第56話 根来衆

果心居士の転移魔法で根来に来た。


「ぐあっはっは、俺ぁ根来衆を纏めてる津田監物だぁ」


赤ら顔の身長3mに近いサイクロプス、津田監物迎えられた。


巨人種が多い根来衆の集落に入るとゆずは圧倒されて、驚き震えていた。


俺は然り気無く右手でゆずの腰を抱き、落ち着く様に優しく接する。


「あっ、狡い、ゆずちゃんばっかり」

帰蝶それに気付き、俺の左腕に身を寄せた。


根来衆は紀伊国北部の根来寺を中心とする一帯に居住した僧兵たちの集団だったが、今は僧兵と言うより、傭兵の集団となっている。


「初めまして、尾張の織田信秀の嫡男吉法師です」

俺は果心居士に合図すると、果心居士は土産の酒の瓶を10個出した。


「尾張の地酒で酒見神社の白酒しろきです。挨拶代わりに持ってきました。摂津の酒には負けますが、田舎の地酒の味をご賞味ください」


この時代、民間の酒造は寺社が担っていた。神社では神事に供物として神棚に供える為に酒を造っていたが、神仏習合の流れで寺でも酒を造る様になると経済力、労働力、情報力、政治力を持った大寺社が僧坊酒そうぼうしゅを造り最高級品として幅を聞かせていた。


今や大寺社は各国の領主以上の力を持って勢いを強めているのだ。俺も酒を造って、神社仏閣の経済力を弱めたいところだな。


因みに白酒しろきとは採れた米で醸造した酒をそのまま濾したもので、焼灰を加えて黒く着色した黒酒くろきと合わせて神に奉納する為の酒だ。


俺は事前に経済力で酒見神社から大量の日本酒を購入していた。


「おお!気が利くな。吉法師、話は滝川一益と善住坊から聞いてるぞ。お主がもしも尾張と美濃を治めて、伊勢と近江も喰らう様なら紀伊、大和、摂津を攻める時は協力してやるし、お主の敵対勢力には加わらん様にしてやるぞ」


尾張と美濃と近江と伊勢を攻略したら、味方なるしか無いだろうに。


「その際は宜しくお願いします」


雑賀衆と双璧を成す、この戦国時代最大の傭兵集団が敵に回らない事が大事なのだ。


「おう、大将久し振りだな」

杉谷善住坊が津田監物に挨拶する。


「おう、善住坊。悪たれ小僧が何だか随分強くなったんじゃねえか?」

善住坊の物腰、気配などを津田監物は敏感に感じ取った様だ。


「おうよ。詳しくは言えんが、吉法師様の訓練で強くなれるんだ。今は大将にも負けねえぞ」


「何ぃ、大きく出やがったな。いっちょやったるかぁ。ちょっとこっちに来やがれ」


「吉法師様、ちょっと行ってくらぁ」

善住坊は俺にウィンクした。

何か企んでるらしい。


ん? 単眼種のウィンクって目を瞑るだけじゃん。まぁ、雰囲気ウィンクって事で。


車座なった中央に空間があった。周りではサイクロプスやギガンテス、タイタンなどの巨人種が酒を飲み、所々にドワーフなどの亜人種も酒を飲み騒いでいた。


「相撲か」

モンゴル相撲近い力比べか。


津田監物と杉谷善住坊は太い革のベルトを巻いて向かい合う。


凄い音で両者ぶつかり、歓声が沸く。

両者一歩も譲らぬ力相撲だ。


「善住坊、本当に強くなったなぁ。見違える様だ。だがまだまだ若いヤツには負けん」

津田監物が善住坊の押す勢いを利用し右に躱しながらの上手出し投げ。


普通ならその芸術的なタイミングの投げで、大地に倒れるはずが善住坊は右足を踏み出しこらえた。


「ふん!」

そして、強烈な左の下手投げを放った。津田監物は上手を強く引き付けて上手投げで反撃する。


「うぉおおおおおおおおお!」

どちらが出したのか分からないが、大声で叫ぶ。


同時に地面に倒れる二人。先に手をついた方が負けなのか、ぎりぎりまで手を出さず顔から地面に落ちて行った。


「ちぃ、負けちまったか」

血だらけの顔で先に言葉を発した杉谷善住坊は起き上がると、倒れている津田監物に手をのばす。


「ふん、小僧のくせに変に気を使いやがって。しかし本当に短期間でこれ程強くなるとはな………」

津田監物も血だらけ顔になっていた。


「吉法師!うちの兵を50人預ける!強くしてこい!」

離れて見ていた俺に叫ぶ津田監物。


してやったりの顔で満足そうな杉谷善住坊は俺にVサインを出した。

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