夢日記
鈴哭 時雨
序章
序章 日常が崩れ落ちる音
「なぁ、昨日は魔物どんくらい倒したん?」
「聞いて驚け、69体だ」
「何ッ!?」
「へぇ、69体も倒したんだすごいねぇ~」
「なんだお前調子乗ってんな。 お前は何体だよ」
「ふふん!聞いて驚きなさい、75体よ!」
「うぉ!?」
「マジかよお前!」
「ん~私は93体かな~」
「……」「……」「……」
— — なんて、ゲームみたいな話をしてるけど、実はこれはゲームの話じゃない。
俺達四人は、昨日の“夢”の話をしているのだ。
面白い事に四人共同じ“異世界に転生して最強になっちゃった”っていう夢を見ていたみたいで、こうやって自分が昨日の夢で起きた出来事を話し合っているんだ。何故か、細かな設定なんかも完全一致。自然とこの話題ばかりになるのも、仕方のない事だ。
「にしてもスゴいな…… この夢日記ってのは」
と呟いたのは、我らがムードメーカー 龍宮 陽也(たつみや はるや)。
頭も悪いしチャラいけど、コイツなしの学校生活は、正直退屈そのものだろう。
何かやらかして指導を受けるなんて日常茶飯事だ。
「ホントよね~ 私もこんな事になるなんて思ってもなかった」
んで、コイツがこの四人組の頭脳そのもの音鳴寺 響華(おんめいじ きょうか)。
何か困ったら響華に任せる、それがここのお決まりだ。
成績はいつもクラスでトップ、おまけに容姿端麗と来た。そりゃモテますよ、コイツは。
「私も毎日の楽しみが増えて嬉しいな~ えへへ~」
そしてこやつがウチらのゆるふわ担当、日々夜 蓬戯(ひびや よもぎ)。
天然でちょっと抜けてる蓬戯は、男女問わず絶大な人気を誇る。
んでもって食いしん坊。これでもかってくらい食べてるのに太らない、奇跡の体質の持ち主。
「というか、俺らよくこんなの始めたよなぁ…… まぁおもろいから全然okだけどよ」
「でも、やり過ぎると現実と夢の区別が付かなくなるっていうから、そこが危ないわよね」
さっきの会話でも出てきた“夢日記“。これは“昨晩見た夢の内容を書き写す”というシンプルなものだ。記憶力の向上にも繋がるが、響華が言った通り、やり過ぎると現実と夢の区別がつかなくなってしまうという危険な代物でもある。
では何故そんなものに手を出したかと言うと……。少しばかり遡る必要がある。
キッカケとしては、陽也のふとした嘆きだった。
テストまであと2ヶ月って時に陽也が
「うわぁぁぁあ〜〜!全ッ然頭に入らねぇぇぇえ!!」
とか言うので、俺が
「そんな陽也にピッタリな勉強法があるぞ。 ただし、勉強じゃないけどな」
と、夢日記を提案したのだ。
今回珍しく勉強が捗らないと言って、普段はオカルト系に全く興味を示さない響華も、本当に焦っていたようで、すぐにこの話に食いついてきた。
蓬戯に関しては、いつも通り「楽しそうだから」と言って、いつも通り食い付いて来た。
そこからみんな夢日記を始めたのだが、面白い事に夢の内容が全員一致し、
何これそんな事ある? と言うことで、この夢日記にどハマりしているのだ。
……本来夢日記にこんな作用はないはずだが、まぁ面白いからよしとしよう。
「しっかし、雪兎もよくこんなの知ってたな。 まーおかげで少しだけ化学式とか覚えられるようになったぜ。マジサンキュな」
と陽也が礼を言う—
……おっと、言い忘れてたけど、俺の名前は忘時 雪兎(わすれじ ゆきと)。
ざっくり説明すると………。
「まぁ、ちょっと成り行きでな」
この夢日記を三人に教えた張本人だ。自分でも知らない内に夢日記という存在を知り、みんなに勧めてみたのだ。
注意点も気付けばバッチリ覚えていたので、気を付けさえすれば生活に支障はないと踏んでいた。
— — だが、まさかこうなっていたなんて、気付きもしなかった。
それは昼休みの事。陽也とトイレに行った時、“それ”に気付く。
「なぁなぁ雪兎。 お前の夢での能力ってなんだっけ?」
何気なく聞く陽也……何も知らない人が聞いたらただのやばいヤツらだよな、こんな会話。
「あぁ、俺の能力は“リヒターツァイト”《裁判の時間》。自分や自分が触れてるモノに掛かってる時間を操作できる能力なんだ」
「はーん、便利な技だなおい。それで不老不死とか出来んじゃねぇの?」
それはまぁ誰しもが思うだろうな~。
でも、実はそんな甘い話じゃないんだ、これが。
「そんな上手くはいかんよ。一日24時間分の操作が限界。プラス体に掛かる負担は全部能力の原動力になってる左目に掛かる。 しかも左目のコンディションによって能力の質が違うから、乱用は出来ないんだわ」
「へぇ……なんか小難しい能力だな」
実際、扱いは難しい。俺も初めての頃はよく乱用して自爆してたなぁ………
「まぁな……あー今の俺にリヒターツァイトがあればなぁ!」
と、トイレにいた男子全員が「なんだアイツ?」「厨二病の末期患者か……」と囁くほどの大声を上げて大きく伸びをした時に、隣の陽也が俺の顔を見て呟いた。
— — それも、ごくごく自然に。
「なぁ雪兎、お前その目どうした?」
「……は?」
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