第86話 前田利久

前田利春が那古野城に訪れてから数週間後、前田利久が妻とお供を連れて那古野城に訪れた。


利久の妻は滝川益氏の娘で滝川慶次の姉だ。そして滝川益氏は滝川一益の従兄弟であるので、滝川慶次と滝川一益も同席させる事にした。


当然、前田利玄、勝安、利家達、利久の弟も同席させた。


家老の沢彦宗恩たくげんそうおん快川紹喜かいせんじょうき海野棟綱うんのむねつな真田幸隆さなだゆきたかと軍師の山本勘助も一緒だ。そしていつも一緒の帰蝶。


大勢の人数になったので、謁見の間での謁見だ。


「初めてお目に掛かります。荒子城主前田利春の嫡男前田利久でございます。この度は仕官のお許しをいただき有り難う御座います」

利久が挨拶をする。


利久は20歳、痩身だが姿勢が良く覇気があり、病弱には見えない。無理をしているのかもしれないが……。


「俺が信長だ。良しなに頼む」


「はい、精一杯励みます。ところで信長様、お願いが御座います」


「なんだ?」


「この子は|奥村助右衛門と申します。奥村氏より前田家に仕官しており、私の小姓をしています。若干6歳ながら武人の片鱗を見せる事があり、将来有望な子でありますので、是非家臣に取り立てて、武将の訓練に加えていただければ幸いで御座います」


お、奥村助右衛門じゃないか。前田家に仕える優秀な武将になる男だ。流石、利久見る目があるね。


「許可しよう。存分に励め」


「はい! 有り難う御座います」

奥村助右衛門は元気良く返事をした。


その後、初めて会う同士で自己紹介し、お互いに話をした後、一息ついて雑談に移るとそれぞれ話を始めた。


「慶次、久し振りね。心配してましたが、随分立派になって良かったぁ」

利久の妻が滝川慶次に話し掛けた。


「ご無沙汰してます姉さん………」

慶次は恥ずかしそうに大きな身体で背を向けた。


「こら、慶次ったらいつもそうなんだから、こっちを見なさいよ。『天下御免の傾奇者』が泣きますよ」


「困ったなぁ。荒子城にもその噂が流れているんですか」

相変わらず恥ずかしそうな慶次に。


「義姉さん。慶次さんは凄いんです。いつもは訓練に参加しないんですが、狩りに同行したら槍の技術が凄いの何のって──」

利家が会話に割り込み自慢気に捲し立てる。


「利家! そのくらいにしてくれ。姉さんの前で恥ずかしい」


「え? そ、そうですか」


「まあ、落ち着け。そして暫くあっちに行っててくれ」


「は、はあ。何だかご免なさい」

すごすごとその場を後にする利家。


「姉さんも元気で幸せそうで良かったよ。利久さんも優しそうで良かったね」


「うん。幸せよ。慶次、利久さんの事は宜しくね」


「お、おう。任せてくれ」


「慶次さん、話はそれぐらいにして、女性同士で話したいから、お姉さんを借りますよ」

帰蝶が利久の妻の手を取り連れていく。


養徳院とゆず、直子、吉乃待ってって、何やら女子会になっていた。


エッチな話をしてないだろうな。ちょっと耳が大きくなっちゃうぞ。


俺は利久と話をする。

「利久、基本的に俺の家老達について、一緒に政略や戦略、戦術の相談のって貰う事になるが、初めは快川紹喜かいせんじょうきに色々教わるのと、山本勘助について軍師としての勉強もすると良いだろう」


「ご配慮痛み入ります」


「ところで、病気についてだが、俺の側室になるゆずが医術に造形が深いので、後で相談にのって貰うと良い」


「おお、そうでしたか。是非、お願い致します」


俺は利久の妻を囲んでいたゆずを呼んで、利久に紹介した。これで利久が健康になれば良いのだけどね。

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