或る偉大な小説家の日記
大地 慧
2021年 睦月
1月14日
今日、百均でノートを一冊買ってきた。これで日記をつけることにする。ノートはざっと180ページ。一日一ページだとして、だいたい半年分ある。半年後には偉大な小説家の途上の半分くらいには到達してるだろう。最後の日に、この最初のページを見返すのが楽しみだ。
今日書き始めるといっても、別に今日が特別な日だったからではない。ただ、思うことが多すぎてそれを吐き出せる場所が欲しかった。そのきっかけが百均でこのノートを手に取ったことだった。それだけのこと。
それでも一応最初の日だから、積もりに積もってあふれた言いたいことを消化するのは明日からにしておこう。どうしても大事なことだけ、今日書こう。
俺は偉大な小説家になる。「偉大」とは何か、そんなことはどうだっていい。ひとが偉大だと感じたならばそれは偉大だ。
なんでそんな小説家になれると思ったかの理由だが、そんなの簡単だ。世の中にある本という本、小説という小説は出版されていてもいなくてもすべからくすべてしょうもない。単純な、ひとが死んでそれを美的に描いているだけだったり、最悪な場合実は死んでいなかったというオチまである。もっと最悪になるとどうか。それは、ひとが生き返るパターンだ。こんなもの、目も当てられない。
死ぬ小説だけじゃない。刑事もの、私小説、歴史小説、幻想、怪奇、恋愛。すべてくだらない。
俺はそんなもの書かない。俺は俺の、感傷的で耽美で鎮静で寡黙な、魂からむせあがって喉から出てきそうな感情をなんとか押しこらえてこの手にのせて紙にぶつける。
そうして出来上がるものは、なんたら小説みたいなジャンル分けは不可能だ。そこにあるのはただ「小説」。以上でも以下でもない。
俺はただ単純な小説を書ける。これを書けるのが偉大な小説家だ。
一日目なのに沢山書いてしまった。今日はこの辺にしておこう。
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