二学期と試合 ②

 今週末に県大会の予選があるだが、明日はちょうど週の真ん中で体育館が使えない為、部活は休みになった。今朝志保からある提案を受けた。


「ねぇ、まだ美影と付き合い始めてデートらしいことしていないでしょう」

「そ、そうだよ、わ、悪いか……」


 俺が悔しそうに答えると志保は得意げな笑みを浮かべているので少しだけイラッとする。


「ふふふ、いいことを教えてあげよう!」

「……なんだよ」


 自信あり気な顔をした志保だが、とりあえず志保の聞いてみることにする。


「明日は部活が休みでしょう、美影と放課後デートしてきなよ」

「いきなり何言ってるんだよ。そんな急に言っても場所とか……そもそも美影の都合だってあるし、どうするんだ?」

「そこは任せない!」

「……う〜ん」


 あまり信用出来ないような気がするが、志保は相変わらず自信ありの顔をしている。何を根拠に言っているのかと疑いたくなってくる。

 志保が言うには、美影がこの前からずっと行きたいお店があって期間限定のデザートを食べたがっているみたいだ。時間的にも部活のない学校帰りでちょうどいいみたいで、タイミングよく明日は美影の予定が無いはずと志保は言っている。


「まぁ、俺も明日は用事ないし分かったよ、とりあえず美影を誘ってみる」

「うん、絶対に大丈夫だから……喜ぶと思うよ」


 そう言って志保は一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。そんな顔をされたら何も言えなくなったが、この前の美影の事もあるので志保の言う通りにする事にした。


 放課後になって部活に行く前に今朝の志保の話をしようと美影の席に立ち寄る。美影はちょうど荷物を纏めていたところだった。


「ちょっといいかな?」

「どうしたの? なんか改まった感じで」


 改まって誘うとなるとなんとなく緊張してしまい、変な空気を漂わせてしまう。


「明日なんだけど、何か予定とかあるかな?」

「えっ、予定? ううん、今のところないよ」


 美影は驚いたような目で見ているが、俺は美影の返事に一安心する。


「それなら明日の放課後に美影が食べたがっているパフェを食べにいかないか?」

「な、なんでそのことを知ってるの?」


 意外な誘いに美影はこれまでに見たことがないぐらいの驚いた表情をしている。美影の驚き具合に俺は思わず笑ってしまいそうになる。


「そんなにびっくりしなくても、志保から聞いたんだよ」

「もう……志保の仕業ね、でもこうやって誘ってくれたのは初めてだね……嬉しいよ、ありがとう」


 俯き加減に美影は恥ずかしそうな仕草している。これまで何度か二人で出掛けてはいるが、美影の言う通り俺から誘ったのは初めてだった。改まって言われると俺も恥ずかしくなってしまった。


「あっ、そろそろ部活に行くか!」

 恥ずかしさ誤魔化すように時計を見て慌てるように部室行く素振りをする。

「そうだね、私もすぐに行くね」


 美影もまだ顔が少しだけ赤みがかっていてまだ恥ずかしさが残っているのか、俺は先に部室に行くことにした。


 翌日、自転車通学の俺は美影と放課後デートなのでバスと徒歩で登校していた。正門までの長い登り坂の下で自転車から降りて押し始める大仏に会う。


「おはよう、あれっ⁉︎ 珍しいわね、アンタ自転車でも壊したの?」

「……あのな、朝から何言ってるんだ。自転車は壊してないぞ! 放課後に用事があるんだよ」

「あら、そうなの……もしかしてデートにでも行くの?」

「えっ⁉︎ なんで大仏が知ってるんだ」


 大仏の返事に驚いた表情をしていると、大仏が呆れたような顔で笑っている。


「ふっ、適当なことを言ったけどいきなり正解とはね……でもちゃんと付き合ってるだ、アンタ達」

「……なんだよその言い方は」


 俺が少しムッとした顔で返事をすると、大仏は自転車を押しながらからかうように笑っている。


「だってヘタレのアンタがねぇ、夏休み前と変わってないと思ったけど、進歩したもんだ、ふふふ……」

「うっ……」


 大仏の言葉に返すことが出来ずに悔しそうな顔で黙っていると、大仏が吹き出して笑い始める。


「もうそんなに落ち込まなくても、アタシは褒めてるんだよ」

「本当かよ……」

「そうよ、まぁ、アンタなりにやってみなよ……昔みたいに後悔しないようにな」

「あぁ、そうだな……」


 返事を聞いて珍しく優しい笑顔をした大仏が自転車に乗る。丁度、校門手前の平らな場所に着いたので自転車をこぎ始めた。


「じゃあ、また後でーー」


 そう言って先に行った大仏の後ろ姿を見送っていた。大仏に言われた『後悔』の言葉が何故か心に突き刺さるような感覚になっていた。


(だいじょうぶだ……もう昔の事だ、だいたい後悔なんかしてないし……)


 暗くなりそうな気持ちを払拭するように力強く足を進めて昇降口を目指した。

 教室に着くと美影はすでに登校していて、俺が来たのに気が付くと笑顔で迎えてくれた。さっきまでの暗くなりそうな気持ちは微塵もなくなった。


「もういつもより遅いから、何かあったのかと思ったよ」

「あぁ、ごめんな、言ってなかったな。今日は自転車に乗って来なかったから遅くなったんだよ」


 俺が謝るように話すと、美影は放課後の事に気が付いて焦った顔をしている。


「そうだったごめんね、朝から大変な目に合わせて」

「別に大変じゃないよ。いつもと違ってたまにはいいかもな」


 俺が気にするなといった顔で笑っていたので、美影は安心した表情をして笑みを浮かべていた。美影の笑顔を見て俺も安心していた。


(これでいいんだよ……後悔なんてないんだから)


 そう心の中で呟いていた。

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