八シャーク様
リリーキッチン百合塚
前編
――皆は、山奥で人を呪うサメと出会ったことがあるだろうか?
この物語の語り部であるわしの名は
そして、これは昭和三十八年の一月、わしがまだ十八の学生だった頃、最も記憶に残っている正月の話。
***
私の家は恒例行事として三が日を父方の両親の実家がある小さな村へ帰省するのだが、事件はこの帰省期間の二日目から始まる。
「兄さん、少し外へ出ないかい、あの川にはサメが泳いでいるみたいだし興味あるでしょ?」
この日の朝は、来たところで結局やることも無い田舎で暇を持て余した眼鏡と生まれつきの
この日は村中が雪で積もっており、理由がなければ外に出るつもりもなかったのだが、
「行きたいに決まってるじゃないか、智和!」
ちょうど、サメの発見報告を元日の祝いの席で聞いて好奇心を揺れ動かされており、元気ハツラツで山を登ることとなった。
冬用の防寒具を纏い、頭の上もサメのデカールが目立つニットを被ってと準備も万全だ。
登る山は草木が雪に埋もれて真っ白な自然となっており、この先にサメがいることを踏まえれば綺麗にも思えてくる。相乗効果と言うやつだ。
標高や広さもたかが知れており、川も目印をしっかり付けておけば夕方までには往復できる距離で家族への迷惑などを考える必要もない。
「ねぇ兄さん、この山にあんなところあったっけ」
ただ、その通り道で古びた神社と倉庫を見つけた。経年劣化が激しく周囲の木々がうじゃうじゃと巻きついているその神社は少し不気味だ。
正直こんな神社、私としてはどうでもよかったのだが元々この山を登り慣れている弟は興味を持ってしまい大きな足止めを食らってしまった。早く川へ行きたい。
「仮に見たことがあったとして、私がサメ以外のことについて覚えているとでも?」
なので、無視して進もうとした。
「とりあえず入って見よう、なんと入るだけならタダだよ!」
だが、勢いに押し切られ結局倉庫の方へと入ることとなった。
その中は、古い書き方なせいでイマイチ読めない漢字が記された御札が床から壁から天井と隅々まで無数に張り巡らされており、その中央には古い伝承に出てきそうな柄から刃まで全てが銅製で持ちにくそうな造形の剣が突き刺さっている。
なんというか、禍々しさと神秘的な輝きを同時に感じられる不思議な空間だ。
「これ、カッコイイから持って帰りたいね。伝承や神話の世界みたいでしょ」
「もう侍の時代は終わっているのを忘れてないか? そんなものとっとと引き抜いて川に行こう」
やはりこんな場所にいてもサメはいないし引き抜かせて智和の機嫌取ることにした。
おかげで手っ取り早く智和の冒険は終わり、サメが出るらしい川にも余裕を持って到着。そして、無事に川を泳ぐホオジロザメを観察する正月の思い出も作ることが出来た。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか兄さん」
「智和は剣を手に入れ、私は川を泳ぐホオジロザメを観察しその全てを研究ノートへ記帳できた、誘ってくれたおかげでお互いハッピーシャークだ」
それから、日が暮れる前に下山していった。
木々と共に映える雪景色の中、お互い満足感を得て非常に笑顔である。
「ん、なんだあれは?」
「陸を泳ぐサメでも見つけたの?」
……だが、そんな私達の前に、不自然なものが視界に写った。
――それは、八尺に連なったサメ。
もっと言えば一匹辺り一尺サイズの少し小さめなホオジロザメが五重塔の如く縦に連結して地面の上に立ち上がっていた。
最先端だけ横に曲がっており、
「なんだあのサメは……
一度だけ夢に出てきた幻の連結サメ"
なにか「ぼぼぼぼ」と不思議な声を出しているがサメの鳴き声は千差万別、多様性の一つと言えよう!
それを現実で目にする事が出来るなどとは考えておらず、私は周囲の木々を切り倒して即席で捕獲装置を作るため今にも動き出そうとしていた!
だが、何故か智和はそんな私の動きを止めるかのような一言を告げる。
「兄さん、僕にはあれが白いワンピースを着た女性に見えるんだ」
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