第35話『ちょっと怪しいんですけどお(;一_一)』
誤訳怪訳日本の神話・35
『ちょっと怪しいんですけどお(;一_一)』
オオクニヌシは名乗りをヤチホコノカミと変えて越の国に向かいます。
ヤチホコとは沢山の武器を持っているという意味で、武神としてのオオクニヌシの性格を現しています。
オオクニヌシは他の日本神話の神々と異なって、沢山の名前が付いています。
ご先祖であり妻のスセリヒメの父であるスサノオは、後にも先にもスサノオの名前しかなく、姉のアマテラスも同様です。
素人考えですが、オオクニヌシの姿が定着する過程で、いろんな神さまの話が一緒くたにされたのではないかと思います。
なぜ一緒くたにされたのかと想像しますと、以下のように妄想します。
オオクニヌシを頂いていた西日本の地域は大和朝廷に対立する大きな勢力であったので、大和政権に帰順させるにあたって特別扱いをされた。
特別扱いなので、元々出雲にあった神々や大和の神々の話がまとめられてオオクニヌシという神格になった。
だから、出雲を治めていた首長は国造として残され大和政権からも敬意を払われて、令和の今日でも天皇家と並ぶ古い家系として出雲大社の神主を務めておられると想像します。
日本人は、一般的に大虐殺をやりません。
相手を服属させても、地方長官として残して、彼らの文化や信仰を汚すような真似をしません。
弥生時代の遺跡から銅鏡や銅鐸がまとめて出てくることがしばしばあります。
おそらくは、他の集落や部族を従えた時に取り上げた、あるいは帰順のしるしに差し出されたものでしょう。
世界的に見ると、服属した者の神は否定され、時には邪神、悪魔の扱いになり抹殺されます。神々の依り代や神具は壊されたり、金銀なら鋳つぶされて、金貨や装身具に鋳なおされます。
日本では、祭祀権を取り上げるというか、より高次の神に統合することで継承されます。
この感覚が、後に仏教が伝来した時には神仏習合という便利な考え方になり、ほとんど平和的にまとめられたのではないかと思います。たとえば、天照大神(アマテラス)は大日如来の垂迹(すいじゃく=仮の姿)であったなど。
話をオオクニヌシに戻します。
スセリヒメはスサノオの娘だけあって、非常に気の荒い女神であります。
亭主のオオクニヌシが浮気を目的に越の国まで出かけるとあっては、決して許さなかったでしょう。
「ちょっと、あんた、馬を引き出させて、いったいどこに行くのよ!?」
「いやあ、狩りだよ、狩り。俺って『ヤチホコノカミ』って武神でもあるんだからさ、平和になったとは言え、そういう精神を忘れちゃいけないと思うんだよ。だから、武神のたしなみとしてというか、腕が鈍らないためと言うか、部下の神々に示しを付けるためと言うか……ま、そんなノリでさ」
「ちょっと怪しいんですけどお……いつになく多弁になってるしい」
「違う違う、久々の狩りでさ、ちょっと興奮してんのさ。そ、そう、おまえを背負ってお義父さんのところから走って逃げたときみたいにさ。いやあ、あの時のスセリちゃんは可愛かった!」
「あ、それって、今は可愛くないって間接的に言ってない?」
「違う違う(^_^;)」
「そ~お、首筋を汗がつたってるんですけどお」
「あ、これは、気負ってるからっすよ。久々の狩りってゆったじゃん」
「そ~お?」
「とにかく、お義父さんがそうであったように、俺も武神の端くれ、腕がなまってはお義父さんに申し訳が無い。どうか、この俺の男を立てさせてくれよ!」
「そ、そう……そこまで言うなら。じゃ、早く帰って来るのよ」
記紀神話の中では、原則的に女神は移動しません。あちこちほっつき歩いているのは男神ばかりです。
アマテラスは高天原ですし、イザナミは死んでからは黄泉の国です。
その点は、日本神話をモチーフにしたアニメも守っていて、記紀神話の女神の名前を付けられたキャラは移動しません。
『ノラガミ』でも大活躍する女神は『毘沙門』という外来の仏神の名前にしています。
さて、なんとかスセリヒメを言いくるめたオオクニヌシ、いや、ヤチホコノカミは一路腰の国を目指します途中アリバイ工作の狩りを怠ることなく、やがて、ヌナカハヒメの屋敷の門前にたどり着きます……。
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