第121話 織田信長19歳

父が死んだ年、俺は19歳になった。


父信秀の死後、信行は父信秀の居城であった末森城を居城とし、家老として、林秀貞、柴田勝家の2人がついた。


それから、織田家を継いだ俺の居城である那古野城へ、父信秀の居城に詰めていた家臣達が移ってきた。


俺の直臣となるらしい。大勢いて名前が覚えられないが、目に止まったのは史実で有名な家臣である佐久間信盛25歳、河尻秀隆26歳、中川重政25歳、金森長近29歳の4人かな。この4人は俺の仲間達に混ぜて訓練させよう。


困ったのは大叔父秀敏が居城の稲葉地城から頻繁に遊び・・にくる事だ。何かと煩そうなので頭が痛い。しかし今のところは海野棟綱や伊達稙宗、小梁川宗朝達と老人同士で話が合う様で一安心だ。


それとは別に仕官してきた森可成よしなり30歳を召し抱えた。森蘭丸の父で武力に優れた猛将だ。森可成も仲間にまぜよう。


そして、今の状況だが父信秀の傘下にあった尾張国内で城を構える城主や、父信秀に従っていた豪族の領主達が恭順を示す為、連日押し掛けて来ていた。


末森城主の信行や犬山城の信清も苦い顔をしながら訪れた。また、竹千代を幽閉していた熱田羽城主加藤順盛よりもりが、息子の弥三郎を俺の家臣にしてくれと置いていったりした。


加藤順盛よりもりは、父信秀の経済基盤であった港町である熱田の有力者で武家商人だ。俺の焼酎や反物を扱いたいらしい。生駒家や伊藤屋と話をして貰う事にした。


父信秀の配下だった者達で恭順の挨拶に来なかった者も多かった。恐らく、清洲織田家、岩倉織田家に寝返ったか、日和見に徹しているか。まあいずれ力をみせてやる。


そして今、知多半島の知多郡を二分する、大野城主の佐治為景と緒川城主の水野信元が訪れていた。二人共にただの城主ではない、傘下に幾つもの城主を従える地方の豪族の領主である。


因みに佐治為景はうなぎの魚人で水野信元はオニカサゴの魚人だ。


そして水軍を保持しており、今の俺達にとって仲良くしたい人達だ。


一通り挨拶が終わり雑談に入り、米焼酎を飲ませていい気分にさせていた。


「信長様、どえりゃあ船を作っとるそうだがね」

佐治為景が俺に尋ねる。


「おや、流石情報が早いな」


「そりゃあ最新の船にゃあ興味があるでよ」


何となく方言で会話されると親近感が増すなぁ。


「水夫も募集してるんだけどね」


「わしが丸ごと引き受けるで、募集せんでもええがね」


「良いの?」


「ええがね。水軍も任せてちょう」


「ちょっと待ってちょう。わしのところにも水軍はあるがね」

水野信元も船に興味がありそうだ。


結局、佐治為景と水野信元から水兵を出して貰う事にした。


後は内藤興盛ないとうおきもり冷泉隆豊れいぜいたかとよ、戸田康光やすみつの3人と話して貰うか。


戸田康光やすみつって前に水野信元と争ってたんだっけ? 拙いかな。まあいずれ顔を合わす事になるから、この際、会って貰おう。


なんて考えてたら。

「そう言えば山口教継の動きが怪しいですわ。気をつけてちょ」

突然、佐治為景が言い出した。


ん、山口教継? 知多郡の北にある鳴海城の城主だったかな。そう言えば那古野城に来て無かったな。


佐治為景と水野信元を内藤興盛達に紹介した後、饗談を呼ぶ。


「饗談、鳴海城主山口教継の動きが怪しいのか?」


饗談が現れる。

「確かに兵を集めているかも知れないのじゃ」


「ちょっとぉ! しっかりしてよぉ! 事が起こってから報告する忍びは3流よぉ!」

帰蝶が饗談に怒り捲る。


饗談は終始悄気っぱなしだ。


帰蝶は饗談が父信秀が死んだ情報を見逃した際は怒り心頭だった。あまりにも帰蝶が怒るので、当事者の俺が宥める方に回ったぐらいだ。


饗談は天狗との戦いが心配で密かについて来てた様で、その為、天狗戦中の情報は抜けたそうだ。


まあ、饗談は俺が赤ちゃんの頃からの付き合いなので、勘弁してあげて欲しいのだが、帰蝶からすると、逆に饗談が俺と赤ちゃん頃から付き合いと言うところが、また気に入らないらしい。

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