晃子 百花繚乱

湯川 晃子

第1話 プロローグ 「ペンネーム」

 中学生のとき、仲のよい友人が二人いた。一人は鉛筆の力強いタッチで「宇宙戦艦ヤマト」によく似た漫画を描き、もう一人は、柔らかい穏やかな線を使って「キャンディキャンディ」そっくりのを描いていた。


 私は小説「もどき」を書き、主人公は、当時一世を風靡したある兄弟アイドルグループの実の妹だけれど、訳あって離れて暮らしている、というストーリーだった。深夜になると、彼らは私に会いに来る。書いている内容を実際に何度も想像し、幸せに浸っていた。


 三人は毎日のようにノートを回し読みし、感想を分かち合った。


 おしゃべりすることは山のようにあった。学校からの帰り道もおしゃべりの時間、遠回りになるのに二人は私の通学路を一緒に来て、 更に、二人との分かれ道で一時間も話し込んだ。母が五階の家からそれを見ていて、学校で一日一緒にいるのに、よく一時間も話すことがあるものだ、と言った。


 お互いの作品の内容のこと、その先のストーリー展開のこと、登場する人物のこと、自分たちの将来の夢。私の夢は物書きになることだったから、ペンネームをその時から持っていた。


 「宇宙戦艦ヤマト」の友人は大人になって美術大学に進み版画家になり、「キャンディキャンディ」の友人は結婚して二人の子どもに恵まれ、お母さんになった。                   


 私はと言えば…。物書きとしてのペンネームは「湯川晃子」。これはとりあえず、晃子の物語としておこう。

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