第5話 戦々恐々(せんせんきょうきょう)

「とぼけんなよ。おまえから、悪魔特有の、嫌な匂いがする。キザでいけ好かないロビンと同じ、魔人の匂いがな」

「ロビン様のことを、悪く言うな!」

 はっと気付く頃には、時すでに遅しであった。鋭い目つきで僕を睨んでいた男子高校生がにやりとする。

「ふーん……おまえ、ロビンの使い魔か」

 僕は押し黙った。今更、そんなことをしても無意味だと言うのに。自ら正体をバラしてしまった。ロビン様との約束を破ってしまった。それでも、ロビン様の悪口を僕は許せなかった。

「だったらこのまま、黙って見過ごすわけには行かない。そうだろう?シュオン」

 そう言って、男子高校生が足下に視線を落とす。

「そうだな」

 いつの間にいたのか。一匹の白猫が、男子高校生の足下に座っている。透き通る青い目が凜々りりしくも鋭い光を放っていた。

「ロビンの使い魔となればおいそれと逃すわけには行かない」

 白猫が喋っている。それも凄みを利かせて。僕が魔人じゃなかったら、きっと驚愕していただろう。今でもちょっとびっくりしているくらいだから。

「きみ達は一体……」

「そっか……この姿じゃ、判りにくいよな」

 男子高校生はそう言うと、白猫とともにポンッと軽い音を立てて、正体を明かした。

「……っ?!」

 男子高校生と白猫の正体を目の当たりにした僕は、驚きのあまり目を見開いた。

 男子高校生が、紺色の短い髪に濃紺のマントを羽織った青年へ。

 その足下に座っていた白猫が、藍色のおかっぱ頭に白色のマントを羽織っている青年へと姿を変える。


 天空の騎士団!!


 一気に青ざめた僕にとっては最も出逢であいたくない天敵……一度も戦ったことはないけれど、彼らに負ける自信がある。

「ティオと、この近くの公園で戦っていた時、すぐ後ろからおまえの気配を感じ取った。樹木の裏に隠れていたのは判っていたが……先廻さきまわりして、正解だったな」

 僕自身の存在が、とっくにバレてたっ……!

 そして先廻りをして僕を待ち伏せていたんだ。あの写真は、僕の気を引くためにわざと……?

 天空の騎士団……なんて怖ろしい人達なんだ!!

 なんて内心で叫びつつ、青ざめた顔で愕然とした僕は、全身を震わせ、戦々恐々せんせんきょうきょうとしたのだった。

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