第206話 柴田勝家4

勝家は信長の近臣になる事を許されて、ほっとした。


過去に信長を『大うつけ者』呼ばわりした事を根に持ってないか、心配していたので咄嗟に土下座したのだ。


信長の妻である帰蝶は、最後まで睨んでいたが信長にその様子はなかった。


心の広い御方だ。


去って行く信長と帰蝶のうしろ姿を見送り、そう思って顔を上げた時、ただならぬ殺気を感じて飛び起きた。


背筋が凍る様な寒気を感じて、その方向を見て身構える勝家。


人混みが二つに割れて道が出来て現れたのは………。


「アネサン、戻ッテ良イカー」

「酒ノミテー」

「ン! 敵カー?」

許兄弟が鶴姫と歩いて来たのだ。


許四が身構えている勝家を見て、ノコギリの吻を構えた。


「止めまい、仲間だで!」

鶴姫が許四のノコギリの吻を大太刀で制した。


「睨ンデルヨー」

「殺ッテイイー?」

「喰ッテイイー?」

「喰いちゃだめだで」

許四の後頭部を叩く鶴姫。


「ツゥ、冗談ダヨー」

頭を抱える許四。


「許四は嘘に思えんからなあ。驚かせてごめんなあ」

と謝って勝家の前を立ち去る鶴姫達。


「な、何だぁ! 今の奴らはぁ!」

まるで野生の肉食獣の前に放り出された様に焦り、脂汗が流れた勝家。


「信長様の側室である鶴姫様と、元倭寇の家臣で許兄弟です。直ぐ慣れますよ」

丹羽長秀は平然としている。


その時、許兄弟以上の圧倒的な、底知れぬ圧力を感じてゆっくりと振り向く勝家。身体中から汗が流れ、身体が動かない。まるでライオンの開いた大口に頭を差し出している様だ。


少しでも動けば喰われる………。


「おう、無二さん! 西美濃はどうだった? つええ奴はいたかい?」

勝家の脇から冷泉隆豊が新免無二に声を掛けた。


「つええ奴はいなかったなぁ。あぁ、何処かに俺も歯が立たねえくらいつええ奴はいねえかなぁ。がはは」


「無二さんにかかっちや、西美濃も形なしだなぁ。あっはっは」

冷泉隆豊が笑う。


「ん! 新入りか? がはは」

無二が勝家の目の前まで顔を近付けた。


勝家は身体が動かない。瞬きすら出来ず、無二の目に吸い込まれそうだ。


「新入りだよ、なかなかやる男だ。あっ、名前は柴田勝家だ」

隆豊が無二に勝家を紹介する。


「おう、勝家、宜しくな。後で生き死にの際を教えてやる」


「い!」

勝家が腹の底から振り絞ってやっとでた一言。


「がはは」

笑う無二の後ろから肩を叩く男。


「そのくらいにしておけ。怯えているではないか」


誰もいないと思って気にも留めない空間にいた男、富田勢源。


「がはは、結構やるそうだぜ、楽しみだよ。な!」


「は………」

声が出ない勝家。


「ほらな、行くぞ」


「がはは、じゃぁな」


無二と勢源が過ぎ去ろうとすると、その後ろから気配すら感じない諸岡一羽、林崎甚助、佐々木小次郎、愛州小七郎の四人の剣豪達が現れた。


そして去って行く剣豪達。


「はあ、はあ、はあ、ここは化け物の巣窟かぁ!」

息を切らし、叫ぶ勝家。


「しっかりしてください。まだ始まったばかりですよ」

勝家の世背中をさする丹羽長秀。

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