幸せはあにまると共に

紅葉 楓

第1話 祖父の記憶

 幼少期の頃、田舎の山奥に住む祖父母の家に遊びに行く度、安達幸助(あだち こうすけ)は祖父の姿に目を奪われていた。彼の祖父はあらゆる動物から親しまれており、見かけるたびに祖父の周りには野良猫や野生の狐、鳥などが集まっていた。祖父が庭に向かって動物たちを呼び出すとそれにこたえて草むらや木の陰からひょっこりと動物たちが現れ、たちまち祖父の周りに群がるのであった。そしてまるで会話をしているように祖父は動物たちに話しかけたりわらったりしていた。幸助はその光景が忘れられなかった。


 ある日、幸助は祖父に訊ねた。どうして動物たちとそんなに仲良くできるのかと。すると祖父は言った。


 「彼らは人間と同じように生きている。何も人間と違ってなんかいないんだよ。言葉は通じなくてもこっちがちゃんと相手に誠意を向ければちゃんと伝わるのさ」


 幸助にはいまいちその答えがしっくり来ず、納得はできなかったが祖父はその後も続けてこう言った。


 「いいかい幸助。決して彼らを見下してはいけないよ。彼らは私たちと何も変わらない。同じ命を持っているからね。そして私たちは互いに思いやり、助け合うことで生きていくことができるんだよ。それは人も動物もみんな同じなんだよ。だからね、お前には自分と自分以外の命を大切にできる子になってほしい。お前がしっかりと向き合えば必ず相手は答えてくれる。お前が困った時に助けてくれる。だからこれから大きくなって大人になっても優しさだけは忘れてはいけないよ」


 祖父は話をしている最中、幸助の目をしっかりと見つめ、心にまで届くように語ってきた。その時、祖父が動物とあんなに親しかった理由を少し理解できたような気がした。おかげで幸助は祖父のこの言葉がずっと胸の中に残り、それを心掛けながら生きていくことになった。


 やがて月日は経ち、幸助も大学生になる頃、祖父は寿命を迎えてこの世を去った。葬儀などが行われた後、久しぶりに訪れた祖父母の家にはもう昔のように動物たちは現れることはなく、昔よりも静かで寂しい場所になってしまった。やはり祖父が亡くなったことで動物たちもここに来る理由が無くなったのだろうか。


 さらに祖父が亡くなってから数年がたち、幸助は成人し、社会人として都会の大手企業に就職し、勤務することになった。社会人になってからというもの幸助は毎日営業で時間を問わずあらゆる所へと外回りをするようになり、ろくな休日も取れない日々を過ごしていた。次第に幸助の体と心は疲弊し、ただただ毎日無心で働く、そのような状況に陥っていた。


 そんな日々を送っていたある日、彼は自身の人生を大きく変える出来事と遭遇することとなったのであった。


 


 

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