第7話 ゴウは、学習計画作成を再開した② 過剰貸付の抑制Ⅱ

 では、貸付けたお金を確実に回収するにはどうすればよいか?


 借金した人が返済できない状態になった場合、お金を貸した者が採ることのできるテンプレの法的回収手段はいくつか存在する。

 ただ、最終的にそれらの手段を採ることを考慮に入れるとしても、貸付けをおこなう前にしなければならないことがあるだろう。


 それは、お金を借りようとしている人が利息も含めてを「審査」(与信審査)することだ。


 この「審査」の中心が「顧客の返済能力」という要素である。


 ①利息も含めて返済するだけの収入・資産があるか?

 ②他の貸金業者からの借り入れは無いか?


 といった事情を考慮して、貸付けるかどうかを決める。


 貸金業法は、この①②についての調査を貸金業者の法的義務とした。

 これが「返済能力調査義務」だ。

 貸金業法13条1項をみてみよう。


【貸金業法13条1項】

 貸金業者は、貸付けの契約を締結しようとする場合には、顧客等の収入又は収益その他の資力、信用、借入れの状況、返済計画その他の返済能力に関する事項を調査しなければならない。


 この条文は、貸金業者に顧客等の「返済能力に関する事項」(調査項目)を調査する義務を課したものだ。

 この義務に違反した場合、業務改善命令その他の行政処分の対象になる。

 ちなみに「貸付けの契約」とあるので、この義務は例の「貸し付けに係る契約に係る保証契約」にも適用がある。


「貸付けの契約」の意味については、第1章第3話


 https://kakuyomu.jp/works/16816410413879601463/episodes/16816452218484858459


 を参照して欲しい。


 では、貸金業者に顧客等の返済能力の調査(上記①②の事項の調査)させるためにどのようなルールや仕組みが必要かを考えてみよう。


 まず、上記①を調査させるためには、個人の顧客に源泉徴収票げんせんちょうしゅうひょうなどの収入または収益その他の資力を明らかにするものを提出させるようにすればよい。


 問題は②である。

 他の貸金業者からの借り入れがあるかどうか、いくら借入れているかをどのように調べたらよいか?


 お金を借りに来た人に、


「他社からの借り入れは、ありますか?」

「他社から、いくら借入れていますか?」


 などと聞いても、正直には答えてくれるとは限らない。

 お金を借りに来た人にしてみれば、バカ正直に話した結果、お金を貸してもらえないということになったら困るからだ。


 ここで、貸金業者が独自に顧客等の借入状況を調査するということも考えられる。

 けれども、それでは調査のために必要な時間、労力、お金といったコストが高くなる。


 そこで貸金業法は、貸金業者が顧客の借入総額(借入残高)を把握できるように「指定信用情報機関制度」を創設した。


 顧客の借入残高などの「信用情報」を指定信用情報機関に集めいておいて、これを返済能力の調査に利用する仕組みだ。


 そして貸金業法41条の35は顧客の「信用情報」(個人信用情報)を確実に集積するため、借入をした顧客の「信用情報」(個人信用情報)の提供を貸金業者の義務とした。

 この条文はとても長いので、いまは置いておく。


 お金を借りに来た人が、他社からの借り入れがあるかどうかを貸金業者に調査させるには、指定信用情報機関が保有する「信用情報」を貸金業者に利用させればよいというワケだ。


 この点、貸金業法13条2項は、つぎのように規定する。


【貸金業法13条2項】

 貸金業者が個人である顧客等と貸付けの契約(極度方式貸付けに係る契約その他の内閣府令で定める貸付けの契約を除く。)を締結しようとする場合には、前項の規定による調査を行うに際し、指定信用情報機関が保有する信用情報を使用しなければならない。


 貸金業法13条はこの条文で、貸金業者に顧客等の返済能力を調査するさい「指定信用情報機関が保有する信用情報」を利用するよう法的な義務を課した。

 貸金業者がおこなうべき「必要最低限度の調査方法」を規定したともいえそうだ。

 ちなみに、この規定に違反した場合、刑事罰の対象となる。

 その内容は、1年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または、この二つの併科だ。


 この条文については、ほかにもいくつか重要なポイントがある。

 この点についても詳しくは、後にお話しすることにしよう。


「ふうん? 貸金業者、貸金主任者、顧客、監督官庁に指定信用情報機関ねぇ……」


 ゴウは、なんとなくだが貸金業法が規定しているキャラクターとその相関関係が見えそうな気がしていた。


 つまり、ここで貸金業法の全体像をおぼろげながらイメージできた気がした。

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