第55話 ゆず

俺の一行にダークエルフの錬金術師ゆずが加わった。


「さて、次は根来に行くんだけど」

「え! 根来にいくの?」

ゆずが驚く。


「そう、根来に行って雑賀に行く予定よ。ねっ」

帰蝶がゆずに優しく教えた後、「ねっ」と言いながら俺の左腕に手を絡めて、首を傾げて可愛い顔で俺を見た。


帰蝶さん、胸が当たってるんですけど……。

いつもの事なので、何も言わないけどさぁ。

ゆずがジーっと見てるんですけど。

いたたまれないよぉ。


「そ、そうだよ」

俺はこたえるが、ゆずは帰蝶が手を絡めた腕から目を離せない。


「いいなぁ………」

と曲げた右手の人差し指の第二関節を、軽く咥えて呟くゆず。


ゆずは恥ずかしがりやなのか、積極的な行動は取らないみたいだ。

と言うか、帰蝶が積極的過ぎる。こんなエロエロ娘、普通はいないぞ。

可愛いから良いけどね。


「アニキ、ゆずさんは尾張に居て貰った方が良くないすか? 道中危険かも知れないっす」


「え! イヤだ。僕は吉法師様と一緒にいるんだ」

ゆずは恒興を振り向き、ちょっと怒る。


「足手まといだったツネが、そんな事を言うようになったかぁ」

恒興もちょっと成長したなぁ。


「足手まといって、そりゃないっす」


「ツネちゃん、ゆずはレベルが低いから、吉法師様と一緒にいて、レベルをあげるって言う考えもあるわよ」

帰蝶は俺の腕に絡まりながら恒興に言う。


「レベル?」

小さく疑問に声を漏らすゆず。

あぁ、その事も説明しないとなぁ。


「ああ、そうっすね。それも必要っすね。佐助か五右衛門を呼ぶっすか?」


「いや、佐助も五右衛門も日課の狩りで忙しいから駄目だろう。今いるメンバーでフォローするしかないよ」


「饗談って手もあるんじゃないすか」


「おいおい、これ以上面倒事を増やす気か」


「それもそうっすね」


「面倒事?……」

呟くゆず。


「あら、面倒事って、随分な言い草ねぇ」

帰蝶が俺の腕に絡めた手に力を入れて、怒った素振りで俺を見た。


「あ、ごめん。言い方が良くなかったよ」

素直に謝ろう。言い訳は良くない。


「駄目よ。女子の事を面倒なんて思っちゃ」

帰蝶は俺の胸をツンツンする。


「はい」

素直に謝るのだ。この手の話は直ぐに終らせなきゃ駄目だ。


「女子……」

呟くゆず。

あぁ、ゆずが何か良からぬ事を考え出したぞ。


「ははは。でも饗談は女子って言ってもゴーストっすよ」

恒興が笑って地雷を踏む。

あぁ、ツネ。そこで話を終わらせ無くちゃ駄目だよ。


「ツネちゃん! 種族で差別しちゃ駄目よ。ゆずちゃんはダークエルフだし、直子はアラクネよ。しかも直子と初めて会った時、ツネちゃんは全裸の直子に欲情してたでしょ」


「直子……、ぜ、全裸!」

両手を胸の前で組んで立ち尽くし呟くゆず。その両手を強く握っているのが分かる。


「うはぁ、それを言われると辛いっすね。でもあの艶かしい姿に、みんな見惚れてじゃないすか。吉法師様も同罪っすよ」


あぁ、ツネぇ! それは言っちゃアカンやつだぁ!


「吉法師様はいったい何人の女性を、侍らせて、ど、どんなエ、エッチをしてるんですかぁ!」

とゆずが叫んだ。


エッチはしてねえよ。

まだ12歳の子供だぜ。


うはぁ、ツネぇ! 余計な話をしやがって!

ツネを睨む。しかし何の解決にもならないので、帰蝶に助けを求める。


「吉法師様、貸しですよぉ」

帰蝶に耳元で囁く様に言われて、ぞくぞくする俺。


「ゆずちゃん、こっちにいらっしゃい。全てアタイが教えてあげるわ」

帰蝶はゆずの肩を抱いて、影の方に連れて行った。


「おいおい、いつ根来に行くんだい」

と呆れた様に杉谷善住坊が言う。


「ほっほっほ、若いのう」

果心居士はいつもの笑顔を浮かべた。

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