第205話 柴田勝家3

俺達は西美濃を攻略して清洲城に戻って来た。


西美濃に2千人の兵を連れて行ったのだが、帰って来たのは8千人近くに膨れ上がった軍勢。


「おい、利家、新入りの四人の案内を頼んだぞ」

西美濃で新たに近臣となった西美濃四人衆の息子達。安藤定治、氏家直昌、稲葉重通、不破直光の四人を案内するよう前田利家に指示した。


「承知しました」


前田利家の後ろ姿を見送っていると。


「今夜はアタイだからね」

帰蝶が腕に絡んできた。


「お、おう」


「もう部屋にいっちゃう?」


「は、早いんじゃねえか?」


なんて会話をしながら清洲城の中に入ると。


あにさま~!」

と抱き付いて来た二人の妹達。


お市とお犬だ。なんだか俺になついている。普段は養徳院にお任せなんだがなぁ。


二人が走って来た方向に養徳院がいて、

「あらあら」

なんて言って笑っている。


俺が当主と知ってて媚びを売ってるのか? あざといのか? でも可愛いからなぁ。これが「あざと可愛い」ってヤツか? 「可愛いは正義」だからなぁ。許しちゃう。


その姿をジト目で見てる男が、

「はぁ、8千になったと聞いていましたが、本当だったのですね」

出迎えた相良武任が溜息をつく。


「なんだ出迎えの第一声がそれか?」


「いえ、すいません。西美濃攻略おめでとうございます。受け入れ体制を作るのに苦労したものですから、各郡から受け入れていた兵士を6千人帰したのですが、どこの郡の兵士を何人帰すかで揉め──」


「ああ、そういう愚痴は幸隆に聞いて貰え」


「え! 私ですかぁ。仕方ないですなぁ」

幸隆が武任を連れて行った。


「はあ、………おお!義隆、信清を蹴散らしたんだってなぁ。大義であったぞ」

俺は溜息をついた後、大内義隆の顔を見つけて話し掛けた。


「此度の戦勝お祝い申し上げるのじゃ」

巨体の義隆が近付いてきた。


割と遠くにいたらしい。義隆の巨体は距離感がおかしくなるなぁ。


「信清の犬山城と支城の小口城は暫定で城代を置いたのじゃが、美濃攻略の要地だからのう。信長の好きにすると良いのじゃ」


「おう、配慮に感謝する」


犬山城は池田常興、小口城は佐々孫介に任せよう。


「それと………、この者達が信長に用があるらしいのじゃ」

織田信広、織田信成、柴田勝家を前に来る様に促す義隆。


「ん?」


「信長様、此度の戦勝お慶び申し上げます。信光様より『修行して来い』と言われまして、信成様と一緒に近臣の末席に加えていただきたくお願い致します」

織田信広が頭を下げてお願いして来た。


「ん~、良いよ。美濃攻略も本格化するしな。人数も多い方が良いだろう。ツネ! 信広と信成に色々教えてやれ」

俺は池田恒興に指示した。


「へい、承知したっス。信広さん、信成さんこちらへどうぞっス」

恒興は信広と信成を案内する。


そして………。


「久しぶりだな勝家、で? 勝家はどんな用事だ?」

俺は勝家を見詰めた。小さい頃の記憶が若干甦る。


隣の帰蝶は勝家を睨んでいた。


勝家は突然土下座した。


「へ? どうした?」


「信長様、拙者も近臣の末席に加えていただきたくお願い致します」

そう言って信光叔父の文を俺に差し出した。


「ふむ」


『過去の事は水に流して近臣に取り立てろ。勝家の実力は必ず織田家の為になる』と言う内容の信光からの文だ。


俺が文を読む間、土下座のまま顔を伏せ、微動だにせずじっと待つ勝家。


「良いだろう。長秀! 勝家の世話をしてやれ」

俺は小姓の丹羽長秀に勝家を任せる事にした。


「ところで、近臣は良いが………、勝家は信行の嫡男である信澄を養育していはずだが、どうする?」


「下社城で養母を雇い育てております」


「清洲城に連れて来い。俺の弟や息子達と一緒に育てよう。勝家も目の届く場所にいた方が良いだろう」


「お気遣い感謝致します。お言葉に甘えて清洲城に連れて来ます」

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