第3話 一方勇者パーティーの往く道は(勇者side)
-前話の後半部、すこし時間を遡った勇者パーティーサイドから見ると、こうなる。
ローンを追放した次の日
「ガッド、おはよう。いやあ爽やかな朝だな」
テントより顔をだしたプロムが、ほぼ同時に別のテントより顔をだしたガッドに挨拶を行う。
「うむ。少し頑張りすぎて起きるのが遅くなってしまったきらいはあるが、清々しい朝だ。足手まといの居ないことがこうも気分を良くしてくれるとは」
「ああ、もっと早くに放り出しておくべきだったかもな。セレンは未だ眠っているのかい。うちのテルルはそうだから聞くが」
「セレンは起こすやつも居ないのに早朝に目が冷めてな。再度結界を張ったあと、もう一戦挑まれたわ。返り討ちにして寝ているところよ」
「テルルもほぼ同じだな。あの二人、俺たち兄弟よりも似ているよな」
「うむ。今後を考えると良いことよ」
「確かに。では起きてくるまで、できる範囲の準備をしておこう」
準備・撤収等の作業は基本ローンに丸投げしていたので、テントの畳み方等は知らない。
だが力だけはあるので適当に畳み、片付けを終える。
そうしていると二人が起きてきたので、皆で軽く食事をとり、魔王城へ出発する。
山を降りてくると平野が広がる。
その向こうに見えるは魔王城。
城門が見える頃には、その門前に広がる人が見えた。
「おお、魔王軍のお出迎えだな」
意気揚々と言うプロム。頷くガッドも口を開く。
「さあ、行くか」
「「ちょっとまって」」
女性二人がそれを制止する。
「おねがい、少し休ませて」
テルルが訴え、セレンが頷く。
(二人ってこんな疲れやすかったかあ?)
少し疑問に思うも、疲れの原因が自分たちにあるのも否定できない男二人も首肯する。
彼らも女性陣ほどではないが軽い疲れを覚えていたが、昨夜より朝を思い出し、それのせいだと考えた。
((朝まで頑張ったからなあ、精魂尽きかけた))
「わかった。ここで休憩後、一気に行こう!
そこそこの数が居るようだから、予め攻め方を決めておこう」
休憩後、魔王軍の陣容が詳しく見える位置までやってきた四人。
「さて、ちゃっちゃっと終わらせて俺たちの村へ帰りますか」
「まずはセレン、バフを頼む」
「りょーかーい」
四人の体が光り輝く。
ゆっくりと魔王軍に近づくと、陣を包むように光の膜が張られる。
バフを掛け終えたセレンの息が少し荒い。
やはり緊張しているのか。
「あれは防御魔法だな。
テルル、大きいのを頼む。
俺とガッドはテルルのキャストと同時に突っ込む!」
「いくよーー」
賢者の詠唱が始まる。テルルの頭上に大きな魔法陣が順に三つ描かれ、詠唱終了後、光の玉/火の玉/水の玉が順次敵陣へと飛んでいく。
同時に勇者とパラディンが敵陣へ向けて走り出す。
「ふう。あれ、私これだけでこんなに疲れることはないのに」
体内の魔力が急激に減ったことにより疲れをあらわす。
「大丈夫よ、テルル。今のであちらほぼ壊滅だろうし。ガッドが居るからあちらの攻撃はこちらに届かないし」
話している間に光弾が敵の防御魔法と激突し、激しい光と音周りに響き土煙が立ち上がる。
土煙が落ち着き、姿を現したのは、無傷の敵兵たちと、今そこへ突っ込もうとしているプロム、ガッドであった。
幸い敵陣の防御魔法は相殺したのか解除したのかは不明であるが、消え去っていた。
「な、何で壊れていないの……?」
「テルル、もう一発魔法打てる? さっきほどじゃなくてもいいから」
「ごめん、今すぐはちょっと無理。魔力回復薬あればすぐだけど」
失われた魔力を迅速に復活させる薬。
いつもローンに管理させていたため、手持ちは互いに一本しか無かった。
その一本も、運の悪いことに今朝消費してしまっていた、二人共。
顔を見合わせ、ここに至って状況が良くないことに気づく。
「バフの効きもいつもに比べて弱いかも……」
「態勢を立て直すために山に戻ったほうが良くない?」
「でも二人行っちゃったし……」
魔力が乏しくなった二人は逃げ出すわけにも行かず、勇者とパラディンがその力を発揮することを祈りだす。
防御魔法が破壊され、敵陣に損害を与えることを期待した男二人であったが、それは叶わなかったことを理解した。
状況は厳しくなったが、やることは変わらない。
「うぉお! 魔王軍よ覚悟!」
剣を振り回し、近寄る雑兵を切り飛ばすプロム。
少し距離を置いて、雑兵の突撃を盾でいなすガッド。
曲がりなりにも勇者達、雑兵では相手ではなかった。
指示が飛び、勇者に近づいている雑兵が下がりだし、それを追う勇者は敵陣深く入っていく。
一方パラディンへの攻撃は止まず、勇者の方へ近づかせず、足止めさせられている。
数分それが続いたか、ガッドの前に重厚な赤い鎧を身に着けた騎士が現れた。
雑兵を下げさせ、馬から降りると声を発した。
「勇者パーティーの強きものよ、歓迎しよう。俺は魔王軍のコウ・フォトナー」
「魔王軍にも分別あるものも居るということか。
ならば名乗らねばなるまい。我はガッド・ランタニド、辺境伯の子よ。
掛かってくるがよい!」
「参る!」
背中の大剣を抜くや否や、その身なりから想像するより遥かに速いスピードで大剣を斬りつける。
が、大盾でいなされ、火花が散る。
角度を変えて何度か斬りつけるが、その度大盾に防がれる。
大きく振りかぶると、その隙をみたガッドの剣が飛んでくる。
「うむ、ガッドとやら、やるな。
我が全力を持って相手致そう」
雑兵の元へ素早く戻り、大剣を預ける。
別の雑兵に持たせていた真紅の槍を受け取ると、軽く先端を振った。
「改めて名乗ろう。
魔王軍第三席、神槍のコウ・フォトナー、全力で参る!」
先程同様、素早くガッドの前に戻ると、槍を繰り出す。盾でいなすガッド。
数合打ち合いが続くが、先程の大剣に比べ素早い穂先に応対が遅れだす。
(むう、我がこの程度で疲れたというのか。魔王軍のデバフを受けた覚えはないのだが)
もう少し落ち着いていれば、セレンによるバフが終了したことも気づいたかも知れない。
ガッドが勝機を見いだせぬまま更に数合、コウの槍を正面より大盾で受け止めてしまうガッド。
いなしている時と異なる打撃音が鳴る。
直後、大盾にヒビが走り、砕けさる。
バフによる強化は大盾にもされていたが、それが終了したため、衝撃に対し弱くなっていた。
「チィッ!」
攻防の要を喪ったガッドは、起死回生の策として大剣をコウに向け突き出す。
しかし、剣と槍、両者を高いレベルで操るコウに叶う筈もなく、槍により手元より弾かれる。
「覚悟ォッ!」
コウより繰り出される槍。死を覚悟したガッド。
だが穂先はガッドの首ではなく、右手首を跳ね飛ばすのみであった。
ガッドが唖然としている間も無く、返して繰り出される槍の石突により意識を失うのであった。
「「「ガッド!」」」
女性二人と勇者の叫びが重なる。
しかし状況は彼らに休息を許さない。
激昂するプロム。
必死の形相で周りの雑兵を蹴散らしに回る。
雑兵は力量差を理解しているのか、防戦に徹してなかなかしぶとい。
それでもガッドの居る場所へ近づこうとしていると、黒い鎧姿でハルバードを構えたものが現れ、声を上げた。
「勇者さんかな、もう降伏したら良いんじゃないかな?」
「うるさいわ! お前は赤いのとは違う四天王か。ガッドを救う前の剣の錆にしてやるよ」
「それは難しいと思うけどね。勇者さん、一応名乗っておくよ。魔王軍第四席、グルオ・コロール。獲物はこれね!」
言いながらハルバードを繰り出してくる。力はあるが真っ直ぐな軌道であり、たやすく躱す。
(ああ、確かに単調な攻撃は避けやすい。あいつのアドバイスであったか。忌々しい)
躱した隙に一太刀入れようとするが、素早い動きで躱される。
一進一退の攻防が続き、互いの息が荒くなってくる。
互いに細かい傷があるが、致命傷はない。ただ傍目にはグルオの方が疲れ気味か。
但しプロムにかけられていたバフは既に切れており、力量差はあまり無くなっている。
(いつもより疲れが早い。あいつを仕留めるのは十分可能だが、残りを仕留めるのは厳しいか…… 逃げ方を考えねば)
「はあ、やっぱ勇者って強いねー。
このままだと負けちゃいそうだ」
「ああ、次で仕留めてやろう」
「それは困るなあ。
ウィー、おねがーい」
「あのですね、グルオ、言い出したことは最後までやりきってもらいたい、と常々言ってるじゃないですか」
雑兵の中より現れる青いローブ。降参するかのように両手を上げている。
「インディペンデント・エンチャント・+/-」
詠唱後左右の手が別々の色に光り、それぞれが異なる魔法陣を描く。
左手の魔法陣の光はグルオへ、右手の魔法陣の光はプロムへ向かい、全身を包み込む。
「おおぉ!」「なっ!」
グルオのハルバードを持つ手に力がこもる。一方プロムは力が尽きかけているのか、剣で自らを支えている。
(デバフとバフの同時発動など! テルルでも成功率が高くないというのに!)
「ウィー、ありがとー。
みなぎった! それじゃあ勇者さん、オヤスミー」
ハルバードが振り下ろされる。プロムの意識はそこで途切れた。
「グルオ、殺してないでしょうね」
「うん、殺してないよ。見てたでしょ、峰打ちにしたの。
もう少し強かったら加減できなかったかも知れないけど」
「ええ、見てましたが念の為。
さて、残り二人を捕縛して帰投しますか」
プロムとガッドを捕縛した後の女性二人の捕縛は容易く行われた。
あまり損害を出さず魔王軍は完勝といえる状態で戦いを終えた。
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