第12話

2014年10月4日のことであった。


あいつが横恋慕しているメアリーさんの結婚式が、オークパークの近くにある教会のチャペルで挙行された。


チャペルでは、挙式にご招待された新婦新郎さんの共通の友人知人のみなさまとご親族さまたちが挙式が始まる時を待っていた。


メアリーさんとカレの挙式は、予定通りに11時頃から始まった。


この時、あいつがチャペルにやって来た。


あいつは、ワーッと叫びながらサイダンに向かった。


そして、新郎さんをボコボコに殴りつけた。


その後、メアリーさんを奪って教会から逃げた。


大混乱におちいったチャペルで、出席者同士の乱闘事件が発生した。


その頃でありました。


メアリーさんと同じ日に、アタシとあいつの挙式が行われる予定であった。


挙式のセッティングをした社長さんが大パニックを起こした。


あいつがメアリーさんの挙式をぶち壊したと言う知らせを聞いた社長さんは、ワレを忘れてのたうち回っていた。


その頃であった。


あいつとの結婚をボイコットしたアタシは、ドラッグストアでバイトをしていた。


この日に入る予定であった別のパートさん(21歳・女子大生)が『地下鉄が止まったから休ませてください…』と言うて、ズル休みした。


ズル休みによる急なシフト変更なんて、どーかしてるわよ…


そんな中で、社長さんがやって来た。


社長さんは、あいつとメアリーさんの結婚式をわやにしたことをアタシに告げ口した。


アタシは社長さんに『知らないわよ!!』と突き放す声で言うてから、こう言い返した。


「あのね!!アタシはあいつのことは見離したから、あいつがどうなろうとも助けないから…よくもアタシをいじくり回したわね!!もう、許さないわよ!!」


社長さんを怒鳴りつけたアタシは、陳列ケースに少なくなった商品の補充に取り組んだ。


社長さんは、メソメソメソメソ泣きながらアタシ言うた。


「アリョーナさん、こっちはすごく困っているのだよ!!」

「そんなこと、アタシに関係ないわよ!!」

「メアリーさんの結婚相手の男性は、明日生まれ故郷のタンパ(フロリダ州)に帰るんだよ…」

「フーン、メアリーさんの新郎さん、会社やめるのね…安月給でカイゴロシはごめんだからやめるのねぇ~」

「違うのだよぅ~実家の牧場を手伝うから会社をやめるのだよぉ~」

「そんなのウソよ…(ボソッ)」

「アリョーナさん…」

「これでわかったでしょ…あいつが好きな女はメアリーよ…あんたは、それを分かってあいつとメアリーを別れさせた…あんたはサイテーねぇ…」

「アリョーナさん、それは言い過ぎだよ~」


社長さんは、ますます泣きそうな声で困る困ると言うた。


だからアタシは、あつかましい声で社長さんに言い返した。


「あんたよくもアタシをいじりまわしたわね!!ふたりの意向も聞かずに、トントン拍子でセッティングしたからトラブったのよ!!」

「だから、悪かったと言ってるよぉ…」

「それが人にあやまる態度かしら!!従業員さん同士で恋愛をしている人たちがいる中で、なんであいつだけは社内恋愛ダメと言うたのよ!?」

「そんなことは言うてないよぉ~」

「だったら、あいつが社内恋愛ができるようにフォローしてあげなさいよ!!」

「するよぅ…だけど、マーティーさんは会社で必要だから…」

「要するに、あいつは責任者だから社内恋愛はダメだと言うのでしょ!!」

「そんなことは言っていないよぉ…」

「あんたね!!アタシの言うことにいちいち反論しないでよ!!」

「していないよぉ。」

「しているわよ!!」

「アリョーナさん。」

「何よ!!アタシにケンカ売る気なら、いつでも買うわよ!!」

「アリョーナさん、こっちは困っているのだよぅ~」

「そんなこと、知らないわよ!!」

「マーティーさんは、わが社で必要な人なんだよ…」

「うるさいわね!!ハラスメントボケジジイ!!」

「ワシのどこがハラスメントボケジジイだ!!」

「ボケジジイをボケジジイと言うたらいかんのか!?カイゴロシ魔!!」

「ワシはカイゴロシ魔ではない!!社内は今、苦しい台所事情を抱えているのだぞ!!」

「それは、あんたの浪費グセが原因でしょ…会社のおカネでヘージツゴルフやアメリカの大統領選挙や中間選挙の候補者に大金をかけたり、州政府の関係者との接待する…そんなことをするから火の車になったのでしょ…ロウヒ魔!!」

「アリョーナさん、私は一生懸命になってね…」

「あのね!!アタシはものすごく怒っているのよ!!あんたね!!あいつに言っておきなさいよ!!そんなにメアリーさんのことが好きなら、アタシに対して1億ドルを払ってから一緒になってとねなりなさいよと…アタシ、近いうちに訴訟を起こすから!!」


社長さんに怒鳴り付けたアタシは、奥の部屋に逃げて行った。


その一方で、あいつに結婚式を止められたメアリーさんと新郎さんは、ひどく傷ついた。


今回の一件で、メアリーさんは会社をやめた…


新郎さんは、あいつに対して怒りをあらわにしてた。


あいつは、教会から5キロ離れた公園でメアリーさんと共に発見された。


しかし、挙式は中止となった。


メアリーさんの新郎さんは、あいつに花嫁さんを取られたことを理由に勝手に会社を休んだあげくに、行方不明になった。


メアリーさんの慶びの日を台無しにしたあいつは、会社に居づらくなった。


アタシはこの時、アメリカ社会で生きて行くことに限界を感じた。


西海岸へ移住することを夢みてがんばって働いたのに、今回の一件でアメリカ社会で生きて行くことがイヤになった。


アタシは、一定のメドがたったらアメリカ合衆国をすてると決意した。


それから8日後の10月12日のことであった。


メアリーさんは、あいつに挙式を妨害されたことを苦に会社をやめた。


婚約者のカレは、勝手に会社を休むなどの問題があったので、会社からチョウカイメンショク処分を喰らった。


社内では、コンキョのないうわさが飛び交っていた。


あいつは、アタシに激しいうらみを募らせていた。


同時に、社長さんが勝手にお見合い結婚を進めたことを激怒していた。


どうにかしてあいつの不満をやわらげたいと思った社長さんは、あいつを誘った。


改めて事情を聞いた上で、待遇面の改善したいと言うけど、どこのどこまで社長さんはあいつをいじりまわすのか…


社長さんとあいつは、トリンビュータワーの近くにあるカフェレストランに行った。


ランチを食べながら、ふたりは、会話を交わした。


「まいったよ、メアリーさんは会社をやめたし、メアリーさんの婚約者のカレは会社をやめて行方不明になったあげくに、チョウカイメンショク処分だよ…メアリーさんのご両親がカンカンに怒っていたよ…マーティーさん…マーティーさんはそんなにアリョーナさんとの結婚をしたくないのかね!?」

「ええ、その通りです。」

「どういうところが不満なのか?」

「そんなの聞いてどうしたいのだよぉ~」

「ワシは、マーティーさんを助けたいのだよぉ~」

「ふざけんなよ!!キレイゴトばかりを言うのじゃないよボケジジイ!!」


あいつの言葉に対して、社長さんは困った声で言うた。


「マーティーさん…マーティーさんはそんなにメアリーさんと結婚がしたかったのか?」

「本当です…最初は憧れだった…けど…日増しに想いが高まった…それをあんたが止めたからオレはだめになった!!」

「悪かったよぉ…マーティーさんに社内恋愛を止めたことについてはあやまるよ…マーティーさんは、クレームの受付の仕事で一番大事な役割があるから…」

「どんなにあやまってもダメだ!!オレの結婚適齢期を返せよ!!」

「それじゃあ、どうすればいいのだね?」

「ふざけんなよボケジジイ!!結婚したいと思ったけど、やめた!!今回の一件は、キサマが全部悪いのだよ!!分かっているなら、ドゲザしてわびろよ…ボケジジイ…」


吐きすてる言葉を言うたあいつは、右足で席をけとばしたあと店から出て行った。


社長さんは、ボーゼンとした表情でたたずんでいた。


その頃でありました。


アタシは、朝7時から11時までホテルのリネン、昼はドラッグストア、夜はスポーツバーのウエイトレスで合計56ドル20セントのお給料を稼いだ。


56ドル20セントのお給料だけでは足りないので、スタジアムで売り子のバイトで日当60ドルのお給料を稼いで、おカネをせっせとためた。


アタシは、アメリカ合衆国本土をすてて、どこかちがう国で幸せに暮らすことを決意した。


クリスマスの三連休の前を出国日と設定して、おカネをかせぐことにした。


10月16日のあった。


ボストンからアタシのことを心配して、エレンがシカゴへやって来た。


アタシは、朝のバイトを終えたあとグランドパークへ行った。


そこでエレンと会った。


場所は、公園内にあるバッキンガム噴水の広場にて…


アタシとエレンは、公園のベンチに座ってお話しをしていた。


「あのねエレン…アタシ、アメリカ社会で生きて行くことがつらくなったの…おカネがたまったら、クリスマスの三連休の前の日に出国することにしたから…それまでにあいつの家を相手取って、訴訟を起こす…あいつの家から損害賠償金1億ドルを受け取ったら…その足で出国するから…」

「アリョーナ、あんた、あの時アタシに西海岸の州へ行くと言うたわねえ…それなのに、なんで行かなかったのよぉ~」

「行きたかったけど、途中で気持ちが変わったのよ…アタシ、アメリカ社会で生きて行のがイヤなのよ…だから、ちがう国へ行きたいのよ…もうサイアク…」


アタシは、頭を抱え込んだ。


エレンは、アタシに言うた。


「ちがう国へ行きたいって…アリョーナはどう言った国へ行きたいのよ?」

「幸福度が高い国よ!!」

「幸福度が高い国に行きたいのね。」

「そうよ。」


エレンは、ひと間隔あけてからアタシに言うた。


「それだったら、一度ハバロフスクに帰ってみたらどうかな?」

「それはどう言うことよ!?エレンが言う幸福度が高い国と言えば、ハバロフスクだと言うのね!!」


エレンからハバロフスクに帰ってみたらと言われたので、アタシは怒った。


エレンは、困った声でアタシに言うた。


「アリョーナ、ハバロフスクへ帰るのがそんなにイヤなの?」

「ゼッタイにイヤ!!」

「アタシは、アリョーナがつらかったら生まれ育った故郷に一度だけでも帰ってみたらと言うたのよ…」

「アタシには、生まれ育った故郷なんかないわよ!!」

「そうは言うけど…あんたの両親はあんたが帰ってくる日を心待ちにしているのよ…」

「実家のことは出さないで!!アタシは、生まれ故郷をなくしたやさぐれ女よ!!裕福な家庭で育ったあんたなんかに、アタシのつらさを分かってたまるか!!…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


アタシは、両手で顔を隠してくすんくすんと泣いていた。


「アリョーナ、ごめんね…イヤな思いをさせてごめんね…アリョーナ…アリョーナ…」


エレンは、くすんくすんと泣いているアタシをなぐさめていた。


アタシは、泣きながらエレンに言うた。


「あんたは家庭が裕福だから帰る家がある…けど、アタシは家はあっても、居場所がないのよ!!心から安心できる居場所なんかどこにもない!!…あんたね!!アタシの右のうなじをよーくみなさいよ!!」


アタシは、エレンに右のうなじについている歯形を見せた。


アタシの右のうなじについているきずあとを見たエレンは、ビックリした表情で言うた。


「アリョーナ…それ、誰にやられたのよ?」

「タメルランに犯された!!…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…別れ話がこじれた…タメルランが無理やりアタシを犯した…ただそれだけよ…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」

「そうだったのね…ごめんね…アリョーナ…」

「くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…くすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすんくすん…」


アタシは、泣くだけ泣いた。


しかし、乳房(むね)の奥の傷はさらに痛んだ。


アタシは、アメリカへ来て大失敗した。


ボストンバックと赤茶色のバッグを持って、シベリア鉄道の長距離列車に乗ってサンクトペテルブルグまで逃げた…


それからは、バイト生活に明け暮れた。


今まで幸せ探しを続けていたが、もうギブアップするしかない…


ドイツ・フランス・ボストン…


そして、シカゴにも、アタシの居場所はない…


アタシが幸せになることができる国なんか…


どこにもない…


生まれ育った故郷に帰るのも…


イヤ!!

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