【わたカメ】取り残された島のRomanceII/私の小さなカメラマンー失恋で荒れる私がふんわり系天然後輩に一目で癒され百合関係に溺れるまで<初美と美岬の場合>
永倉圭夏
第1話 初美大いに暴れる
「おお、なにやってんのあんたら」
私の目の前には薄暗くて薄汚い路地裏。時折自動運行車のライトで照らされるそこには、倒れ伏した一人の女の子とそれを囲む四人の男たち、いずれも高校生に見える連中、がいた。
お世辞にも仲良くしているようには見えない。眼鏡をかけたショートカットの女の子は恐怖で震えている。
「へえ、てめーも一緒に遊んでくってか」
「まじまじー」
「ねえねえ一緒に遊ぼうよー」
「飛んで火にいるーってやーつー?」
一人の男子高校生が私に近づき、その汚い手で私の肩に触れようとした。
「ひょー、よく見たらけっこかわいーじゃん」
パチっと音がしてその男は顔を押さえうずくまる。おびただしく流血するほどにこいつの鼻は折れてひん曲がった。
「あおえっ、ってぇ……っ」
男たちから見て車のライトの逆光に照らされた私は、まるで目から怒りの炎が噴き出してきそうなほどだったろう。
私にしては精一杯どすが利いて怒りに満ちた声で処刑の宣告をしてやった。
「あんたらついてなかったね。きっちきちにしばいてやっから覚悟しな」
私、岡屋初美はつい一昨日、盛大な失恋をした。その怒りも冷めやらないままこいつらと出くわしてしまったのだ。憂さ晴らしにはちょうどいい。こいつらにとっては不運以外の何物でもないが、そんなの私が知ったこっちゃない。こんなゴミクズうんこども。
「ちっと空手が出来っからって、つけあがってんじゃねえぞお、おらあ!」
恐らくこいつも空手の覚えがあるのだろう。男が拳を繰り出す。が、遅い。構えから初動から拳から何から何まで。ツインテールとスカートをひらめかせ、私の拳が男には見えない速さで顎を叩き上げる。ついでに腹に一発。体がくの字に折れたところで思い切り男たちのいる方へ蹴り飛ばす。生ごみの詰まった袋の山に突っ込まれた男は意識を失っていた。
「あたしさ、黒帯。大体さっきんで拳速読めずにイキって突っ込むとかバカじゃねーのって。おら、次誰だよ」
やけくそになって殴りかかってくる男。余裕で腹に膝を入れて悶絶させる。スカートがまくれたけどもうどうでもいいや。
最後の一人は逃げようとしやがった。それを見て私の怒りが更に燃え上がってしまった。襟首を捕まえて引き倒す。
「てめーみたいのが下の下なんだよ。逃げるくらいならやんなよ、あ。逃げられると思うなよ、なあ」
結局怒りと機嫌の悪さの相乗効果で過剰な闘志に溢れる私のせいで、男たちはもうこの場から起き上がるのもままならないほど痛めつけられてしまった。顔の形もすっかり変わっている。
被害者の彼女は運がいいことにかすり傷ひとつ追ってないようだ。男どもは放置して震える彼女をとりあえず近場のレオナルディ(※)へ連れて行った。
▼用語
※レオナルディ:
最古にして最大のハンバーガーチェーン。中高生からサラリーマンまで幅広い層からの需要がある。包装紙は白地にオレンジ。可愛らしいクマさんがマスコットキャラクター。
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