【オマケとジャガイモとソーセージ】

 袖を捲った腕はかなりの筋肉質だ。

 様々な武術をを十年以上やってきた深海だからこそ、この男の体は戦闘のために作られた体だと分かったが、その鍛えられた腕でどんな料理が作られるのかと少々気にはなる。


 台の上にゴロゴロと並べられたのは深海も良く知っている野菜がメインだ。

 丸くごつごつした可愛げのない野菜。

 ジャガイモだ。


「ジャガイモですか」


「おっ、お前の世界にもあるのか?」


「ありますよ。それにしてもジャガイモにくず野菜、ひよこ豆、気持ちばかりのベーコン。と、鶏がらですか。本当に質素ですね。パンも小麦でなくライ麦で作るみたいですし。」


「取り合えずスープメインな。白いパン何て贅沢は国民の事考えたら出来ねーよ。ベーコンは気持ち程度だからたんぱく質補うためひよこ豆のサラダも付けて、と」


 くず野菜とジャガイモとベーコンはスープに入れるらしい。

 昨日の晩餐ではまさかジャガイモが主食の国だとは思っていなかった。

 食事のメニューに出てこなかったし。


 ジャガイモ。

 地球でのジャガイモはヨーロッパ料理の重要な食材である。

 このジャガイモは、まさに貧しい農家の食べ物で、パンを食べる代わりに農民の間で食べられた作物だ。

 ジャガイモは小麦やライ麦と違い、非常に痩せた土地でも栽培できることが特徴。

 本来麦を植えられない場所でもジャガイモなら収穫できる為、農家にとって重宝される。特にドイツなどの気候が

厳しい国々にとっては救いの作物となった。


 特にアイルランドではイギリスの植民地時代、収穫される小麦は宗主国であるイギリスに送られてしまうため、小麦が育てられない余った土地で多くの農民がジャガイモを育て飢えを凌いでいた。


 そして昨日出てきたソーセージ。

 まず、貧しい土地では肉を食用に解体するとき、当面の間食べる分は「生肉」として扱わる。

 しかしこれではすぐに腐ってしまうので、何とか保存しなければならない。

 冷蔵庫がなかった時代、一番用いられたのが塩漬けで、肉の赤身の部分は塩漬けにして保存され大切に食べられていた。


 また、ベーコンなど、薫製することによって塩漬け以外の保存方法もある。

 ヨーロッパの北部では燻製、南部では塩漬けが主に保存に用いらた。

 そして、それ以外に余った豚肉の部位、例えば、カットされた余った部分の赤身、また使われない内臓などだ。

 これを何とか利用できないか?


 そこで考えられたのがソーセージだ。


 ソーセージは余った部位の肉をミンチにして使用する。

 挽肉にするによって、どんな形の赤身でも使えるようになる。

 また、余った腸は肉を詰める袋として利用でる。

 さて、ここで注目すべきなのは解体した豚を一片たりとも無駄にせずソーセージを作る農家の執念だ。

 なぜそこまで必死になるのかと言うと貧乏農家にとって越冬するのは本当にギリギリであったからである。

 豊富に食料が無い土地である場合、冬を越すだけの十分な麦も収穫できるわけでもない。 


 その為、生き延びるために豚肉のどんな部分も無駄にしない。

 そういった農家のギリギリの生活がソーセージのような料理を生み出した。

 昨日出てきたおかずの主菜は様々なソーセージだった。


 その時点でかなり食料が取れない土地だと検討は付けていたが、まさか主食がジャガイモとなると想像以上にこの国は食糧難であるようだ。


 さて、ラキザの方だが、ひよこ豆は煮て冷やしたものに酢とオリーブオイルを混ぜたドレッシングで和えたサラダを作っていた。。

 主食のパンは塩と水だけを使ったライ麦のため黒みがかった物が出来ていた。

 恐らく柔らかさも昨日の白パンと比べて大分硬いだろう。

 だが鶏がらで出汁を取り、野菜とジャガイモとベーコンを煮込んだスープは塩だけの味付けだが鶏がらのエキスが出ていそうだし、ひよこ豆の方も深海から見ても中々美味しそうだ。

 少なくとも機能のシェフの料理よりはあきらかに美味しいだろう。


「親衛隊って料理も作るんですか?」


「ん、これは半分俺の趣味。自分が作ったもの旨いって食べて貰えるのって嬉しいじゃん!んで半分は毒殺回避。カグウ、って王様の事な。カグウと俺たち親衛隊は幼馴染なんだけど半分が下民の血だからってしょっちゅう命狙われててな。せめて食事だけでも楽しんで食べさしてやりたくて俺たちが料理作ることにしたんだよ。つっても今の食事番は専ら俺だけど」


 笑うラキザは無邪気だ。

 話している内容は笑って話すようなことではないと思うのだが、もう頭の中で王が自分の作った食事を美味しそうに食べてる姿を思い浮かべているのだろう。


(何かクロナ姫よりこのラキザさんが仕えている王様の方が話分かりそうだな)


「さ、運ぶか。お前も一緒に食うか?」


「良いんですか?王様が食べる食事ですよね?」


「だって大勢で食べたほうが飯は旨いだろ?」


 ラキザは何処までも人が良いらしい。


「あ、じゃぁ片割れを迎えに」


「多分聖女さんの方はクロナ姫が食事用意してるはずだぜ。あっちの方が豪華だろうから向こうで食べたいなら別に無理に誘わねーけど」


「いえ、ラキザ様の料理美味しそうなんでご一緒させて下さい」


「本当か!やった、これで異世界の話しが色々聞ける!」


 ニカッと歯を見せたラキザはこれ以上ないほど無邪気な笑顔を深海に見せた。

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