第8話

海への道は、街の出口が森とは反対側だった。

そういえば、風に潮の匂いが混ざっている。


「トワロ、セリスさんてどんな人? 」

私が問いかけるとトワロは困ったように笑った。

「両親はもう事故で亡くなっています。一人で海岸に住んでいます」

「へぇ。そうなんだ」


そう言いながら歩いていると砂浜が見えてきた。

「そろそろですよ」

トワロはそう言って歩き続ける。

私は靴に入った砂を一度だしてみたけど、無駄だと思ってトワロの後を追った。


「こちらです」

トワロが立ち止まった先には一軒のみすぼらしい家屋があった。

「こんにちは、セリスさん、いらっしゃいますか? 」

「誰だい?」


トワロの背中の方から声がした。

身長170くらいのショートカットの美女が立っていた。

噛みの色は青く、首筋と太ももに七色のうろこが光っていた。


「セリスさん、こんにちは」

トワロが笑った。

「なんだ、トワロじゃないか。ひさしぶりだな」

セリスさんも笑って答えた。

「初めまして、朝葉と言います」

私は慌ててお辞儀をした。

「はじめまして、セリスです」


セリスは銛を背に担いでいた。その銛には大きな魚がくっついていた。

「ちょうど、食事の準備をしてたんだ」

そういうと、セリスは銛に刺さった大きな魚を差し出した。

「食べるかい? 」

冗談ぽくセリスが私に言った。

「いいんですか? 」

私が目を輝かせると、セリスは笑った。


「怖がらないんだね、アンタ」

セリスはそう言って、銛から魚を外した。

「まあ、何の用事か検討は付いているけど、よかったら入りな」

セリスはそう言って、きしむドアを強引に開けた。


家の中は片付いていた。

というか、あまり物は置いていないようだ。

「セリスさん、街道にマンドラゴラが出た話はご存じですか? 」

「ああ、聞いてる」

そう言いながら、セリスさんは魚をさばき始めた。

私はその仕草が流れるように美しかったので、思わず見とれた。


「で、良いんですか? 手伝って頂けますか? 」

トワロが訊ねる。

「どうしようかな? 」

セリスさんはそう言いながら、捌き終わった魚に塩をして焼き始めた。

「美味しい物、ごちそうします」

私がそう言うと、セリスさんは笑って言った。

「美味しい物か、そりゃ良いね」


私が微笑むと、セリスさんは魚の焼き加減を見ながら、微笑み返した。

「3000ギルで手伝おうか」

セリスさんがそう言うと、トワロは頷いた。

「契約成立ですね」

私は魚の香ばしい匂いに気を取られていた。


「それでは、明日、午前10時頃に迎えに来ます」

トワロが家を出ようとする。

私は慌てて、トワロの手を引いた。

「あ、魚、食べたいのね」

セリスさんが声を上げて笑った。


セリスさんは焼き上がった魚を大きな木の葉に乗せて、テーブルに置いた。

「いただきます」

私が待ちきれずに、つい声をだすと、トワロが吹き出した。

「召し上がれ」

セリスさんが焼いた魚は丁度いい焼き加減で、皮が香ばしく、鱗の処理も完璧だった。


「セリスさんも調理師のスキルをお持ちなんですか? 」

私がたずねるとセリスさんは首を振った。

「いいや、もってないよ」

そう言った後、頂きますと声に出してから魚を食べ始めた。


「美味しい」

私がそう言うと、セリスさんはため息をついた。

「よかった、一人では食べきれないサイズだったから助かったよ」

トワロは美味しそうに魚を食べる私たちを、呆れて見ていた。


セリスさんは良い人みたい。

美味しい料理を食べさせてくれる人に悪い人はいないもの。

私は、明日マンドラゴラの集団と戦うことを忘れて、魚とセリスさんに夢中になっていた。

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