第32話 過去編2前編(いつも側にいてくれた君へ)


 ユウトは時たま一人である場所に向かう。

向かう先は魔王戦で死んでいった者達の為に作られた慰霊碑である。


 ユウトは定期的に必ず参拝しにいく。

そしていつも泣き尽くした赤い眼で戻ってくる。


 それはそれは悲しい顔をしていた。


 気になったマキはある日、ユウトの参拝にこっそり付いて行く




 慰霊碑を前にしたユウトは手を合わせて拝み、更には慰霊碑を丁寧に磨きあげる。

そして最後は慰霊碑に抱きつき涙を流して嗚咽する。



 「お前達が寂しがらないように、

今日も来たよ。

俺に堕天使の首飾りをくれたビル爺、

キックの極意を教えてくれたみつき...

俺はちゃんとみんなの犠牲の分も世界を平和にできたかなぁ? そしてチアキ!俺は君と二人で...」


 そう言うと右手首のシルバーの腕輪を手に持ちチアキと掘られた箇所に添える。


 ユウトはいつも飄々としてチャラついたイメージしかない為に、マキはその変わり果てた姿は、はじめてみる光景であった。


 ユウトは更に酒瓶を開けると、

慰霊碑にかけてやり、自分もラッパ呑みをし始めて、「チアキ」「チアキ」とうわ言の様に叫んでは、顔を埋めて土下座をしだす。


 マキは急ぎブランケットを持ってきて、

ユウトにかけてあげる。


「ユウトはチアキさんとはどんな関係だったの?」


「ーーマキか? ごめんな! 心配をかけて...」


 ユウトは立ち上がろうとしたが、マキは離さない。


「教えて! 私は貴方の妻でしょ? 結婚した時に誓った筈! 苦しみも分け合うと」


「ーーわかった。どこから話せばいいか...」



〜〜ユウト過去編2(いつも側にいてくれた君へ)



 ソルト事件の後、勇者パーティはユウトを総指揮官として動き出す。


 そんな折、ユウトはBARでウィスキーを片手に一人で嗜んでいた。


「昔はお酒の味が美味かったのに、

最近は悲しい味しかしない...」


 そう言いながら、浴びるように呑んでいた。


「きっとそれはお客さんが何かを一時、

忘れる為に酒に呑まれているからですよ」


 BARのマスターの指摘に、

ユウトは苦笑いを浮かべる。

明日はまた新たな攻略対象である闇の砦の攻略があるのだ。


 ユウトは戦いが怖いのではない。

仲間の死が怖いのである。


 共に同じ飯を食い、過ごし、

夢を語り合あった仲間が、

俺の采配一つで命を落としかねない。


 ビル爺は指揮官が出来るのは、

ユウトしかいないと言うが、

俺だって精神的に強い訳はない。


 ましてや、指揮官たれと育てられた、

貴族や王族でもない。

ただひたすらに自分のやれる事をやって来ただけである。


 自然公園に帰ってきたユウトは、

綿密な攻略計画の書類に目を通す。


 するといつの間にか椅子で寝ていたようだ。誰かが毛布を掛けてくれたらしい。



「本日レベル上げを終え、本作戦に従事することになりましたチアキと申します。よろしくお願いします」


 見事な敬礼をとる赤毛の少女は、

初任務の為か、緊張していた。


「私が総司令官のユウトだ! チアキさんは初任務だから後方からの援護を頼む」


 チアキとユウトは握手を交わした。

これがチアキとユウトの出会いである。


 チェンジシステムーー先頭パーティが疲労したら、次のパーティが交代していくシステムである。


 このチェンジシステムを使い、三パーティ計十五名は道なき道を歩き、魔物を討伐しながら突き進んだ。


 夜になるとテントを張る。

闇の砦への攻略に関しての修正や備蓄の食料等の確認をしていたユウトはやはり机で眠ってしまった。身体が冷えなかったのはまた誰かがタオルを掛けてくれたからだろう。


 次の日になり、また進軍を開始する。

ユウトはパーティのバフ兼遊撃担当である。先陣の他のメンバーが疲労で疲れて、

交代しても、新たな仲間の為にバフ等をかけてあげなければならない。


 だからユウトだけはチェンジシステムをいつも使わなかった。


 ステータスupの曲やHP徐々に回復の曲がさほどMPを使わず、多用しないというのもあったが、何より総司令官として先陣から引くのが怖かった。


 それは、ユウトが自分の命を軽く思っていたのもあるが、何より仲間を死なすくらいなら自分が先に死ぬ決意を常に持っていたからだ。


 以前にも伝えたが、ユウトは孤児である。

だから無事を祝ってくれる肉親はいない。

故に、家族を持つ仲間達を無事に帰してあげたかった。


 闇の砦に入ると、奇妙な気配を感じたユウトは右手をグーのポーズで掲げたーー罠警戒の合図だ。


 ユウトは死奏家の技「見破りのワルツ」を使い、糸で床を叩きながら、罠を掻い潜り、狭い通路を先頭で歩いた。


 通路は一人分の幅しかない。とてもじゃないが通路内で戦闘が起きれば、一対一の戦いは避けられない。ユウトはステータスupの曲とHP徐々に回復の曲をかけて進んでいく。


 すると闇の魔物ゴーストがワラワラとやってきた。糸に聖水をかけて、振り回すがゴーストの群れを処理しきれない。


「アイリス前方へホーリーレイを放ってくれ」


 後方からホーリーレイ(聖なる光線)がとぶと、ゴーストが聖魔法で焼かれていく。


 ユウトはまだホーリーレイは使えないが、

糸を聖属性に変えて、魔法剣ならぬ魔法糸で

ゴーストを切り裂いていく。


 三十分の格闘の末、ゴーストの大軍を倒しきった。ユウトの額からは大量の汗が出ていた。


 攻略本などない為に、道を紙に書きながら、先を進むダンジョンの旅は過酷である。


 しかも、ユウトは本日ほとんどの戦闘に絡んでいる為に、非常に疲労が蓄積されていたが、気力で進んだ。


 三時間は経ったであろう頃、

ユウト達は大きな扉前に到着した。


 ユウトは全員にステータスupの曲とHP徐々に回復の曲を予めかけてから門を開く。


 するとそこには巨大な悪魔神官が仁王立ちで待ち構えていた。すると、ユウトは魔法士を下げて、後衛を賢者二人体制にする。


「アダムは攻撃、ユリウスは壁、アイリスは攻撃白魔法、チアキは仲間のHP管理」


 ユウトの指示で仲間は動き出す。

悪魔神官は闇魔法を連発してくる。


「ダークネスファイアーバード」


闇の炎鳥が仲間を焼いていく。


「癒しの方陣ヒールネス」


 すかさずチアキは回復魔法を全体にかける。アイリスもホーリーレイを連発するが、

なかなかペースが掴めない。


 数ターン後、ユウトは死奏家の技「聖なるワルツ」を発動する。眩い光の膜の中に入った様な感覚だ。


 これは闇の魔法に対してダメージを軽減してくれるのだ。


 少しダメージが緩和された隙に、

ユウトはユリウスの剣と勇者アダムの剣に光属性を付与する。


「勇者アダム、ユリウス決めてこい!!」


『ホーリースマッシュ』


 光の魔法剣の飛剣が剣から放たれた。

それは悪魔神官の急所を捉える。


 すると悪魔神官は光の粒になり、

消え去った。


 ユウトは悪魔神官の消滅を確認した後、

意識を失った。

それは疲労が限界に達したからである。



 どれくらい眠っていたのだろう。

ユウトは目を覚ますとチアキに膝枕されていた。


「すまない!」


 しかし起きようとしても、身体がまだ鉛の様に重くて動けない。


「もう少しお休みください。

総司令官は特に頑張ったのですから」


 チアキはユウトを抱き抱えると、

寝具まで運んでくれた。

え? お姫様抱っこ? 


 女性をお姫様抱っこして寝室に連れ込むのには慣れていたが、逆は、はじめてで、

ドキドキした。なんと甘美な事でしょう!


 私はお姫様!! いかんいかん!! ここは戦場でチアキは戦友だ!! 手を出してはいかん!! 


 ユウトはプライベートと戦場は分ける必要があったーー総司令官である為に特定の仲間を贔屓してしまうと連携がうまくいかないからだ。


 その後、チアキに食指を出さない為にもいろんな女性と一夜を共にして来た。


 そんなユウトを寂しそうにチアキは見つめていた。


 しかし、ダンジョンへ進軍する度にチアキとユウトは仲が進展していく。


 ユウトは禁じられた恋だとわかりながらもどうする事もできない。


 何故なら恋とはするものではなくて、落ちるものであったからだ。


 魔王城への道、

最後の砦にあたるラストエビルの前日、

チアキは抑えきれず思いを告げる。

何故なら、戦いは熾烈を極め、

明日お互いに生きているかわからないからだ。


 チアキは覚悟を決めた。


「私はユウト貴方を愛しています。

貴方を愛してはいけませんか?」


 素直なチアキの告白にユウトは頭をかく


「俺もチアキを愛してる...しかし俺は魔王討伐隊総司令官...」


 すると、チアキはユウトの唇を奪って来た。それは震える様なキス...しかし次第に熱が籠ってきた...そして、ユウトをお姫様抱っこすると寝具へ...


「私の想いが世界とユウトを護るから...」


 チアキはユウトと一つになった。




 ユウトはチアキの愛に心地よさを感じた。

あーこれが落ちるという奴か!! 

ユウトは初めて恋に落ちたのだ。


 チャラ男として数々の女を落として来たが、落とされたのは初めて...


 ユウトはようやく死ねない理由が出来た。

チアキを必ず戦後幸せにすると心に誓ったのである。

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