第5話 守護神

穏やかな朝だった…。

梅雨の晴れ間で昨夜から天気もイイ。

そんな静かな公園に『ウッ!ハッ!!』という声が響き渡っていた…。


和樹 「ん~…。(起きる)なんだよ朝っぱらから…。」


身を起こすと晴也が妙なダンスを踊っていた。

周りには不思議そうなカオで見ているジョギング途中の人や、犬の散歩をしている人が居る…。


和樹 「あのアホ…。毎朝踊らないと気がすまないのかよ…。」(知らんぷりで顔を洗いに行く)


そう、二人は昨夜公園に泊まったのである。

着の身着のまま飛び出して、何も考えていなかったからである。

暫くするとダンスを終えた晴也が和樹のもとへ戻ってきた。


和樹 「何で毎朝踊る必要があるんだ?」(缶コーヒーを晴也に渡しつつ)

晴也 「サンキュ。(受け取る)いやぁ、起きるとテンション上がってさぁ。」

和樹 「俺は逆だ。目が覚めるまで暫くかかる…。」

晴也 「でもさ、コーヒーなんか買ってていいんか?」

和樹 「なんで?」(飲みつつ)

晴也 「だってさ、金が…。」

和樹 「無くなったら無くなった時だ。」

晴也 「そ…。でさ、目的を決めた方がイイと思うんだ。」

和樹 「目的?」

晴也 「そう。俺も何かイキオイでついて来たけどさ、これから何をするかの目的がないと飢え死にするぜ。そもそもどうして家を出ようと思ったんだ?」

和樹 「それは…。」


そして和樹は全てを話した。

妙なヤツラの目的。そして和樹の本当の両親の事。


晴也 「成る程ね…。」

和樹 「なぁ、木下杏子って女知ってるか?」

晴也 「木下?ってあの木下かな?」

和樹 「どの?」

晴也 「アタマ良くて、テストでも学年でトップの常連だったコだよ。それが突然姿を消した。知らないのか?ニュースにもなったんだが。暫く捜索されてたが、数ヶ月経っても発見出来なかったらしいんだ。目撃情報もなくてな。で、捜査は打ち切りになった。今年の初めくらいのハナシかな。」

和樹 「ソイツの名前が木下杏子?」

晴也 「だったと思うけど。テレビ見てないのか?それ以前に同じ学校なのに…。」

和樹 「テレビは見ねぇよ。リビングにはオジサン達が居るからな。それに学校に居ても情報源は晴也だけだし。でも妙だな…。そんだけの事件になったんなら晴也とそのハナシをしても良さそうなんだが…。」

晴也 「何か全体的にそのハナシはタブーみたいな雰囲気があったし…。そういうウワサだって程度だったしな…。」

和樹 「そっか…。」

晴也 「で?コレからどうする?」

和樹 「そうだな…。何か手がかりが欲しいな。」

晴也 「一回石川さん家に戻ってみたらどうだ?」

和樹 「(タバコに火をつけて)なんで?」

晴也 「オジサンに聞いてみるんだよ。和樹のお父さんの事。」

和樹 「聞こうとしたさ。でも教えてくれなかった。それに、もう帰るツモリはない。」

晴也 「…。」

和樹 「?…晴也?」

晴也 (いつの間にか眠っている)

和樹 「んだよ…自分からハナシふっておいてよ…。」


杏子 「あぁ、私が眠らせたの。」


和樹 「!!!」

杏子 「アナタまだココら辺ウロウロしてるの?」

和樹 「関係あるか?」

杏子 「あるから聞いてんじゃないの。」

和樹 「ソレよりも、よく考えたらオマエが俺の事を知ってるハズが無いんだよ。どうして俺が石川の家に引き取られたと知っていた?」

杏子 「どうしてって言われても…知ってるものは仕方ないでしょ?」

和樹 「誰に聞いた?」

杏子 「そんなの、誰かにアナタの事を聞けば教えてくれるわよ。」

和樹 「どうして俺にまとわりつく?それに、オマエは今年初めに失踪した木下杏子なのか?」

杏子 「一つ目の質問に対する答えは言えない。二つ目の質問に対する答えは『YES』よ。」

和樹 「どうして言えないんだ?」

杏子 「まだ時期じゃないから。」

和樹 「失踪したヤツがイキナリ戻って来てラブレターか?笑わせるな。」

杏子 「アラ。好きなのはホントよ?」

和樹 「何故晴也を眠らせる?」

杏子 「質問ばかりね。そんなの見られたらマズイからに決まってるでしょ?それともう一つ。」

和樹 「?」

杏子 「本当に連れて行くツモリなの?」

和樹 「生憎とまだ行き先は決まってないんでね。」

杏子 「何の関係もないのに?アナタに付いて行ったらそれこそ危ないわよ?」

和樹 「コイツが付いて来るって言ったんだ。嬉しい事も言ってくれた。危ないのは分かってる。俺が何とかするさ。」

杏子 「何様のツモリ?あの程度のチンピラ三人もシマツ出来ないクセに。」

和樹 「何で知ってる?」

杏子 「私はアナタの守護神だからね。」

和樹 「フザけんな。」

杏子 「ハナシが逸れたけど、今のアナタにはムリよ。彼を死なせたいのなら連れて行けばイイわ。」

和樹 「あの時は油断していたんだ。」

杏子 「そう、んじゃあさ、敵って『今から攻撃するぞ!』って言ってから攻撃してくるもんなの?油断してない状態になってから攻撃してくれるもんだっけ?」

和樹 「チッ…。」

杏子 「いい?アナタは守られる側の人間なの。そんなヤツが人を守れると思う?思い上がるのも大概にしなさいよ。」

和樹 「俺が?守られる側の人間だと…?」

杏子 「試してみる?全力で殴りかかってきなさい。」

和樹 「ソコまで言われて黙ってらんねぇな。ケガしても知らないからな。」(と言って構える)

杏子 「構えは立派ね。」

和樹 「うるせぇんだよっ!!」


次の瞬間、和樹は地面を蹴って杏子の方へ跳躍していた。

だが、既に杏子はソコに居なかった…。


和樹 「なっ…!?」(着地して体勢を整えようとする)

杏子 「(和樹の後ろから和樹の首に木の枝を当てて)ホラ。ね?」

和樹 「クソ…。なんでだ?ドイツもコイツもムチャクチャな動きしやがって…。」

杏子 「アナタの動きは真っ直ぐすぎるのよ。分かったでしょ?まだアナタは弱い。」

和樹 「…。」

杏子 「カレは連れて行かない方が身のためよ。もう大事な存在は失いたくないでしょ?」

和樹 「…。」


そして晴也が目を覚ますのを待つ和樹。


晴也 「ん~…。」

和樹 「晴也。」

晴也 「ん?寝てたんだ…。」

和樹 「晴也。俺はヤッパリ一人で行く。」

晴也 「何言ってんだよ!」

和樹 「今ならまだ晴也は学校へ復学できるかもしれない。」

晴也 「言ったろ!?俺は和樹と一生友達だって!」

和樹 「あぁ。俺も同じ気持ちだ。だからこそ連れていけないんだ。」

晴也 「俺は…和樹を助けたいんだ!」

和樹 「なら尚更残ってくれ。俺は大丈夫だから。」

晴也 「和樹!」

和樹 「イイか?一回しか言わないからよく聞いておけよ?」

晴也 「?」


和樹 「オマエ以上の友達は居ない。今までも、これからも、ずっと親友だ。これは俺の戦いなんだ。晴也の気持ちは痛いほどよく分かるし、涙が出るほど嬉しい。でも、一緒には行けない。またココに俺が戻って来たら、一緒に酒でも飲もう。約束だ。」


晴也 「和樹…。」

和樹 「な。」

晴也 「分かった。けど、携帯で連絡取れるようにしいといてくれよ。」

和樹 「だから持ってねーってば。」

晴也 「ちょっと待ってろ。」(ドコかへ走っていく)


=数十分後=


晴也 「ホレ。」(携帯を渡す)

和樹 「なんだ?」

晴也 「俺からの贈り物だ。番号やアドレスは変えてもイイ。しかし、俺にだけは教えるんだぞ?」

和樹 「…。恩にきる!」

晴也 「おう。」

和樹 「行って来る。」

晴也 「気ィつけて。」


そして和樹は一人歩き出す。


和樹 (目に涙をためている)

杏子 「どう?気分は。」

和樹 「イキナリ出て来て話し掛けるな。」

杏子 「イイ友達ね。」

和樹 「あぁ。最高の友達だ。」

杏子 「ちゃんとアナタの言う事を理解して、留まってくれた。」

和樹 「サンキュ。」

杏子 「なにが?」

和樹 「アンタの言葉がなければ俺は晴也に甘えてた。そして危険なメにあわせてただろう。」

杏子 「不気味なぐらいスナオね。」

和樹 「俺だって普通に礼くらい言う。」

杏子 「そりゃ失礼。」

和樹 「頼むぜ?守護霊さんよ。」

杏子 「(和樹の頭を殴って)霊じゃない!」

和樹 「だってウサンくせーんだもん。」


和樹はこの街を出る事にした…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る