第5話 那古野城

目を覚ますと部屋に一人。

天井に影が出来て饗談が現れた。


「どうした。報告か?」


「うむ、信秀が那古野城を謀略で奪ったのじゃ」


「ほう、少し領地を拡張出来たって事だな」


「まぁ、それもあるのじゃが、その後の話よ」


「ん、どういう事?」


「お主を那古野城の城主にするらしい」


「はぁ? 2歳児が城主ぅ、何考えてんだ、あのオヤジ」


「まぁ、実際は傅役もりやくの家老が政務を行うからのう、将来その地を治めさせる為じゃろ」


「まぁそうだろうね。ところで傅役の家老っって誰? 将来俺を支える人材だろ、平手政秀だよね」


たしか平手正秀は信長の教育係で、父信秀死去の翌年原因不明の自殺をするんだよね。


俺は暗殺だと思っている。これは絶対阻止したい。


「筆頭家老に林秀貞、次席家老に志賀城の平手政秀、そして青山信昌、内藤勝介の4人じゃな。嫡男として期待しておるのじゃろう」


「嫡男だからねぇ。そうだろうよ。しかし、……ますます母とは会えなくなるな、自我が芽生えてから一度も会ってないけどね」


「そうじゃのう」


「同じ城にいても会いに来ないんだ。遠く離れた城に行けばますます……、ね」


「こんなこと言うのもなんじゃが、お主の母である土田御前は、お主の弟信行は可愛がっている様だしのう」


(土田御前は主と会いたく無いのかものう。那古野城城の城主になる件は、土田御前の差し金かも知れん)


「くっ、知ってるよ。それは言うなよ。心に思った事も分かるからな! ……乳母の養徳院を母と思って那古野城に行くさ」


「報告は以上じゃ、またのう」


「……ありがとう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから那古野城に移って8年。

10歳になった俺。

相変わらず母とは会っていない。


平手政秀は度々志賀城から那古野城に来て、学門を教えてくれたが、転生者の俺には簡単過ぎたので、政秀は知古のあった禅僧の沢彦宗恩たくげんそうおんを俺の教育係に据えた。


一方、青山信昌と内藤勝介には武芸を習った。


その様子を無表情で見ている林秀貞。


皆、丁髷ちょんまげをしてないし、洋服を来ている。『信長の野暮★な事を言わないで』と同じだ。


林秀貞は、筆頭家老である事から那古野城下の政務を一手に引き受けてる為、忙しいのは分かるんだけど、事務的な会話しかしないし、気難しく無愛想でとっつきにくいんだよね。


その間の尾張国と周辺国の状況は、随時ゴーストで忍者の饗談から報告を受けている。


父の織田信秀は、伊勢神宮遷宮のため、材木や銭七百貫文を献上し、その礼として朝廷より三河守に任じられた事で、三河侵略の大義名分を得た。


そして三河に侵攻し安祥城を攻略。その後、小豆坂の戦いで今川家に勝利し西三河の権益を保持。


駿河国では今川氏輝が死去し家督争いの末、弟の義元が家督を相続。


三河国では追い出されていた松平広忠が、大叔父の信定を倒して領主となった。


美濃国では斎藤利政(後の斎藤道三)が土岐頼芸を尾張に追い出し領主となった。


そして、織田信秀は土岐頼芸を支援し、越前の朝倉孝景と連携し美濃に出兵。斎藤利政から大垣城を奪い、尾張において主家を上回る勢力となる地位を築いていた。


オヤジやるねぇ。


「で、報告は以上かな?」

俺は報告に来ていた饗談に問い掛けた。


「くくく、信秀のところに面白い人物が謁見しているのじゃ」

にやにやしている饗談。


「ほう、面白い人物ねぇ。名前は?」


「果心居士と言うヤツじゃ」


「おお! 果心居士! 良いねぇ。俺も会いたいぞ」

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