天照大神の天上世界である高天原(たかまがはら)。


 大国主が治める地上世界、豊芦原中国(とよあしはらのなかつくに)。


 中国地方の中国は、この中国(なかつくに)からきていることは、分かっていただけると思います。




 さて、その中国をアマテラスは、その支配下に置こうと人を遣わします。


 長男のアメノオシホミミ……こいつは、下界に下るのを嫌がって断りました。


 次男のアメノホヒは、逆にオオクニヌシに取り込まれてしまいました。


 三回目には、イケメンのアメノワカヒコを遣わし、ワカヒコはオオクニヌシの娘、シタテルヒメと結婚して、うまくやっているように見えましたが、シタテルヒメとの甘い生活に溺れて、事が進みません。


「もう、どうなってんのよ!?」


 アマテラスは、雉の精のナキメを遣わしますが、アメノホヒは、ナキメを射殺してしまいました。


 射殺した矢は、勢い余って高天原の池のほとりを散歩していたアマテラスの足許のまで飛んできます。


「え、なによ、暗殺者!?」


 拾い上げた矢をオモヒカネはが拾い上げます。


「これは、アメノワカヒコをに授けた矢ですじゃ!」


「なんだって?」


「いえ、だから……」


「あの弓矢を授けろって言ったのは、オモヒカネ、あんただったわよね!?」


 オモヒカネは、天岩戸のころからの賢い知恵者の老人でしたので、大事にしてきたし相談役として尊重もしてきましたが、命を狙われてはアマテラスも頭に来ます。


「責任とんなさいよ、責任!」


「は、はい……」


「どーすんのよ!?」


「ええと……」


「もう、これで三回目なんですけど! 三回目!」


「いえ、ですから……ええい、この矢、射った奴に当れえええええ!」


 そう言って、オモヒカネは矢を池の中に投げ返します。




 ブス!




 アマテラスの怒りとオモヒカネのヤケクソが籠められた矢は、超音速で飛んで行き、シタテルヒメと励んでいたワカヒコの背中に当って心臓を貫いてしまいます。




「あ~あ~ 殺しちゃって……どうすんのよ、このあと?」


 自分で焚きつけておきながら、アマテラスはオモヒカネに解決を迫ります。


「いたしかたありません、かくなる上は……天の石屋戸(アメノイワヤド)のイツノヲハバリ……あるいは、その息子のタケミカヅチノヲを遣わしまする」


「あの親子って、情け容赦ない殺し屋だったりするわよ(;゚Д゚)」


「いたしかたありません、事ここに至っては、いささかの荒療治を……」


「マジ……?」


「マジ」


「分かった……そのようになさい」


 タカマガハラの豊蘆原中国(トヨアシハラノナカツクニ)攻略は最終局面を迎えようとしていました。


 


 

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