テセウス

些事

第1話

テセウス。


…この星で特徴的だったのは、

厚い雲の様なガスが辺り一面に漂っていた事だ。



ちょうどドライアイスで発生させたスモークの様に怪しく地面を覆っている。


俺たちは下船した際にそのガスを浴びたのだが…。

しかし人体に有害なガスではないらしかった。



…とある任務を終えた2人は、

月面基地へと帰還する途中であった。


しかし、突如として

宇宙空間で謎の電磁波を受け、電子、通信機器が故障、

また船体の一部破損を受け、

予定軌道上から大きく外れてしまう。


予備電力を使い、

残された推進力を持って、

偶然、着陸施設のある小惑星を発見した。



着陸の衝撃によって気を失ってしまった2人は暗闇の中で目を覚ました。


無事か…?

ええ、なんとか。


災難だったな。

けれど、不幸中の幸いなのかしら、

こんなに立派な施設が、こんな辺鄙な星に建設されていたなんて。


無事に着陸に成功した男女2人の宇宙飛行士"俺"と"わたし"は、宇宙船から降りた。


辺りには同じような船体が並んで保管されていた。


…俺たちの他にも誰かいるみたいだ。


"俺"は宇宙服に備え付けてあった小型の無線機を取り出し、施設と通信を試みた。


…だめだ。ここでも通信機器は使えないみたいだ。


暫く施設を目指して歩き出すと、辺りに濃い霧が現れ始めた。


なんだこの霧は?前が全く見えないぞ!?


気づかない内に、"俺"の背後を付いてきていた"わたし"の姿が見当たらない。


どこだ!どこにいる?

ここよ、ここにいるわ!

こっちへ来て!


気がつくと真っ白な霧が充満し、

あたりを覆い隠していた。


2人は施設の者に助けを求めたが、

何の応答もなかった。


やはり、おかしい。

通信が不可能だった状況とはいえ、

許可の下りていない船体を野放しにするか?


施設の入口に立つと、

"俺"はある事に気がついた。


見覚えのある施設の紋章があった。

それは、"俺"と"わたし"が所属する宇宙局の紋章だった。


どういう事だ?

おかしいわ…。こんな施設に該当するデータはみた事ない。


認証システムによる検問が行われたが、問題なく2人は施設に入場した。


…助かった。何なんだあの霧は。

でも、何の反応もないみたいね。


"わたし"は身につけていた測定器を"俺"に見せた。


人体に影響はない値よ。…殆ど水ね。

そうか。ひとまずは安心だな。



安全を確認して2人は重い宇宙服を脱いだ。

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