第5話 良い事は続かないが悪い事は続く
勇者に会いに行くにしても
そもそも金を毟り取られ、怪我をしている。
旅にはお金と元気な足腰が必要である。
すぐには行けない。
「なぁ俺って魔王倒した英雄の一人だよな」
路地裏で歩く猫に話しかけても返事などあるはずも無かった。
でもヨシヨシしてると心が和む。
ユウトは昔から動物に好かれるがまぁそういう体質なのだろう。
ハープを弾いてるとハープの上に鳩が乗っていたり自然と動物達が寄り付く。
話は脱線したが、怪我をしているからせめて宿屋で養生したいものである。
ため息しかでてこないこんな状況下で悪いことは続く。
良い事は続かないのに悪い事は続くなんて
なんて日だ!
先程から屋根に一人、左の曲がり角に一人、右の曲がり角に一人暗殺者の様な奴らがこちらを伺っている。
明らかに俺の曲で、
ハートを鷲掴みにされたファンではなく、
ハートをブレイクしに来た暗殺者だろう。
こちらは上手く動けない。
気付かないふりをして、
カウンターで仕込み刀を振るしかない。
まずは開幕前のバフからだ。
HP徐々に回復する曲とステータスUPの曲を自分にかける。身体が少し楽になった。
問題は足である。足に踏ん張りが効かないと刀の力が乗らない。必死に足を摩る。
「数秒でいいからもってくれよ我が足!」
屋根にいる暗殺者はユウトが怪我をしている事がわかり、
まずは遠距離から毒吹き矢を放つ。
ユウトは紙一重で避けた。遠距離きたねー
ユウトは物陰まで移動して屋根からの吹き矢の射角を遮る。
フィ〜 屋根の敵が何かの合図をした様だ。
すると暗殺者は左右上から同時に斬り込んできた。
コンマ何秒かの差で左の暗殺者が早いと判断したユウトは左の暗殺者の剣を避けて仕込刀で心臓を一突きにした。
そして左の暗殺者の後ろに回り込み上からと右からの剣の盾にした。
更に左の暗殺者を操り、握っていた剣を右の暗殺者の腹へと貫く。
ユウトは左の暗殺者から離れて上の暗殺者の目に道端の砂を投げつける。
安易だが目潰しになる。
こちらを視認させないように回り込み、
上の暗殺者の喉笛を掻き切る。
ここまでの戦闘は実に二秒程だ。
これくらい出来な行くて勇者パーティなどやれないよ。
暗殺依頼主もやけに俺を低く見積もったもんだ。
三人の暗殺者にトドメを指す。
何より助かったのがこの三人の暗殺者はお金を持っていた事であるーー装備品は売り、金は宿代に使わせて頂きます。
何とか足を引きずりながら宿屋に着く。
あ〜何だろう! こんなにもベッドが有り難く感じたのはいつ以来だろう。
山で遭難した時以来か?
優しく包み込んでくれるーー女性の胸の様だ! いやその女性に怪我を負わされたのであるが
食事は宿の人に持ってきてもらう。
歩くと怪我を悪化させるからな。
医者も呼んでもらった。
「二週間くらい安静にしてろ」
いや雑すぎないかね?
包帯で巻いたり色々あるだろ!
サマーソルト国は足技の武芸者が沢山いる国であり、生傷が絶えないのでこの程度大騒ぎする様な怪我ではないらしい。
二週間くらいなら宿代はある。身体が資本だからな! ーーしっかり治そう。
二週間後、金は底をついたが身体は治った。
まずは冒険者の依頼でもこなして旅賃を稼ぐとしますか。
冒険者なんかやっていたのかって?
勇者パーティをやっていた時に既に登録済みですよ。
ランクはもちろんSクラスだ。
冒険者組合の掲示板を見て、
自分一人でこなせて
尚且つ金になる依頼を探す。
流石サマーソルト国なだけあり、
武芸を教えて欲しいだの
練習相手になって欲しいという依頼が多い。
二度と回し蹴りなど喰らいたくない。
普通もっとちゃんとした依頼があるだろ!
山に薬草を取りに行くから護衛依頼だの、
ペット捜索依頼だの、
モンスター退治だのの類が全く無かった。
そんな中、一番マシではあるが、
きな臭い依頼があった。
「国家サマーソルト士の試験官依頼ー筆記、実技の試験監督をお願いします。
要サマーソルトレベル20以上の方に限ります」
「なぁ? これ回し蹴り喰らったりしないよな? フリじゃないよな?」
受付に何度も聞いたが、
大抵は見守るだけの簡単な仕事らしい。
しかし何故に五泊六日なのだ?
訝し気に思いながらも、
依頼を受ける旨を伝える。
ーー依頼料は悪くない。
「ではこの水晶に手を当ててサマーソルトレベル20以上の確認を行います」
受付はチャラい見た目でこいつ本当にレベル20以上あるのか? という目だ
サマーソルトはレベル30までとらなければ、上位職業のキックキラーという派生が出てこないから、ちゃんとレベル30はあるはずだ。
受付はあまりの多数の職業をかなりのレベルまで取得している事に驚いていた。
「ではサマーソルト訓練場にすぐに向かってください」
「えっ? 普通明日からじゃね? 今すぐってもう試験期間ですか?」
「要急ぎの依頼だそうです」
ハープを片手にサマーソルト訓練場の職員室に向かう。
「冒険者組合の依頼を受けて参りましたユウトと申します。
試験期間中よろしくお願いします」
丁寧にユウトはお辞儀をする。
名前を聞いた瞬間、試験監督者はみなユウトが元勇者パーティの一員だった事を思い出し丁寧な対応だった。
しかし何やら問題が起きてる様子である。
「ユウト殿実は実技試験でトラブルがありました。
回し蹴りで石を蹴り砕く試験にしたのですが、皆簡単に砕いてしまいまして、
点数が皆同じになりました。
サマーソルト王は何より実技を重んじる様に仰っており、
更なる追試を言い渡されました。
どうすれば良いか良い知恵はないでしょうか?」
はい? こいつらは馬鹿なのか?
格闘職など強くてなんぼの世界である。
ーー実戦を経験できなくて何が国家サマーソルト士だよ笑わせんじゃねー
「総当たりで戦わせるか、モンスターを用意して戦わせたら良いんじゃないですかね」
「しかし総当たりとなると怪我した人が出てきますから、組み合わせ順で不公平がでます。
モンスターは今更準備できません」
みな暗雲たる気持ちになった。
桐斗は良い案を浮かんだが、
敢えて言わない事にした。
しかし、思い付く奴は思いつくものだ
「では元勇者パーティのユウト殿に組手をやってもらい、
ユウト殿の評価で点数を決めるのはいかがですか?」
はい来たよ来たよ! だから嫌だったんだ。
こうなるかも知れないからこの依頼受けるの
「冒険者組合ではあくまで試験を見守るだけと聞いて来ましたから流石にそれはちょっと...」
しかし他の試験監督者は六十五歳以上のおじいちゃんばかりだった。
皆必死に縋りつく。
「因みに試験者の総数は? 」
「三百人くらいです。」
死ぬわ! 死ななくてもまた怪我するわ!
馬鹿じゃないのかコイツらと思ったが、
皆目がマジだ
「いやいやいや! 流石にそんな人数の組み手をやったら私が怪我してしまいます。
報酬に全く見合わないので却下致します」
当然だわ! 馬鹿じゃないのか?
こいつら!
安い報酬で安請け合いなど誰がするかよ
するとその話を聞きつけたお偉いさんが出てきた。
サマーソルト試験総監督であり国の役人でもある奴が出てきた。
「ならば報酬を百倍出そう。
それならどうかね? 」
百倍だと? ーーもう他の依頼を受けなくても、勇者の国である温野菜王国まで行けるだけの旅賃には充分だ。
いきなり金貨を十枚渡された。
ちなみに労働者は大体一日一銀貨程度の収入だ。
一銀貨は百銅貨で、百銀貨は一金貨なので確かに百倍以上の報酬ではある。
「見事成し遂げたらもう金貨五枚後払いで報酬を出そう」
ユウトは敬礼をしたーー実に良い金払いだ
「了解致しました。綿入りミットを足首二つに手首二つ、手に二つ、頭に一つ用意を」
試験監督官達は用意をしだす。
五泊六日だから一日平均五十人程度である。
生傷は絶えないだろう。
元気な内になるべく数をこなす事にした。
「足腰に力が入ってない」
「それだと足の並びが逆だ!
基礎からやり直せ」
「サマーソルトは繋げ技が大事なんだよ!
回し蹴りの前の崩しをしっかりしないと、
回し蹴りが当たらぬわ! 馬鹿ものが」
鬼コーチユウトの誕生である。
半端な蹴り技を見せられたら、
ちゃんとした模範蹴りを見せて、
指導までした。
どうしても勇者パーティにかつていた、
キックキラー職のミツキの技のキレが浮かび、ヒヨッコ共の技が霞んでしまう。
そんな中見事な回し蹴りを喰らわして来た者がいた。
「ゴハ」
あまりの威力にユウトは膝をつく。
よく見ると元ハニーのカイラだった。
ーー何故君がこんなとこに?
「その回し蹴りなら魔王にも勝てるよ! 君は試験合格! さぁ次」
「さっきから聞いてれば偉そうに指導しやがって! 貴方に指導者の資格があると思って?
さぁ次じゃねー! 私を弄んだ恨みはまだ晴れないわ」
五分くらい組み手をやらされてボロボロになった。
試験者のユウトを見る目は最初は良かったが、カイラの登場の後は可哀想な者を見る目になった。
五泊六日何とかやり遂げたが、また宿屋で療養である。
しくしく涙を流しながら怪我を治すユウトであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます