花火大会 ⑤
くたびれた顔をした皓太をよそに俺は芳本達を連れて美影達がいる場所へ戻ると、四人が楽しそうに会話をしていた。
(ふぅ、なんか良かった……でもなんの話で盛り上がっていたんだ?)
とりあえず美影との過去の出来事を追及されることはなさそうな雰囲気だったので、小さくため息を吐き胸をなでおろす。
「戻ってきたよ、それでお客さんを連れてきたぞ」
俺の声に四人とも気が付いて顔を上げると、白川と絢は俺の横に立って嬉しそうな表情をした芳本の存在に驚きの声を上げる。
「どうしたの⁉︎」
「うん、さっき宮瀬くんに会ってね、由佳達が来てるのを聞いて、連れてきてもらったんだ」
「そうなんだ、久しぶりだね」
「うん、こんな所で会えるなんて」
白川と絢、そして芳本の三人が集まって再会を笑顔で喜び早速話が弾み始めていた。皓太は俺の所でため息や愚痴をこぼし始めていた。取り残された空知はポツンと一人になっているみたいで、皓太に教えようとしたタイミングに美影が近寄ってきて話しかけてきた。
「こっちにおいでよ」
志保も座って手招きしていて、空知が小さく頷きながら嬉しそうな顔で移動した。美影達は空知と学校が一緒なだけでそんなに仲が良いわけではないが、多分美影は取り残された空知に気を遣ったのだろう。
俺はその様子を見て安心して皓太には空知のことを伝えなかった。それぞれ話が盛り上がっていると、暫くして最初の花火が大きな音がして打ち上がり辺りから歓声が上がった。
「おっ、始まったなぁ」
「あぁ、そうだな……良かったのか、宮瀬?」
皓太が改まって申し訳なさそうな顔で答えてきたので、俺は困惑した表情をする。
「何でだよ」
「だって未夢のせいで大人数になってなんか悪いなと……」
「そんなことはないさ、大体芳本を誘ったのは俺だし」
「まぁ、そうなんだけど……」
それでも皓太はまだ自分を責めるような表情をしているので俺が周りに聞こえないような皓太に耳打ちをする。
「本当は、俺が助かったんだよ……」
「えっ……あぁ、そういうことか」
皓太はそう呟きながら何かを察して美影と絢の顔を見た後に俺を見て納得したようだ。皓太達が来る前までの話を簡単に説明をすると皓太は俺の肩を叩き苦笑いしながら何度か頷いていた。
「何も言わなくていいぞ、皓太なら分かってくれるよな」
俺も苦笑いして美影と絢の様子を伺うと、二人ともそれぞれ花火を見上げて楽しそうな表情をしていた。絢は芳本と白川の間で話についていくのが大変そうだが笑っている。美影は空知に気を遣いながらも志保と三人で笑顔なので安心していた。
「でも、山内と笹野は心中穏やかではないかもしれないぞ」
「……もうそれ以上追及しないでくれ」
皓太は脅かすようなことを言って薄笑いしながら俺の顔を見ているが、無視するように俺は花火を見上げて考えないようにしていた。
すると皓太は無言で何度か俺の肩を叩きながら励ますような表情をしていた。
それから花火が終わる一時間弱、夜空に上がる花火を眺めていた。最後には大輪の花火が打ち上がり大きな歓声で終了した。
「ありがとう、宮瀬、そろそろ未夢達を連れて帰るよ」
「そんな別に何もしてないぞ」
皓太が珍しく丁寧にお礼を言ってきたので驚いていたら同じように帰る準備を終えた芳本も笑顔でお礼を言ってきた。
「本当にありがとうね、まさか由佳達に会えるとは予想してなかったし、楽しかったよ」
「そうか、良かったな」
白川と絢も笑顔で芳本に手を振っていていろいろと楽しかったみたいだ。最後に空知が皓太の横に並んで、三人が揃った。
「ありがとう……宮瀬くんまた学校で」
空知も二人と同じようにお礼を言って、笑顔で美影達に手を振っている。
(美影達もどうやら仲良くなれたみたいだな、同じ学校だし良かったな)
俺は皓太達を見送りながら何事もなくて良かったと小さくため息を吐いていると、背後から白川が話しかけてきた。
「じゃあ、私達も先に帰るよ」
「えっ……」
不意をつかれたような声で返事をすると、白川は少し驚いた顔をして説明をしてくれた。
「あっ、宮瀬くんには言ってなかったわね、私のお姉ちゃんが近くまで迎えに来てくれるの」
「そ、そうなのか」
絢も帰る支度を済ませて白川の脇に立ち小さく頷いている。
「今日は楽しかったよ、またね、よしくん……」
俺にしか聞こえないぐらいの声で絢が少し寂しそうな顔で話してきた。
もう美影達には別れの挨拶は済ませていたようで絢は美影に小さく手を振っている。迎えに来ると言っていた通りが方向に歩き始めようとしていた。
「うん……またな、気をつけて帰れよ」
そう言うと絢はもう一度小さく頷き、白川に慌てるようについて行った。
(また次に会う時は……)
今度は絢達の後ろ姿をなんとも言えないような気持ちで見送っていた。
「どうしたの、由規、帰るわよ」
振り返ると志保が心配そうな目つきをしていたので、俺は慌てて返事をする。
「そうだな、帰るか……」
不意をつかれた感じで慌てて答えたが、変に気づかいされないように注意しないといけないと思った。美影は片付けをしていたみたいで、とりあえずは志保にしか見られていなかったようだと安心をしていた。
片付けも終わり三人で元来た道を戻っていった。その帰り道は美影の機嫌が明らかに悪くて目を合わせることなく、話しかけてもこなかった。
そんな様子を志保は呆れたような顔で見て、俺を責めるような目をしていた。
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