宇宙記ソラキ

1 心臓のないヒト

1時間目 三日坊主

「起立。これから4限・ソラキの授業を始めます。礼」


生徒の着席を確認した教師は、開始そうそう爆弾を落とした。

「では、課題の日記を回収します」

騒然とする教室。

微笑む教師に、1人の勇気ある生徒が問うた。

「この一週間で3日分と聞いています。提出は来週なのでは?」

笑みを深めて教師はさらに爆弾を落とした。

3日、です。そのような考えだと、ソラのごとく三日坊主まっしぐらですよ?」

教室がどっとわいた。笑い爆弾だった。

知られた話なのだ。

宇宙で最も有名な、ソラの日記・ソラキ。

そのはじまりが三日坊主であるということ。

笑ってはいけない偉人なのに笑ってしまうとは、まさにこれなのである。

「ソラキの授業は、週に一時間です。一日400字書くように。データは当日の授業開始までに、共有ドライブへ提出すること」

ソラキによって日記は神聖化されており、もはや反論を持つ者はいなかった。


「さあ、改めまして。入学おめでとう。ソラの母校へようこそ。みなさんには一般の中等教育課程に加えて、宇宙学と、そしてもちろんソラキを履修してもらいます。これから一年間、ソラキの旧宇宙について書かれた部分を読んでいきましょう。1時間目の今日は、冒頭・例の3日分を読みます」


 §


2114.7.21

人類が月に降り立った日。

今日は僕の15歳の誕生日だ。

朝起きたら、デスクにまっさらな日記帳があった。

両親は日の出前から研究所にこもりっきり。

例の生物コンピューターが、人工脳として非臨床試験インビボを通過したらしい。

脳幹機能喪失脳死後の回復が確実になった」んだそうだ。

僕が夜空を見上げれば帰宅をうながす。

望遠鏡をねだれば与えられるのは顕微鏡。

両親は僕に屋内で生きることを求めた。

僕は宇宙が見たいだけなんだ。

思い返せば動悸がする。

そしていつものように母が部屋にやって来た。


2114.7.22

研究所へ通うように言われている。

為になることは否定しないけど、分野が違うんだな。

と言いつつ、資料室はやっぱり楽しい。

いつか書く側になりたい。


2114.7.23

研究所の定期報告会があった。

おとといのこともあって、騒がしかった。

ホールに顔を出したら、両親は僕を紹介した。

いきなりフラッシュがたかれた。

心臓に悪いからやめてほしい。

ラボに逃げたけど息を切れた。

A研究員が同じように逃げてきて、顔を見合わせた。

毎度ながら苦手なんだそうだ。

僕もだ。


 §


「以上が、ソラが中学3年生だった時の日記になります。この頃の旧地球と言えば、異常気象や大気汚染などで、日光を安全に浴びられるのは一ヶ月に1回あるかどうかでした。両親の制限は正しかったのです。しかし、ソラの興味は宇宙論にありました。このことは彼の未来に大きな影響を及ぼします。私達の存在にも......」

そわそわし始めた生徒を見やって教師は眉を上げた。

「......周知の通り、ソラキはこの3日の後、半年の空白があります。再開にいたる事情は次回に持ち越しです」


「起立。これで4限・ソラキを終わります。礼」

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