第8話『ヨモツヒラサカ 女は怖い! その③三度のピンチ』
誤訳怪訳 日本の神話・8
『ヨモツヒラサカ 女は怖い! その③三度のピンチ』
黄泉醜女(よもつしこめ)たちが、すぐ後ろまで迫ってきました!
イザナギは髪に付けていた「黒い木の蔓つるの輪(シュシュのようなもの)」を投げました。
それは、瞬くうちに、たわわに身を付けた野葡萄の木に変わります。黄泉醜女たちは一せいに群がって、ムシャムシャベチョベチョと野葡萄を食い漁ります。
その間にイザナギは、いくらかの距離を稼ぐことが出来ました。
しばらくすると野葡萄を食べつくした黄泉醜女たちが再び背後に迫ってきて、イザナギは心臓バックンバックンで生きた心地もしません。
イザナギは、次に髪にさしていた櫛の歯をバラバラと投げました。櫛の歯はたちまちみずみずしいタケノコに変わり、黄泉醜女たちは腹ペコの鹿か熊のようにタケノコに群がりハグハグボリボリと食べ始めました。
再びイザナギは距離を稼ぐことができました。
「え、もう食っちまったのか!?」
黄泉の国の国境である黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本までたどり着き、もう少しで生者の国に戻れそうになったとき、また黄泉醜女たちは背後に迫ってきました。
「くそ! もう息が続かねーーーー!!」
危うく死亡フラグが立って、バッドエンドになりそうになって、道端の桃の木が目につきました。
「こ、これでも食らえーーーーー!!」
必死のパッチで桃の実三つを後ろに向かって投げつけます。
「「「「「「「「「「も、も、桃おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」
桃に食らいつき、ブシュグチャグチャグチュグチュと汁を飛ばしながら桃に食らいつきます。
「こ、これで塞いでしまうぞ……オーーーーリャッ!!!」
イザナギは路傍にあった大きな石を持ち上げて、黄泉の国の出入り口に蓋をしてしまいます。
この石のことを千引岩(ちびきのいわ)といいます。
なんとか、黄泉醜女たちから逃げ延びることに成功しました。
ヤリーーーー!!
この呪的逃走(マジックフライト)にはキーワードがあります。
着目の仕方でキーワードは見え方が違いますが、わたしは以下のように考えます。髪と櫛と桃の三つです。
いずれも古くから霊力が籠っているとされています。特に桃は桃太郎の桃に通じますね。
桃太郎は大きな桃の実から出てきますね。古くから邪気を払う力があるとされてきたことの現れでしょう。
桃の実がエクソシストの聖水のように効き目があると言うことは、奈良の纏向遺跡から桃の実がまとまって出てきたことや、関ヶ原の戦いで徳川家康が本陣を置いた桃配山(壬申の乱で勝利した大海皇子が邪気払いに部下たちに桃を配った)の名前や、鬼を退治する桃太郎の名前に現れています。
また、二月の節分に撒く豆は、本来は桃の代用品だと言われています。正式な豆まきの豆は神社において神主が祈祷し、黄泉平坂でイザナミが投げた桃の霊力を豆に下ろすことによって鬼退治の力が宿るものだとされています。ちょっとビックリですね。
三という数字。
イザナギは逃走中三度のピンチに陥り、それを乗り越えました。最後に投げた桃は三つでした。
三には、特別な意味があったようです。
三というのは座りの良い数字です。例えば、三脚。二脚では立ちませんし、四脚では、よほどつり合いがとれないとガタガタになります。机がガタついて、脚の長さを微調整しなければなりません。
三脚は、床や地面がデコボコしていても、きれいに安定して置くことができます。
いろんなものが三または三の倍数の数字でできていますが、機会があれば触れるということにしておきます。
黄泉醜女たちが食べ物に釣られて、イザナギを殺し損ねるということは注目していいと思います。
黄泉醜女はゾンビなのですが、バイオハザードを思ってください。ゾンビたちが葡萄やタケノコや桃を目の色変えて食らいついている姿と言うのは、どこかユーモアがあります。一頃流行った大食いタレントさんが、ほとんど女性であったこと等と合わせて考えれば、面白い文化論になるかもしれません。
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