吸血鬼は牡丹萬華に微笑む――惑乱の人①――

せとかぜ染鞠

第1話 牡丹萬華村へ

 血を吸われてもいいから永遠の命が欲しいと言う。誠皇晋せいのうしんの見た映画では餌食となった犠牲者は吸血鬼と化して時間の無限を彷徨うらしい。

 終わりのない人生などいっそたえられないだろう。一瞬でも生きていることがしんどくてつまらない。ただ苦しいのや痛いのが嫌だから死なないでいるだけだ。

 だが僕の見た映画では犠牲者は恍惚境のなかで死に至る。快感を覚えながら死ねるなどという現象がありうるだろうか。

「セイノシン――」

「おう?」濃い一文字眉と異国情趣ある両眼との狭い間隔が押しひろがった。

「これから見にいく吸血鬼はどっちのタイプだろう。死ぬのか生きるのか――」

「吸血鬼は死なねぇだろ。いっぺん死んでから生きなおしてんだからよ――違うか」短髪を搔く。「死んだまま生きてんのかな。どっちだ?」

「そうじゃなくて……」もういい。「会ったら聞いてみれば,本人に」

「インタビューすんのか! 吸血鬼に? そんな映画あったっけ――まずいぜ,パクリじゃねぇか。ま,いいか。この仕事自体がパクリみてぇなもんだからよ」

 読者から寄稿された情報を調査して真相を報告する――関西系テレビ番組の内容を模倣するウェブサイトに四国の山間地帯で吸血鬼を見たという噂が書きこまれた。調査依頼を受けたフリーライターの加護かご誠皇晋は居候の僕を四輪駆動に乗せて瀬戸大橋を疾走し海の視界に沈むころ杉の密生する山々の連なりに紛れこんだ。

 のぼりの道が30分以上続いていた。

 次の峠をくだれば吸血鬼の出るという牡丹萬華村ぼたんまんげそんへと入るらしい。

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