第3話
「今日は宿屋に泊まって頂きます」
「はい、トワロ」
朝葉はそう言うとトワロについて行った。
街並みはそれなりに綺麗なのに、どうしてあんなにまずい料理が出回ってるんだろう。
朝葉はちょっと不思議に思いながら、トワロに訊ねた。
「ねえ、なんで皆美味しくない料理に不満を覚えないの?」
「なんでといわれましても、そう言う物だと思っておりますので」
トワロは困ったように答えた。
しばらく歩くと一軒の立派な建物についた。
「ここです」
「ここ!?」
朝葉は驚いた。昔、テレビで見たような超一流のホテルに見えたからだ。
「はい、本来なら王宮にお泊まり頂きたいのですが、今は立て込んでおりますので」
「いいえ、こんな贅沢な場所、本当に良いんですか?」
「はい、手続きをしに行きましょう」
「はい」
トワロは宿屋と言うには豪勢な建物に迷いも無く入った。
「いらっしゃいませ、これはトワロ様」
「こんにちは、支配人」
「こちらは?」
「勇者さまだ」
私は小さな声で言った。
「あの、朝葉と言います」
「これは勇者様、どうぞおくつろぎ下さい」
「はい、ありがとうございます」
私が答えるとトワロが言葉を続けた。
「食事は済ませてきた。明日の朝食はお願いする」
「はい、かしこまりました」
豪華な宿屋の朝食!
期待できそうだと私は嬉しくなった。
「それでは、明日また迎えに来ます。朝葉様」
「はい、お願いします」
私はトワロに別れを告げると、支配人の案内で一番大きな部屋に通された。
「わあ、すごい」
部屋の調度品は芸術品のようだったし、壁に掛けられた女王の肖像画も見事だった。
これは食事も期待できそう。
私はシャワーを浴びて、ガウンに着替えるとすぐ眠りについた。
***
コンコン。
私はドアをノックする音で目を覚ました。
「おはようございます。朝食の準備が整いました」
「はい! ありがとうございます!」
私はワクワクして、部屋に届けられた銀のトレーの蓋を開けた。
・・・・・・がっかりした。
パンみたいな物と、市場で見たリンゴみたいな果物を剥いた物しか入っていなかった。
「いただきます」
パンみたいなものを一噛みする。
・・・・・・粉っぽい。
果物は美味しくてホッとした。
やっぱりこの世界では、料理ってあんまり重要視されていないみたいだ。
私は果物をおかわりして、一息ついた。
すると、またドアをノックする音がした。
「おはようございます、トワロです」
「おはようございます」
私は慌てて身支度を整えた。
昨日買ってもらった装備を身につけると、もう一度ノックが聞こえた。
「はい、どうぞ、トワロ」
私は急いでドアを開けた。
「今日は森に行きます、準備は大丈夫ですか? 朝葉様」
「はい、お腹もいっぱいだし大丈夫です」
「それは良かった」
私たちは宿屋を出て、街を出た。
草原をあるいてしばらくいくと、うっそうとした森が広がっていた。
「ここです、朝葉様」
「ここで何をするんですか?」
「モンスター退治の練習です。ここはスライムや、角つのウサギ位しか出ないから、初心者にはうってつけの練習場です」
「そっか。美味しく料理できるのかな」
私がそう言うとトワロはぎょっとした表情で振り返った。
「モンスターを食べるのですか?」
「だって、美味しい食材を捨てるのはもったいないでしょう」
トワロは呆れた顔で、私をまじまじと眺めていた。
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