第20話 富田勢源2

新免無二と富田勢源、二人の門人が向かい合っている。


「てめぇ許さねぇぞ!」

鯉口を切ったボサボサ頭の門人が飛び込み、抜刀して新免無二に刀を振った。


ボサボサ頭の門人が叫ぶ。

四ヶしか飛燕ひえん!」


新免無二は余裕で後ろに躱し、直ぐに踏み込み鉄拳で門人を殴り飛ばした。


「がはは、甘ぇ甘ぇぞ。出直して来い!」


「くっ、ちくしょおおおお」

膝をつき血が出た口を手の甲で拭うボサボサ頭の門人。


その時、無言の門人が大太刀で上段から刀を振り下ろす。


新免無二は横にぎりぎりで躱す。


刹那、振り下ろされたはずの大太刀が、下から斜め上に切り上がる。


「ほう、イイゼ。お前は合格だ。がはは」

新免無二は何とか皮一枚で躱していた。しかし皮を切られて、切られた服の下の皮膚から血が流れる。


新免無二は刀を抜いた。

門人は大太刀を上段に構える。


「がはは、中条流四ヶしか燕廻えんかいの変形か。恐ろしく鋭く速い。面白ぇ。名を聞こう」


「技は燕返し! 名は小次郎……」


「小次郎、イイゼ。殺し合仕合おうぜ!」


「待ってくれ!」

富田勢源が新免無二と佐々木小次郎の間に割り込む。手には薪を持っていた。


「私が相手になる」

富田勢源は静かに構えた。


「ちょっと待ったぁあああああ」

俺は新免無二と富田勢源の間に走り込んだ。


「無二! 刀を納めろ! 俺は尾張の織田信秀の嫡男、吉法師だ。富田勢源殿にお願いがあって来た」


「あ? 良いところだったのにひでぇぜ。がはは」


「富田勢源殿、無二が無礼をしてすいません。ですが俺の話を聞いてください」


「うん、話は聞きますよ。だけど新免殿も収まりがつかないでしょう。うちの自斎と小次郎が稽古を付けて貰ったのでお返ししますよ」


富田勢源はちらりと果心居士をみた後、俺に向かって言うと、俺の肩を軽く押して新免無二の前に立った。


「お! そうこなくっちゃ。がはは」


「いつでもどうぞ」

富田勢源が薪を持って半身になった。


「がはは、そんな武器で良いのかい。斬られてから言い訳するな、よ!」

「よ!」のタイミングで無二は刀を乱暴に振るった。


富田勢源は刀を躱す。


「がはは、これを受けられるかぁ!」


新免無二は滅多矢鱈に刀を振るっている様に見える、鋭く速く思いがけない軌道で迫る刀は脅威だ。


しかし富田勢源の身体に掠りもしない。


「がはは、これを躱すか!」


「君は型の練習が足りない様だね」


「型なんて知るかぁ! 実戦から得た技に敵うものなんてない! がはは」


新免無二の刀は勢いを増し、益々手がつけられない無茶苦茶な軌道を描く。


富田勢源は薪で新免無二の刀を横から叩くと反対側の手で拳を作り、無二の胸を殴った。


「中条流、裏、金剛!」


富田勢源の叫びとと共に、流れる様な、洗練された動きから繰り出された拳は、無二の胸に吸い込まれた。


「ぐふっ」

驚愕の表情で両手を胸に当て、両膝をつく新免無二。


「無二殿、君の動きには美しさがない。極めた技は美しい動きになるのだよ。型を繰り返しその動きを知り、極めた後にそこから抜け出し応用するのが剣術。君の動きは野生のモンスターと同じだ」


「がはは、負けた俺に反論はねぇ」


「ふむ、理解して貰えないか? では君が今行った技は型を極めるとこうなる」

そういうと富田勢源は薪を振る。


先ほど新免無二が振り回した刀の軌道。


同じ動きの様に見えるが全く違う、流れる様に薪が振るわれる。


薪は風を引き起こし、縦横無尽にあらゆる角度から襲い掛かり美しい。


「『暴風』とでも名付けると良い。良い技だよ。無二殿」


富田勢源は新免無二に手を差し出した。

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