第48話 アダムという男



 アダム視点


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 アダムは温野菜王国のしがない、農家の三男坊であった。


 農家といえども、子供全てに相続をしていては、土地が少なくなり生きていけない。

だから大体が長男が相続をする。


 アダムは幼い頃から、農家の手伝いをしながら、近くの剣術道場に通っていた。


 なぜなら、五歳の時に、たまたま村を通りかかっていた神官に、鑑定をして貰った所、剣士と遊び人という職業を保有している事がわかったからだ。


 農家を継げないなら、温野菜王国の兵士になって、警備兵にでもなろうと考えていた。


 出世欲とかはあまりない。

如何に怠けながら余生を過ごせるかに重きを置いていた。


 遊び人のスキルがある為に、元々は遊び人の性格であったのだ。


 剣術道場で基礎は学びつつ、モンスターの出る草原で、レベルアップを繰り返す日々。


 全ては、温野菜王国の兵士募集試験に合格する為だ。民の血税でのんびり警備をしてダラダラ過ごすのを目標にしていた。


 数年の時が流れ、アダムは、いよいよ温野菜王国の兵士募集試験に臨む。


 お題は、バトルロワイヤル! とにかく最後まで立っていた百人が合格というわかりやすい試験だった。


 アダムは、鐘の合図と同時に、木の上にジャンプした。


 馬鹿正直に、戦う必要などない。

時たま木に登ってくる奴を上から木刀で叩き落とした。


 結果、アダムは見事、温野菜王国の兵士になる事があるできた。


 十代後半の思春期のアダムは女性に興味を持ち始める。兵士の巡回の傍、気に入った女性に声をかけては、上司に怒られていた。


 一言で言うならダメ人間である。


 そんな日々が続いていくものだと思っていたら、ある日、魔王が復活した。


 世界中が、魔王軍侵攻に恐怖する。

すると、アダムが光に包まれたかと思うと、

目が青色に変化して、神々しくなった。


 上司はすぐ様、アダムを神官に見せると、

剣士の職業は消えて、勇者の二文字に変化していた。


 勇者となったアダムは人が変わったかの如く、真面目になり、世界の為に自己鍛錬を行う様になる。


 古の伝説では、魔王現れり時、勇者が降臨するとある。


 温野菜王は、各国首脳を集めて、魔王討伐の音頭をとる。武勇や魔法に優れし国の拳闘王国からはユウト、サマーソルト王国からは、ミツキ、魔法王国からはジョーカー、剣豪王国からは兵助、聖教国からはメリーが選ばれた。


 このアダム、ユウト、ミツキ、ジョーカー、平助、メリーが勇者パーティの初期メンバーであったのだった。


 各国は、更に強者を送ると伝えてきたが、

現時点で各国で有名な強者であった。


 決起会が開かれた。

勇者アダムはリーダーとして、開幕の挨拶をする。


「生まれし場所は違えど、目的はただ一つ! 魔王の討伐である。現時点をもって、勇者パーティの結成を宣言する!! 世界に平和を!」


 勇者アダムは神に選ばれた使徒であるという使命から、最初期、皆を先導する。


 しかし、うまくやろうとしても仲間がどんどん死んでいった。


 こんな筈ではない。

勇者アダムは苦悩する。

そんな勇者アダムに改善を申し込んだのが、

ユウトであった。


 ユウトはチームの改善点やレベル上げの徹底などを打診して結果を出してゆく。


 ユウトは皆からも慕われていた。

なぜなら、段々と死傷者数が減っていたし、攻略もゆっくりながら着実に進んでいたからだ。


 正直、勇者アダムはユウトに嫉妬していなかったと言えば嘘になる。


 ユウトの指揮官としての才能は、勇者アダムよりも格段に優れていた。


 そんなおり、サマーソルト王国よりソルト皇子が入隊した。彼は産まれながらの皇族である。言うことは一人前であり、勇者アダムもソルト皇子に期待していた。


 そして数ヶ月後事件が起こる。

例のソルト事件だ。勇者アダムは、ユウトへの嫉妬からソルトの味方をしてしまう。

それに釣られるように、ソルトが勇者パーティの指揮官の座に君臨した。


 正直、ユウトよりソルト皇子の方が扱いやすい。勇者アダムはソルト皇子の命ずるまま、氷の洞窟の攻略に向かった。


 しかし、ソルト皇子は、傷ついた仲間を置き去りにして先へ先へと進んでいく。


 行軍を早めたおかげで、エリアボスまでの道はいつもより早めについた。

文字通り仲間の犠牲の上でである。


 しかし、エリアボスの氷のブレスが強力で、とても強く、仲間がどんどん死んで行った。


 指揮官のソルト皇子は半狂乱になりながら、逃げ出してしまう。


 ここは、一時撤退しかない。

撤退を決めた勇者アダム達は、無我夢中で氷の洞窟を逃げ出す。


 しかし、撤退戦がもっとも難しい。

迫り来るモンスターを撃破しながら戻らないといけないのだ。モンスターは、背中を見せた勇者パーティに次々と攻撃を加えてくる。


 パーティの仲間は、人類の希望の勇者だけはと、体を張って守ってくれた。

ただ一言、「ユウトさんに謝ってください」と言い残して。


 勇者アダムは泣きながら悲しみの雄叫びをあげる。魔王討伐はこれ程までに大変なのか...ユウトの苦労が初めて身に染みてわかった。正直、ユウトに合わす顔はない。しかし、ユウトに仲間の最後の言葉を伝えなければならなかった。


 廃人のような出立ちでユウトに会うと、ユウトはクラブで踊り明かしていた。


 勇者アダムは土下座をして謝る。

そんな勇者アダムをユウトはビル爺の働くBARでぶん殴った。


 もちろん殴られて当然である。

ユウトが仲間の命を大事に考えて、レベル上げまでした同僚を全て死なせてしまったのだから...


 後で聞いた話では、ユウトはすぐ様、温野菜王に謝罪しに行ったらしい。


 ビル爺の言う、指揮官は出来るものがやれば良いという言葉で勇者アダムは、ユウトを指揮官として信頼する事に決めた。


 勇者アダムは、頭を床に擦り付けながら、ユウトに勇者パーティの復帰をお願いした。


 ユウトはとても遊び人だが、仲間思いで、必ず結果を出す。


 事実、勇者パーティをレベル上げし終わった後に再び氷の洞窟を再チャレンジしたら、冷静に、わずかエリアボスは一時間足らずで撃破したのだった。


 その後も着実に魔王軍を追い詰めていく。

魔王城への一本道で、魔王軍四天王が現れた時に、命をかけてくれとの命令にはびっくりしたが、多大な犠牲は払ったものの、魔王討伐は成功したのだった。


 魔王が倒された後は、アダムは遊び人になる。侯爵を頂き、何不自由ない生活を歩めた。女の子も選び放題である。


 勇者アダムは、遊び人アダムへと変貌した。しかし後悔はない。

だって小さい頃の夢が叶ったのだから。


 遊び人アダムは思う。ユウトは遊び人に見せかけて、誰より仲間想いの良い奴だったと...


 そして時は流れて今、魔王がまた復活したらしい。


 はい!無理です! 

私はただの遊び人だから! 


 遊び人アダムは新たな勇者パーティへの参加を断った。

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