幼馴染パーティーより切り捨てられた人形つかいは新天地でスローライフを送る(予定)
わーるうぉーたー
第1話 人形つかいは切り捨てられる
「ローン、お前とはここでお別れだ」
「え、今なんて言った?」
打倒魔王を目指し、同じ村出身でパーティーを組み、旅に出た僕たち。
ゴブリンなどの雑魚と対峙するのも必死だったことから始まった旅は、ようやく終わりを告げようとしていた。
そう、魔王城を目と鼻の先に見られる地に辿り着いたのである。魔王城に最も近い山の中腹、洞穴で本日の設営をすることにした。
霧が深いので周辺地形を確認後に野営用のテントを二つ貼り、周りに魔物などの気配が無くなったことを確かめた後、夜食と明日の朝食の準備など僕の仕事を済ませ、焚き火の前へ再集合した。
野外での食事としてはそれなりに充実したものを済ませ、最後の打ち合わせを始めかけたところで、リーダーであり「勇者」のプロムに変なことを言われたのだった。
「もう一度言うぞ、お前とも長かったがここでお別れだ。
パーティーを抜けて村にでも帰ってくれ」
やれやれといった風にプロムが言い捨てる。
「ちょ、ちょっと何言ってるかわからないんだけど。
なあ、テルル、ガッド、セレンもそう思うだろう?」
「「「私/吾輩/あたしたちも同じ意見だ」」」
見事なハモリだ。仲良いなお前たち。
「ど、どういうことなんだ?」
「具体的にはプロムも言いにくそうだから、わたしが簡単に説明してあげるわ。
あんた、足手まといなのよ」
プロムに寄り添う「賢者」のテルルがとんでもないことを言う。
「まったく、言わなくてもわかるでしょ。
プロムの権能は「勇者」で私は「賢者」、ガッドは「パラディン」でセレンは「聖女」。
で、あんたは? 「人形つかい」でしょ。日々の旅は兎も角、肝心の戦闘では最近特に役にたっていないじゃん。
他の「人形つかい」みたいにゴーレムとか操ってくれるとか、イケメンの執事みたいなの出すとかならねー」
この世界では12歳になると教会で神託の儀を受ける。そこで権能と呼ばれる適性? のようなものに目覚めるのだ。
この権能とは、名の示す能力が訓練などにより常人ではたどり着けない領域まで伸びていくという才能の卵のようなもの、とされている。
僕たちはそれぞれ、同じ歳に同じ村で生まれた後この権能に目覚め、それより二年後に魔王討伐の旅に出た。
彼らと僕が目覚めた権能はこのようなものだ。
「勇者」どんな武器も使いこなすことができ、手にした武器は魔王などの魔族に強大なダメージを与える。
辺境伯の八男?九男だったか、プロムの権能がこれ。僕以外の四人の中では一番強い。いつも偉そうなのも権能のせい、かな?
「賢者」あらゆる攻撃魔法の知識とそれを行使することを可能にする膨大な魔力を備える。
王都にも店を出している商人の子(有名らしい)、テルルの権能。何かと言い方がきついのは性格なんだろう。
「パラディン」とてつもなく頑丈で耐久力もすごい。盾を装備した場合、その防御力がパーティー全体に及ぶ。
この権能を持つガッドはプロムと双子らしいけど、ゴツくて正直似ていない。しゃべりがおっさん臭い。僕と同い年でしょうに。
「聖女」死亡以外の傷はほぼ治療可能。賢者に劣らぬ魔力を持ちバフ・デバフも使いこなす。
村長の娘のセレンが持つ権能。聖女と言う割には口が悪いんだよなあ。
と、これ以上の説明がいらないほどの優良な権能だ。そりゃ魔王征伐に行くよね。実際、神託の儀で神官のおじさんが発狂していたからね。
いわゆるレアクラスの権能持ちらしい。
物心付く前に両親が亡くなって、村外れに居着いていたじいちゃんに育てられたの僕の権能がこれ。
「人形つかい」人形を使う。訓練で複数の人形を行使することも可能。
「人形つかい」として知られている権能はそれほどレアクラスではないらしい。
まあ、信託の儀の際にはプロムたちに比べるとちょっと劣るかもなー、と思ったのは事実。
じいちゃんは知っていた権能らしく、二年間みっちりと指導と云う名のシゴキを受けた。きつかったな(遠い目)。
さらに旅を通じて鍛えた結果今は色々とできるようになったけども。
それはそれとして、納得いかない僕は言い返す。
「確かに僕の「人形つかい」はちょっと魔王征伐向きではないかも知れないけどさ、ここまでの旅では役に立ってきたと思うよ。
今でこそ戦闘で役に立たないように見えるかも知れないけど、小さい人形で魔物のヘイトを寄せたりとかさ。
君等の荷物の大半は僕の使う人形たちが持ってるし。権能とは関係ないけど野営とか消耗品の補充とかもやってきたし」
「それは明日で最後だから、もういらない。さっきも言ったけどゴーレムクラスの人形を使うとかならねー」
「それに村を出るときみんなで約束したじゃないか、みんなの権能を使って魔王を倒して一緒に帰ろう、ってさ」
「だからだよ」
今まで静かだったガッドが言う。
「魔王城ではほぼ個人戦になる。我らも村を出た時より遥かに強くなったとはいえ、お前を見ている余裕がない。
奴らと戦う上で、お前の権能は弱すぎて邪魔だ」
そう、ですね。確かにこの権能自体の戦闘力はあまりない。かといって人形が強いというわけでもないしね。
「さらに、バフ・デバフの理屈も知っているでしょ」
今度はセレンが口を開いた。
「これはあたしのせい、というより呪文の仕様なんだけど、4人と5人で効果が天と地でしょ。
だからまあ、決戦のときまでにはローンには抜けてもらおう、て4人で話をしていたの」
バフ・デバフの知識はともかく、4人でそんな話をしていたのは知らなかった。
僕が食材や消耗品の買い出しに行っている時か。
疎外感にダメージを受けていると、プロムが再び口を開いた。
「今日でお別れだから伝えておいてやる。魔王を倒したのち、俺とテルル、ガッドとセレンは結婚する」
「」
いや、それは知ってましたがね。時折、というか君ら交互に盛ってましたがな。
僕には関係ないことなので知らんふりはしてたけどさ。
「まあ、そういうことだ」
ガッドが少し照れた顔で鼻の下をこする。なんだこの茶番。いい加減不愉快になってくる。
「こういうことかな。魔王城までの道程が快適になるように僕は居たのかい?
消耗品とか宿泊所の手配や野営所の設営、食事の準備とかをする人員として、パーティーに入れていたと」
「そう、取られても仕方が、ないな。
まあ「人形つかい」程度では途中で脱落すると思っていたのもある」
悪びれず言い切るガッド。
「我らが魔王討伐するのは確定ながら、全員が無事に帰ってしまうと魔王が弱すぎたと勘違いされる可能性もある。
そこでお前程度ではあるが、同行者が一人でも途中で脱落したならば、魔王の強さを疑うものも減るだろう」
言いたい放題やね。そんなに魔王って弱いの…… かなあ?
「で、君たちは明日魔王を倒して村へ帰ると。僕は? 魔王倒していないけど。
村に戻って直前で勇者に追放されたとでも言うよ?」
「それでもいいけど、多分ローンの言うことは信用されないよ。
時々手紙のやり取りをローンに頼んでたでしょ?
あれでそういう話が進んでいたの。
ローンには悪いとは思うけど、あんたの居場所はもうないの。
だって私達の親ってあんたと違って全員村とかその周りの名士だし。
というか、私らの親の希望でもあるのよ。辛い話よね」
テルル、全然辛そうに聞こえないよ。
「ぼ、僕のじいちゃんは聞いてくれる、はず」
「あー、それね」
今度はセレンが口を開く。
「パパ……村長があたしたち四人が魔王倒して帰ってくるまでにあのジジィ、村から追放するってさ。
役たたずをパーティーにねじ込んで魔王討伐を遅らせた、とかの理由で」
確かに四人で出発しようとしていたのに僕を入れたのはじいちゃんの口添えがあった。
将来の夢は農家になって色々な作物を作って暮らそうと考えていた矢先の権能発現。
魔王も権能も知ったことか、と考えていた僕にその後二年間続いた厳しすぎるじいちゃんの特訓。
いい加減逃げようとしていた僕の気持ちを読み取ったのか、じいちゃんが妙に優しく言ってきたのについ乗った結果がこれか。
ハード過ぎるだろうここ数年。
ともあれいきなり聞かされたろくでもない話の割に心の中が落ち着いているのは、出発前にじいちゃんに旅の心得を滾々と正座で聞かされたこと、時折行っていた道中での連絡、それらを思い出しているからか。
「でもじいちゃんは前村長と仲良かったから、無理なんじゃないの?」
じいちゃんとの連絡ではそんな話は出ていなかったが。
そんなことに気づかないはずのないじいちゃんなんだから、少しは教えてくれよ、とは思う。
「そこで俺たちの出番となるんだ。もともと我らの父上はあの村とその周辺を直轄地にしたがっていてな。
前村長、セレンの大叔父にあたる人だが、にも話を持ちかけていたらしいが、拒まれ続けていたようでな。
幸い、今の村長は好意的でな。俺とセレンとの関係を見越しているのもあるだろう。
まあ以前は村の周りに多数いた魔物共も俺たちが生まれるころには殆ど見かけなくなって久しいし、魔王を討伐した俺たちが直轄するのであれば、実力的に村も近隣の地域も文句が言えないだろう、ということだ。
一応俺とガッドで共同統治を始めて、後に大きく二つに分けるように言われている」
ドヤ顔で言い切るプロム。それは君らの親が偉いからだろうに。
「ということで、ローン君」
セレンが悪い笑顔をこちらに向ける。ろくでもないことを企んでいる時の顔だ。
「今後のローン君にはいくつかの選択肢がありまあーす!
1、これから村へ帰る。まあ村で再び受け入れてくれるかは? どうかな? かな?
2、今すぐどこか別の場所へ旅立つ。これはオススメ。
3、今晩魔王城へローン君だけで特攻。これをしてくれたら魔王討伐を遅らせた、といった話はなかったことにしといてあげる。
4、それでもあたしらと一緒に魔王城へ行く。オススメしないけどね。
さあ、どれにする?」
残り三人も同意なのか、小さく頷いている。
しかし夜になってからする話か、と考えて嬉しくない予想に思い至る。
ああ、駄目だ、これ。
どれを選ぼうと結末は同じにされる気がする。
無理やり心を鎮めて、悪い笑顔のセレンに問いかける。
「5、ってのがあったりしないかなー?」
「あるよっ。
魔王配下に精神を乗っ取られたのか、私らに襲いかかって来たから止む無く返り討ち。
こんなことで旅の友を失うなんて! というお涙頂戴な話。
ローンのくせによくわかってるじゃん」
口を開く度に僕を貶める言葉を入れないと死んでしまう病気なのかな、と考えた時、背後に殺気を感じた僕は、時折モンスターに追い詰められた時同様にジャンプし、斜め前へ飛び込んだ。
「くっ」
反応が遅かったのか、ガッドの剣先が素早かったのか、僕の片足が切りつけられた。
腱をやられたか、先ほどの動きはもう出来そうにない。
「おい、僕をここで殺す気かい?」
セレンが悪い笑顔で頷く。
「せいかーい。いやね、これまではこっちが手を汚したくないから、魔物に追い詰められるようにして死んでくれたらなー、と期待してやってきたんだけど、あんたって意外としぶといよね。
何か知らんけど魔物の巣から生還するし、吊橋でつるが切れたときもツル一本にぶら下がって生き残ったし、毒沼に落ちたときも素っ裸で這い上がってくるし。
見たくねえよお前のなんて。
ごほん、まあ、そういうことだから、仕方ないよね」
「運と日頃の行いがいいんじゃないかな。僕は友人に剣向けたりしないからね」
足を引きずりながら退路を探る。
幸い洞窟の出口側に僕はいるから、動く方の足を蹴り、洞窟の外へ出てとりあえず叫ぼうとした。
「サイレンス」
テルルの声が響く。僕の叫びは響かない。
体はまだ動く。
深い崖と浅い崖のどちらに飛び込むか。
浅い崖に向かおうとしたが、剣を構えたもうひとりの男がそちらから歩いてきた。
「こちらには行かせない。おまえはここであの世に旅立つんだよ」
口角を上げたプロムが剣を振り上げる。
声が出せないので、身振り手振りで見逃すように訴える。
「断る。その浅い崖だとお前は何故か助かりそうだからな。今でもその眼は諦めていないし」
仲が良かったわけではなかったのだが、流石にわかるか。
残りの三人も僕の前にやってきた。
プロムが剣を下ろし、剣先を地に当てるようにした。
こういう時に口を開くのはーー
「ローン、最後に言い残す事はない? 聞くだけ聞いてあげようかな、と思ったけど、聞いても嬉しくないからこっちから言いたいこといったげるね」
嬉しそうなセレン。本当性格悪いな。
思ってたのが声に出たのか、彼女の蹴りが腹に入った。
「今すっげえ痛いんだけど。眠るように死ぬ毒、とかが良かったなあ」
「ほら、テルルのサイレンスもいつの間にか切れてるし。
あんたそういうの殆ど効かないじゃん。
無駄にしぶとい役たたずって、生贄以外に生きている意味があるのかしら?」
そう言ってくれるなセレン。
まあ、じいちゃんに鍛えられたからだろうなー
「戦闘で役に立たないわりに飄々としているのが結構目障りで不愉快だったの。
私の知ってる人形つかいより能力低いし。
ちっさな人形をちょこまかと動かしてるだけじゃなくてさー、ゴーレムくらい使いなさいよ」
いやテルルさん、見かけそうだったかも知れないけどそれなりに必死でしたよ。みんなが大怪我をしないように動いたり。
あと僕の人形つかいはにはちょっと違うらしいのでーー
「弱き男が目の前をうろつくのが目障りであったな」
ガッドさん、寡黙なのはともかく僕にも少し優しさをーー
会話で息を整え、何とか立ち上がろうとした時、
「もういい。さよならだ」
プロムが剣を振り上げた。
後ろにジャンプして皮一枚で回避、とはいかず僕の体は下から袈裟懸けに斬られた。
結構深い。そして痛い。
ジャンプしたため高い崖の方より頭から落ちていく。ミスったな。
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