輪廻を断ち切る者
サクヤ大佐
序章 死による終わりと始まり
「――終わった…のか…な。」
身体がふらつき、ゆっくりと地面に倒れていった。双剣を握る力すら残っておらず、
(ここが、限界…か。)
地面に咲いた鮮血の華、おびただしい数の死体の山…隣国からの
『神の尖兵』――戦場に現れた白い鎧を纏いし神の使いをそう呼称した。その力は敵兵およそ五十人分に匹敵するとまで言われている。その尖兵を、少女は救護所を守るためたった一人で撃退した。
――最早それは奇跡に近かったが、その代償はあまりにも大きかった。脇腹と左目はえぐり取られ、右腕は
「ぅ…ぁ…。」
「いや…死なないで!」
「――絶対助けますから!」
目から涙が零れそうになりながら、必死に治癒術を掛けていた。だが、しかし――
(やっぱり、傷が塞がらない…)
原因は分かっていた。過去に賊から右腕に受けた
「だめ――これ以上は。」
「嫌ですっ!絶対――見捨てません!」
術者の顔からは血の気が引き、手元がおぼつかなくなってきていた。それでも、一%の可能性を信じて必死に続けたが……状況は変わらなかった。
「なんで――逃げなかったのよ!…怖く、なかったの?」
「――っ!?」
金髪の少女は目を赤く腫らし、涙を溜めながら怒っていた。
(怖くなかった?――か。確かに、逃げれば痛くなかったかも…。)
しかし、私はそれを良しとしなかった――否、出来なかった。
『ここで逃げれば、諦めながらも積み上げてきた物を否定することになる。』
戦う直前、最期に頭に浮かんだ言葉が、私を突き動かした。
「――だって、逃げるなんて…格好悪い…じゃん。」
手足からは力がすっと抜けてきていたが、力無く少女に笑いかけた。結果としてこの笑顔も、救護所の安全も守ることが出来た。
――もう、十分だった。
(ああ、でも――もっと助けたかったな。)
それでも…願ってしまった。
『ならばその願い、この私が叶えよう。』
ただ一人、微睡みの中で見たふわふわと宙に浮かぶ白いローブを着た少年を除いては。
(――誰?)
少年の姿は誰にも見えなかった。正体を知りたくて必死に手を伸ばしたが、その手が届くことは無かった。
『…どうか
うららかな陽気に包まれるような話し方だった。安心したのか、うたた寝するかの如く事切れていった。
「…この身が滅びようとも最後まで
少女がこと切れた後、傍らに寄り添っていた金髪の少女――“フェイト・テイラー”は涙を流しながら、堅く決意するのだった。
――これ以上、悲劇が繰り返されないように。
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