「今、帰ったぞ」

 その声を聞きつけた秀之進が、ぼろ長屋の奥から駆け出てきた。

 「父上ーーーっ! 大変でございます!」

 「なんとした? 騒がしいぞ、秀之進。何事だ? 留守中、何事も無かったか?」

 「有りました! とんでもないことが有りました! 家の裏にこのような物が!」

 秀之進が父に向かって差し出した掌には、純白の粉が乗っていた。重右衛門は「うむ」と唸り、次いで人差し指をペロリと舐めたかと思うと、その粉を指先に取って口に持っていった。・・・甘い。それも極上の上白糖だ。

 父の大胆な行動を目の当たりにした秀之進が、目を丸くして尋ねる。

 「これは何でございますか、父上?」

 「砂糖だ、秀之進。お前も舐めてみるとよい」

 秀之進は恐る恐る舌を出して、掌の上の白い粉を舐めてみた。すると、おっかなびっくりしていた目に、みるみる喜びの様なものが溢れ出す。

 「わぁ、甘いでございます! 父上! 甘いでございます!」

 「して、これが家の裏に?」

 「はい、父上。壺に入って、こーーーんなに沢山!」

 ツボの大きさを伝えようと腕を大きく振り上げると、ちょうど万歳のような格好になった。その弾みで掌の砂糖がこぼれて、秀之進の頭の上に降りかかる。

 「うわっ、ケホッケホッ・・・」

 その様子を見た重右衛門は顔をほころばせた。

 「そうかそうか。そんなにか」

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