学祭二日目 ①

 学祭の二日目、今日は外部から一般の人が来場する。昨日は、校内だけの行事で大人しかったがさすがに今日は朝から賑やか雰囲気だ。今年も模擬店でケーキとコーヒーの喫茶店をする予定だ。


「それで……この組み合わせはなんだよ」

「えぇっと、なんだろうね」


 俺が困り果てたような声を出して、、志保は微妙な笑みを浮かべている。


「……この当番は志保達が決めたんだろう」

「うん、そうだよ」

「だったら……」


 依然として困惑した感じの俺だが、もう変更しようがないのは理解している。今年は学祭のクラス委員の一人に志保がなっていた。


(事情が分かっているのなら考慮してくれたらいいの……)


 既に半分不貞腐れそうな感じになっていた。


「なによ〜アンタそんなに嫌がらなくてもいいでしょう」


 背後から聴き慣れた大仏の声がして更に気分が滅入りそうになる。当番が同じ時間帯ということは自由な時間も同じになってしまう。この後の自由時間に絢と白川が来ることになっている。


「べ、別に嫌がってないぞ……」

「そうかしら、さっきから石川さんを責めてたみたいだけど?」

「お前はどこから見てたんだよ」


 俺は項垂れるように返事をするが、こうやってペースを乱されるから嫌なだよと喉まで出かけていた。俺と大仏の会話を志保が苦笑いしながら見ている。


「あっ、みんなここに居たんだ、もうすぐ始まるみたいだよ‼︎」


 美影が慌てた様子でやって来た。一つのグループが十人前後で交代で当番になる。俺は朝一の当番になっていて、ここにいる美影と志保、そして大仏も同じ時間帯になっている。約二時間ぐらいの仕事だが、俺はバイトで多少慣れているので苦になることはないし、あまり楽しみでもない。でも美影は、俺がいつもバイトでしている事を真似出来るので楽しみにしていたみたいだ。おまけに女子には可愛らしい衣装?が着れるみたいで、美影もメイド服みたいな衣装を着ている。


(いったい志保はこの衣装を何処から借りたんだ?)


 知らず知らずのうちに俺は美影を見続けていたみたいで、美影が恥ずかしそうにしていた。


「あまり見られるとさすがに恥ずかしい……」

「あっ、ご、ごめん……美影があまりにも可愛かったからね」


 深く考えずに答えたのだが、美影は更に顔を真っ赤にして俯いてしまう。俺の様子を見て志保と大仏が大きなため息を吐く。


「もう……開店前からやってられないわね」


 志保と大仏が口調を合わせたように呆れている。俺も恥ずかしくなり美影と一緒にそのまま俯いてしまった。ちなみに大仏は自分で似合わないから着ないと言って、志保は美影と比べられるのがイヤという理由で二人とも制服にカフェエプロンの姿だ。


(大仏は着ないで正解だし、志保の言う理由も納得した)


 それだけ美影は衣装がハマっていたのだ。実際に開店してから他のクラスの男子はほとんど美影を見ているようだった。

 当初は、美影と一緒に客席側で接客の仕事が担当だったが、調理側の段取りが悪いみたいでなので早い段階で経験者の俺が回ることになった。その為に途中から美影の様子が分からなくなっていた。


「おぉ、真面目に働いてるね〜」


 茶化す様な表情で大仏がオーダーを持って来た。


「だいたいお前だってこっちの仕事に慣れているだろう、代われよ」


 さすがに疲れてきたので俺が嫌味のように言うと大仏はにやっと笑っている。


「ふ〜ん、気になるんだ……山内さんの様子がね。嫉妬するなよ〜」


 あきらかに俺をからかうような大仏の口調だ。こんな時は過剰に反応すれば大仏が更に調子に乗ってしまう。


「はいはい、分かったよ。これ、持っていって」


 冷静になって俺はオーダーされた物を手際よく準備をする。大仏は悔しそうな顔でしぶしぶ俺が準備したコーヒーとケーキを手にした。


「なによ〜アンタ気にならないの?」


 そう言いながら大仏は残念そうな顔で出ていった。

 気にならないことはないが、美影は楽しそうにしているので俺がとやかく言うことではない。客席側の様子は分からなくてもここに何度も来てコーヒーやケーキを持っていっているので美影の様子は伺える。

 入れ替わりで志保がやれやれといった感じの笑みで入ってきた。


「大仏さんが、由規が真面目すぎて面白くないってボヤいてたわよ」

「あぁ、さっき来た時に嫉妬してないのかって言ってきたよ」


 苦笑いしながら答えると、志保が頷きながら軽く笑う。


「まあ、確かに男子達の視線は凄いわよ、でも美影は何とも思っていないでしょうね」

「そうなのか?」

「当たり前じゃないの、由規以外は何とも思っていないわよ」


 志保がドヤ顔で返事をするので何とも返しようがなかった。俺が黙っていると志保は意外そうな表情をする。


「う〜ん、でもあんなに美影が楽しそうにするとはね」


 普段の美影は俺や志保の前以外ではあまり喜怒哀楽を出すことはない。長い付き合いの志保が予想外のことのようで驚いた顔をしていた。


「でもこれでますます美影のファンが増えるだろうね」


 からかうように志保が言うので俺はやれやれといった感じで首を左右に振っていた。


(志保の言う通りだよな、でも本当に最近ますますキレイになってるような気がする)


 俺が言うのもおかしいが、高校に入学して再会した頃から比べても一段と大人っぽくなっている気がする。


「だいたい志保があの衣装を美影に着せたんだろう……」

「そうだけど、予想以上だわ。これからさらに大変だね、ふふふ〜」


 俺が半ば呆れた様子でいると志保はまるで他人事のように笑っている。志保の顔を見ながら大きなため息を吐いた。


「どうしたの?」


 同じタイミングで何も事情を知らない美影が入ってきて、首を傾げて俺と志保の様子を見ている。


「ううん、なんでもない。由規がね、美影が可愛くて惚れ直したって話だよ」

「な、な、なに言ってるんだよ、あっ⁉︎ 志保、こら、逃げるな!」


 俺が焦っている間に志保がそそくさと逃げるように客席側へ行ってしまい、美影と二人きりになってしまう。美影は志保の言葉を真に受けて真っ赤な顔で俯いて立ち尽くしている。俺もさすがに恥ずかしくて俯いてしまった。

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