第87話 佐々成宗1

前田利久が来てから数週間後、佐々成宗さっさなりむねが息子達と那古野城に挨拶に来た。佐々家はヒグマの獣人一家だな。みんな体格が良く強そうだ。


「おう、信長様、俺が比良城主佐々成宗だ。息子達が煩くてな。息子達を家臣にして貰うだけでも良かったが、信光様が薦めるのでな、この度与力になる事にした。宜しくな」

と言って四人の息子達も俺に紹介した。


佐々成宗は68歳の老将だ。若い時から戦場に立ち死線を潜り抜け、自分の領地を守り抜いた自負がある豪族の主なので、このくらいの無礼さは予想の範疇だ。


俺の事を『様』付けして呼ぶだけ良い方だろう。いちじは大うつけ者だったからね。


だって、俺はまだ14歳だ。68歳の大の男が心底から頭を下げて配下に入る事は少ないよね。前田利春は例外だ。


しかし信光叔父の仕業だったか。信光叔父はよっぽど俺の事を気に入ってくれたんだね。


「父さん、それはあんまりな台詞じゃないかい? 信長様に失礼だ」

嫡男の政次25歳が口を挟む。


「馬鹿野郎、これくらいで良いんだよ。佐々家と比良城の戦力を無償で提供するんだ」


「ははは、俺は織田信長だ、良しなに頼む。なあに、成宗の言う通りだ。このくらい元気があった方が戦場で活躍してくれるだろう。俺は気にしないぞ」


俺は口で苦笑いしながら、しかし成宗の目を真剣に見つめる。


「くっくっく、おもしれぇ小倅だ。良い目だ、中々良いぞ信長様。『24人の猛将が2000の今川やっつけた』って言うのも満更大嘘でもねえみたいだな」


「大嘘ですよ。そもそも24人じゃない。鉄砲隊も含めれば70余人。そして最終的にやっつけたのは500の信光叔父だ。俺達は切っ掛けを作ったに過ぎない」


「かっかっか、ますますおもしれぇ。自分の手柄を自慢しねぇところと、その変な服が気に入った。」


成宗だって、普段着同然服なんだけどね。


「信長様は謙遜してんだよ。俺達が大浜の戦いの中、この目で見てんだから間違い無いってば」

と次男の孫介20歳。


「オヤジぃ 、やっぱ言い過ぎだって。俺が信長様の家臣に慣れなかったらどうすんだよ。俺は信長24人衆に入りてえんだからな」

と三男の成政11歳。


「そうだよ。俺は『閃光の剣士愛洲小七郎』様の弟子になるんだぞ」

と四男の長穐10歳。


「がはは、まあそう言うなって。信長様、早速だが噂の24人衆に会わせてくれ」

と成宗が言うので、城の訓練場に連れていった。


訓練場では、愛洲小七郎隊が訓練をしていた。新免無二隊じゃなくて良かったよ。彼らがいたら絶対揉め事になってたよ。


まあ新免無二は『猛獣が訓練なんてするか? 生き死にのきわで強くなるんだぁ!』って言って、訓練しないで狩りばっかりしてるけどね。


愛洲小七郎隊は愛洲小七郎と猿飛佐助、内藤勝介、諸岡一羽、林崎甚助、高坂昌信、木下藤吉郎、杉谷善住坊と新しく生駒家長と真田信綱が加わった。


だが、当然佐助は訓練は必要ないし他国を回ってるのでいないし、杉谷善住坊も鍛冶場に行ってていない。善住坊は呑んでるのかも知れないが、深くは追及しないのだ。

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