第34話『スセリはスサノオの娘だぞ』
誤訳怪訳日本の神話・34
『スセリはスサノオの娘だぞ』
かつて出雲市と出雲大社のある大社駅を結ぶ大社線というのがありました。
国鉄時代の盛んな頃は、大阪あたりからも直通列車があったといいます。
名前の通り出雲大社に行くことを目的として作られた路線で、駅を降りると、一本道の向こうに出雲大社の鳥居が見えました。
ご存知の通り縁結びの大元締めの神社で、巫女さんのグレードが高いと聞き及び、いささかけしからん動機で友人四人で大阪から訪れた事があります。
聞き及んだ通り、玉砂利の境内を掃いている巫女さんも、お札・お守りの販売をしている巫女さんも素敵な女性でありました。
出雲大社の本殿は伊勢神宮と並んで古式ゆかしい神社建築なのですが、創建当初は、本殿を支える柱の高さが、今の数倍あって、100メートルほどもあったといいます。
まさに、スサノオが最後に叫んだ「高天原にも届くほどに高くて千木のある新宮を建てろ!」の新宮のようです。
出雲大社の宮司さんは千家という姓で、その家系は天皇家の次ぐらいに古いと言われています。
そして、その肩書は出雲大社宮司の他に、出雲の国造(いずものくにのみやつこ)の名乗りがあります。
国造とは、古代の律令制において地方豪族(もとは大和政権に敵対していた勢力で、帰順して地方長官たる国造の姓(かばね)が与えられものです。
大方は律令制が崩壊した平安時代には姓ごと滅んでしまいましたが、出雲大社のある島根県では、まだまだ現役なのです。
地元の元日の新聞には、新年を寿ぐ挨拶が県知事と共に国造たる宮司さんのそれが、それも『国造』の肩書で並び立ちます。
その出雲大社に祀られているのが、大国主命、つまり、この段で主役のオオクニヌシ(元のオオナムチ)であります。
こうやってスサノオの娘であるスセリヒメと結ばれたオオクニヌシですが、彼にはすでに妻が居ます。
そうです、因幡の白兎の下りで、ヤソガミたちを袖にしてオオナムチの妻になったヤマガミヒメです。
父のスサノオに似て激しい気性のスセリヒメはなにかと本妻のヤマガミヒメをいじめて、ヒスを起こしては辛く当たります。
「もう、やってられません!」
ヤマガミヒメは、心が折れてしまい、生まれたばかりの子を残して因幡の国に帰ってしまいます。
「どおよ……もう、これからは、わたしの事だけ見てなきゃ承知しないわよ(#-_-)!!」
「わ、わかったよ(;゚Д゚)」
話がそれますが、友人のお母さんがおっしゃっていたことが思い出されます。
「息子に彼女ができたらね、できるだけ向こうの親御さんに会うことにしてるの」
子どもと言うのは、親のコピーですから、若いときは違っても歳をとると似てきます。
姿形もそうですが、気性が似てきますね。
むろん例外はあって、親を反面教師として自分を磨く者もいますが、まあ、高い確率で似てきます。
スセリヒメと相思相愛であったころのスサノオの仕打ちを見ていれば想像がついたと思います。
想像がついたのなら、オオクニヌシはヤマガミヒメとスセリヒメが上手く行くように手を打つべきでした。
記紀神話が成立した時代、豪族たちは一夫多妻で、むろん神さまの世界もそうです。
そういう気配りや甲斐性は、男としての常識でした。
「ああ、どこかに、優しい理想の女の子は居ないもんかなあ……」
オオクニヌシは、自分を省みることもなく、ただただ理想の女性を夢想するばかりです。
そんなある日、宮殿の回廊でため息をついていると、一羽の鳥のさえずりが聞こえてきます。
『越の国にヌナカハヒメって気立てのいいお姫さまがいるよ』
鳥のさえずりを、そう聞いてしまったオオクニヌシはスセリヒメに見切りをつけて出かけてようとします。
「ちょ、あんた、どこへ行くのさ!?」
立ちふさがるスセリヒメに、シレッとして言います。
「ちょっとね、狩りに行ってくるから」
「そう……一狩りしたら、とっとと帰ってくんのよ」
亭主にストレスが溜まっているのも承知しているスセリヒメでしたから、モンハンの要領で亭主を送り出してやりました。
はてさて、この夫婦の行く末やいかに?
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