第72話 主様1

俺達は牧場の奥に進む信清の後をついていく。後ろの方では養徳院と生駒家宗が話をしていた。


「家宗様、吉乃ちゃんをねぇ、信長様の側室にどうかしらぁ。吉乃ちゃんはまだ19歳でしょう。まだまだこれからよぉ。信長様は13歳だけど有望よぉ」


おお、養徳院、ナイスです。


「それは願ってもない事ですな。実際に会って見たら噂とは全く違う。百聞は一見にしかずですな。家臣の皆さんも一騎当千。信長様は商才があると思っていましたが、武力にも優れている。是非にと思う気持ちはあるのですが、ぬし様が認めてくださらない事には何とも言えません……」


おおおおおお! マジ? やったああああああああ!!!


ぬし様をテイムすれば良いじゃん。


「それは良かったわぁ、ぬし様に認めて貰えば良いのよねぇ。だったら大丈夫よぉ」


養徳院は俺がテイム出来る事を知っているからね~。


「本当に大丈夫ですかね」


生駒家宗は半信半疑みたいだな。


「大丈夫よぉ」

自信を持って言う養徳院。


「うむ。もし、ぬし様が認めてくれて、信長様が追放されたまま主家に戻れない時は、生駒家に婿養子に入って貰っても構わないな」


それも良いかな。いやいや家臣や帰蝶達の為にも頑張ろう。


「あらぁ、残念ねぇ。信長様は主家に戻って信秀様の後を継ぐわ」


後ろの会話に聞き耳をたてながら、俺は吉乃の話も聞いていた。


「信長様、生駒家の御先祖様が戦いで傷付いたぬし様を介抱した事がありました」


「うんうん」

俺は吉乃の顔を凝視しながら話を聞く。

横で帰蝶が取られる事を恐れる様に、腕にひっしと身を寄せていた。


「その後生駒家が財政難で苦しんでいた時に、ぬし様が沢山の馬を連れて現れてくれたのです。その馬の一部を売り、残りを育てて今の生駒家があります」


「成る程」


ぬし様は自由にこの牧場に出入り出来ます。数十年や数百年いない時もあったと聞いていますが、馬や馬系のモンスターを連れて、ふらりと戻って来る時もあります」


「うん」


「昔、この牧場にいる時にぬし様が反対した婚姻で不幸な事があったらしく、それ以来ぬし様が牧場にいる時は、ぬし様に認めて貰った婚姻を行う事が生駒家の習わしなっております」


「そうなんだ」


「私が夫に先立たれ、この牧場に戻った直後ぐらいにぬし様も牧場に現れたので、私はぬし様がいる間はぬし様が認めた人以外のところにお嫁に行く事は出来ません」


「え、本当にそれで良いの? 自分が好きな人のところに行きたいんじゃないの」


「何を仰います。婚姻は家どうしで結ぶ物、武士や商人の娘は家の為に嫁ぐのが普通でございませんか。嫁に行った後で好きになれば良いのです」


はぁ、確かにこの時代では武家や商家では政略結婚しかないなぁ。その為に妻を沢山貰って、子供をいっぱい作るんだもんね。男側からすると好きになった娘を側室に出来るけど、女子側からするとどうなんだろう。


ちらりと帰蝶とゆずを見る。帰蝶とゆずは心配そうな顔で俺を見ていた。直子は後ろの方でキョロキョロしている。


この子達は俺に惚れてここにいるんだから、応えてあげたいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る