【聖女とオマケの異世界生活基盤整え事情】

 事無く食事を終えて、深海はシェフに挨拶をしたい旨をクロナへ伝えた。

 最初は難色を示していたクロナだったが鳴海が自分もお礼を言いたいと言い出した為無下にすることも出来ず、深海は料理を作ったシェフに面通しすることが叶った。


「大変美味しい食事を有難うございます」


「シェフさん有難うございます」


 2人してぺこりと頭を下げる。


「い、いえ聖女様のお口にあったのなら恐悦至極にございます」


 小太りの人の良さそうなシェフがコック帽を脱ぎ胸に手を当て腰を直角に曲げる。

 汗もだらだら流しており深海はこんな場に呼び出して申し訳ないと少しだけ思った。

 しかし美味しい食には代えられない。


「俺も料理を作るのは好きでして、宜しければ次回料理をするとき厨房を覗かせて頂けないでしょうか?」


「せ、せせせせ聖女様のお兄様がですか!そんな恐れ多い!!」


「ナルからもお願いしてくれねぇ?」


「うん、シェフさん。ふーちゃんは本当にお料理作るの好きなんです。厨房見せてあげて下さい」


 今度は鳴海が腰を曲げた。

 その事にシェフの方が慌ててしまう。


「はい、聖女様がそうおっしゃられるなら…良いでしょうかクロナ様……?」


「良いでしょう。許可いたします」


 許可の宣言をしたクロナの視線は深海を睨みつけていた。


 :::


 怒涛の1日を終えて無事1夜を過ごすことが出来た。

 あの後部屋に帰った二人は入浴を勧められることもなく寝巻を渡されることもなく、下着の着替えすら渡されず部屋に返された。

 幸い深海が背負っていたリュックの中に下着の替えは入っていたので、濡らしタオルでで気になるところを拭いて下着を着替えて、新しい下着のまま就寝することにした。

 勿論先ほどまで着ていた下着は洗面台で洗う。


 蛇口があるのが驚いたが衛生管理が日本ほど行き届いていないであろう世界なので下着を洗うに留めておいた。

 歯磨きも置いてあったのだが歯磨き粉として塩・ミョウバン・白亜質の粉末などが置かれていたが、これが逆に歯のエナメル質を傷つける物ばかりなので某メーカーの携帯用マウスウォッシュでうがいをして歯磨きをした。


 深海が現世から異世界に飛ばされた時に背負っていたため異世界に持ち込めたこのリュックは一体そのリュックには何が入っているんだと突っ込まれることは多々あるが、最近になっては「そのリュック、何が入ってないの?」に質問が変わってきている。


 そんな訳で2人はそこそこ快適に夜を過ごせたのだが目を覚ましてからも扉には鍵がかかっているし、扉の向こうに人の気配があるので外に出ることは叶わなさそうだった。

 扉の向こうの気配は恐らく護衛を称した見張りだろう。


「あ~朝の散歩したかったな。せっかく花いっぱい咲いてるのに」


「あの姫さんに頼んだらさせてくれるんじゃないか?ナルにはお優しいからな」


「ん~でも私あのお姫様あんまり好きじゃない…ふーちゃんの事嫌な目で見るもん」


 鳴海は純粋無垢で子供っぽいところはあるし本人は認めないが天然だが馬鹿ではない。

 重要なことはちゃんと見ているのだ。


「この世界のことがもう少し分かるまでは精々聖女様役頼んだぞ片割れ」


「ふーちゃんが良いって言うまでは我慢するよ」


 何も考えていない様で鳴海は深海の行動原理を理解している。 

 本能的なところが多いかもしれないが、それは深海にとって都合が良かった。


「今日は厨房にも入れるし、そこからこの国がどういう状況か探っていこうと思う」


「うん。頑張ってねふーちゃん!」


「あぁ、まかしとけ」


 鳴海の頭をくしゃりと撫ぜる。

 鳴海はまた髪の毛が乱れるとむくれるが目が笑っている。

 深海はこの世界に飛ばされたのが鳴海と一緒で本当に良かったと思った。

 自分1人では元の世界に帰れる手段を見つける気力もなく廃人となっていただろう。


 鳴海が隣に居るから生きて行こうと思える。


 傍から見たら共依存の関係だろうが深海にはそんなこと関係なかった。

 たまたま生きていく為に必要な存在が双子の片割れだっただけだ。

 だからこそこの世界で2人で生きていくにしても何としても世界情勢を掴み、文化を掴み、生きていく術を身に付けなくてはいけなかった。

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