第78話 これが実戦だったら……お前、死んでるぜ?



「【ヒュルエル山】付近で活動する猟師ですか。なるほど、言われてみれば納得ですよね」


 六人は食料と物資を買い込み、街を出た。

 目指すはギルド長の言っていた、【永久氷狼コキュートスウルフ】に遭遇しながら生還した人物の居る場所。

【ヒュルエル山】の麓にある猟師小屋である。


「正確には魔物討伐を専門にした冒険者だ。【ヒュルエル山】特有の貴重な魔物を狙うのは分かるが、ただでさえ過酷な場所を専門に狩りをするとは恐れ入るぜ。少なくとも、俺はそんな面倒な場所を狩場にしたくはねぇな」


「過酷でも、それに見合う割りの良い場所ってことなんだろ。あの場所をメインにして生計を立てるなんて、よっぽどあの山を知り尽くしてる証拠だ。そんな奴らならコキュートスウルフと出くわして生還するのもおかしくねぇのかもな」


 呆れたようなエドガーとは反対に、ラッシュは感心したような声で言う。

【狩人】の【天職】を持つ身としては、その技量に賞賛しない訳にもいかなかった。

 ラッシュの言葉に、ネコタは頼もしそうに頷く。


「そんな人達ならコキュートスウルフの弱点も知ってるかもしれませんね。それさえ聞けば、僕達なら撃退ではなく討伐することだって――」

「抉りこめぇ!」


 ――ドスリィ……!


 鋭く、そして深く。

 エドガーの拳が、ネコタの腹部を抉り込んだ。

 ネコタは腹部を抑えて膝を着いた。


「ぐぉ……ぐっ、ぐぇぇ……! お、おまっ……何を……!?」

「【RラビットCコークSスクリュー】。高速回転する拳を叩き込み、相手の体に抉りこませる必殺ブロウだ。まともに食らったが最後、地獄の苦しみを味わうことになるぜぇ!」


「そういうことを……聞いてる……じゃなくて……!」

「あん? じゃあなんだよ? 言いたいことがあるならハッキリ言えよ」


 ――誰のせいだと……!


 ネコタは苦しみながらも血走った目で睨み上げる。エドガーはそれに不満そうな顔を見せた。

 不意打ちしておきながらこの態度。なぜここまで偉そうに出来るのかネコタには理解できない。こいつ絶対頭が狂ってる!


「ぐっ……! げほっ、ごほっ! な、なんとか収まった……」

「回復が遅せぇな。苦しくていちいちうずくまってるようじゃ使いもんになんねぇぞ。これが実戦だったら……お前、死んでるぜ?」


「うるさいよ! 死んだ方がマシな苦しみだったよ本当に! いきなり何するんですかこの腐れウサギ!」

「なんだとぅ? 口だけは達者なクソガキが! テメェがアホなこと抜かすからお仕置きしてやっただけだろうが! 説教されておいて逆切れだぁ? ふざけんじゃねぇぞコラァ!」


「アホなことってなんだよ! 意味わかんないですけど!? 僕は【コキュートスウルフ】を討伐出来ればって言っただけだろ! どこに殴られる理由があんだよ! あんまり調子に乗ってると【魔王】の前にアンタを叩き斬ってやるからな!」


「おおっ! やってみろや! ポンコツ勇者に出来るもんならな!」

「ポンコツって言うなぁああああああああああ!」


「いやいや、ちょい待てネコタ! 流石にそいつはやりすぎだ!」


 斬りかかろうとするネコタを羽交い絞めにして抑えるラッシュ。

 一方、エドガーはフンスと鼻息を荒くし、胸を張っていた。

 その態度にネコタは憤慨する。なんでこいつが怒ってるんだ!!!!


「放してくださいラッシュさん! 今度ばかりは僕だって我慢できませんよ!」

「まぁまぁ落ち着けって。いつものことじゃないか」


「だから許せないんですよ! 毎度毎度いい加減にしろってんですよ! アイツは殴りたいから殴っただけでしょ!? 今回ばかりは絶対、僕は悪くないじゃないですか!」

「いや、実はそうでもなくてな。コキュートスウルフは絶対に討伐しちゃいけないんだ。まぁ、殴ったのはともかくな」

「ほら! やっぱり僕は悪く……え?」


 目を丸くして、ネコタはラッシュを見る。


「え、えっと……討伐しちゃいけないんですか?」

「ああ、それだけは絶対にやっちゃ駄目だ。というかエドガー、殴る前にちゃんと教えてやれよ。でないとネコタだって何が悪いのか分からないだろ」

「ふん、これくらい知らないでどうする?【ヒュルエル山】を縄張りにするコキュートスウルフの重要性なら、冒険者なら一度は聞いたことくらいある常識だ」


「僕は冒険者じゃなくて、勇者なんだよ! 知るわけないだろ!」

「だとしてもだ。上意下達、絶対服従。パーティの上位者である俺のやることに、お前は従うべきだろう。知る必要はない。ただ頷け」

「誰がお前の下だ! ふざけんな! 僕は【勇者】で救世主だぞこの野郎!」


 傲慢極まりない発言であった。

 怒りからの勢いとはいえ、己を顧みてほしいものである。

 ふーっ、ふーっと息の荒いネコタの肩を抑え、ジーナが問う。


「おい、討伐はダメってどういうことだ? あたしは戦えるのを楽しみにしてたんだぞ」

「楽しいかはともかく、周りを雪で包むくらい凄い魔物なんですよね? そんな力のある魔物なら、倒せるなら倒した方が、皆喜ぶんじゃないですか?」

「ま、確かにそれはそうなんだがな。世の中には時に、倒さない方が利益になる魔物も居るってことだ」


 ラッシュの言いように、フィーリアは不思議そうに首を傾げる。

 同じような顔をしていたアメリアが、エドガーに訊ねた。


「ねぇエドガー、どういうこと?」

「はっはっは、アメリアは世俗に関わってこなかったから、知らないのも無理はないな。よし、俺が丁寧に教えてもやろう」

「この野郎、態度が違いすぎるだろ……!」


 不満そうにするネコタを無視し、エドガーはピョンピョンと先に進む。

 再び歩き出しながら、エドガーは語り出した。


「なぜコキュートスウルフに危害を与えてはならないのか? その理由はコキュートスウルフではなく、【ヒュルエル山】とその周辺地域の状況が問題なんだな、これが」

「ああん? どういう意味だそりゃ? 回りくどいぞ、もっと分かりやすく言え」


「そこを説明しようとしてんだから黙って聞いてろ雌ゴリラ。まぁ簡単に言っちまうと、【ヒュルエル山】の周辺の領主達の利権争いがその理由だ」

「利権争い……結局そういう話なんだ」


 エドガーの言葉に、アメリアは面倒そうな表情をした。王都に長く住み、賢者として嫌でも王侯貴族と付き合いをしなければいけなかったアメリアにとって、うんざりするほどあった話である。

 はっはっは、とエドガーは朗らかに笑う。


「面倒な問題なんて、大抵お偉いさん達の都合によるもんだ。で、今回の【ヒュルエル山】だが、切っ掛けはまだコキュートスウルフが現れる前のことになる。もともと【ヒュルエル山】は、コキュートスウルフが住む前は貴重な薬草や動物が生息する、それはそれは緑の豊かな山だったらしい」


 え? と。フィーリアは目を丸くした。


「そうなんですか? あんな雪山なのに?」

「信じられねぇよな。今では見る影もないが、事実らしいぞ。それこそお前の故郷と同じくらい緑の多い山だったんじゃねぇかな?」

「驚きました。その狼さんはよっぽど凄いんですねぇ」


「ああ、まったくだ。でだ、そんな実りの豊かな山だったら、そこから手に入れる実りも多い。そうなれば当然、その利益を求めて争いが起きる。具体的に言うとここらの領主共だ。この山は家の領地だ! って声高に主張しはじめる訳よ」

「ああ、 なるほど。それで利権争いですか……」


 利益を独占しようと、争いあう。それが領地の問題ともなれば、いろいろと複雑化するだろう。

 簡単にそれが想像できるほど、ネコタにも分かりやすい構図だった。


「まぁそれでも、最初はまだ穏便だったそうだけどな。精々が私兵の小競り合い程度で、大規模な戦争にはならなかったそうだ。

 領主の兵共がお互いを牽制している合間を縫って、それぞれの領地の冒険者が山に入り、その税を納める。その税だけで領主共もそこそこ満足していたんだよ。

 ところが、ある出来事が切っ掛けでその争いが激化した」


「ある出来事?」

「鉱脈が見つかったんだよ。規模としては大きくはないが、それでも、独占すればかなりの金になるくらいのな」


 ふぅ、とエドガーは息を吐く。その仕草からは、呆れのようなものを感じさせた。


「またその鉱脈の大きさが絶妙でな。

【ヒュルエル山】は三つの領地に囲まれているんだが、そいつらで平等に分けるには、ちょいと量が少ない。だが、独占すれば大金が手に入る。

 欲張らず細々とやっていれば、将来的にも定期的な収入が入ってくる緑豊かな山だったが、すぐに大金が手に入る鉱脈は当時の領主達にとって遥かに魅力的だったって訳だ。そして争いが激化した」


 淡々と続けるエドガー。しかし、内容は悲惨だった。


「領主の私兵の小競り合いは、大規模な戦争状態に。私兵だけじゃなく、傭兵を雇い領民まで使った殺し合いに発展した。正面からの戦いはもちろん、相手の家族を人質に取ったり、村を焼いたりと、手段を選ばない血みどろな争いだったそうだ」


「それは……本当に酷いですね……」

「そうだな。一番割りを食ったのは、普通に暮らしてた領民だろうな。何の不満も無く暮らせたはずなのに、領主共の欲に巻き込まれたんだ。やりきれねぇよ」


 吐き捨てるように、エドガーは言った。


「人が大勢死んで【ヒュルエル山】も戦争で荒らされ、それでも戦いは止まろうとしなかった。領主共はそれぞれ寄親まで巻き込んで、更に加速すると思われた。

そんな時に、あいつが現れたんだ。今の【ヒュルエル山】の主、コキュートスウルフがな。奴は何が気に入ったのか、【ヒュルエル山】に縄張りを作るなり、周辺を吹雪で雪の山に変えた。そして、山に入ってきた兵共を纏めて壊滅させたんだ」


「壊滅……え? それって、つまり――」

「そう。結果的にコキュートスウルフが争いを止めることになったのさ」


 ネコタを肯定するように、ラッシュが続けた。


「コキュートスウルフがあの山に住み着いたおかげで、鉱脈を取り出すことは実質的に不可能になった。なんせ軍勢を率いようにも、吹雪で進むだけでも困難。コキュートスウルフに遭遇する前に壊滅する有様だ。

 そして当然、その程度の奴らにコキュートスウルフを倒せる訳がない。鉱脈は惜しいが、近づけもしないのでは諦めるしかなかったのさ。

 幸い、コキュートスウルフは【ヒュルエル山】から出ることはない。放っておけば害はないから、領主達は手出しをせず、見守ることを選んだのさ」


「そうして残ったのは、収穫が期待出来ない年中雪に包まれた山だけということだ。戦費を使い込んだだけではなく、実りのある山を失う。結果的に領主共のやったことは無駄どころか、損をするだけだったという訳だ。コキュートスウルフが現れたのは運がなかった、というほかないけどな」


 ケケケッ、とエドガーは邪悪に笑う。ザマァ見ろという気持ちが隠しきれていなかった。

 フィーリアは難しい顔で悩んでいた。話を聞いても、その領主の気持ちがまったく分からなかった。


「私、全然分かりません。その鉱脈の何処がいいんでしょう? そんな食べられないものより、緑の多い山の方がずっと価値があると思うのですが」


 それを捨てることになるなんて、バカじゃないだろうか?

 全く理解出来ない。人間は難しい。モヤモヤと頭を悩ませ、フィーリアは顔を上げる。

 何故だか、暖かい目で見られていた。


「流石フィーリアさん。価値観がまるで違いますね」

「これぞエルフ、ということか? こうまで言い切るのはあたしでもスゲェと思うぜ」


「それがただの食い意地っていうのが、少し残念ではあるけどな」

「でも、私はそんなフィーリアは好きだよ。とても可愛いと思う」


「なっ、なんですか皆して! 私、変ですか!? 当たり前のことでしょう!?」


 顔を真っ赤にするフィーリアに、ますます優しい目を向ける仲間達。

 お、おかしいですっ。何故こんな目で見られなければ……っ!

 そんなフィーリアを見ながら、エドガーは小さな笑みを浮かべる。


「まぁ、食い意地が張ってるからの発言とはいえ、その通りだと思うぜ。結局、領主共は金に目が眩んで、貴重な財産を失う羽目になったんだからな」

「しっ、失礼なっ! 私はそこまで意地汚くないですよっ!」


「アホか。お前の本性なんて今更取り繕えんわ。まぁ、ネコタもこれで分かったろ? コキュートスウルフを討伐しちゃいけない理由が」

「討伐をすれば、また鉱脈を求めて争いが始まることになるからですね?」


「その通り。

 あの山の資源を取り出せないのは損失だが、もう一度争いが始まるよりはずっとマシだ。

 コキュートスウルフはな、抑止力としてあの山に君臨し続ける必要がある。冒険者ギルドもそのことを分かっているから、災害級の危険生物にも関わらず、討伐禁止のリストに入れてるんだよ」


「更に言えば、その魔物のおかげで争いが起こらないでいるとここの領民は理解している。だから場所によっては、守り神扱いしている村もあるらしい。そんな魔物を討伐なんかしてみろ。その領民達の手で殺されるぞ」


 さぁっと、ネコタの顔が青くなった。


 もし話を聞いてなければ、間違ってコキュートスウルフを殺していたかもしれない。まぁ、ネコタの実力では無理な話であり、それはネコタの杞憂な訳だが。


 世界を救う存在である勇者が、善良な民から恨まれて殺されるなど洒落にならない。


 戦えないと分かり、ぐぬぬとジーナは唸る。


「久しぶりに手応えのある奴と戦えると思ったのによ。それじゃあ何の為に猟師に会いに行くんだよ。戦えないなら意味がねぇだろうが」


「アホッ。戦えないからこそ、聞きにいかなきゃならんだろうが。倒す訳にはいかない以上、もし出会ったら、上手くあしらうか逃げるしかねぇ。そんな面倒なことにならないように、そもそも遭遇せずに済む方法をだな――」


 呆れた目で説教じみた話をするエドガーだったが、急にピタリと動きを止める。

 急に止まったエドガーを、五人は怪訝そうに見下ろした。


「エドガー、どうしたの?」

「……争っている音が聞こえる」


「争ってるって……本当に? そんなの全然……」

「それなりに離れているからな。俺じゃなかったら聞き逃してたところだ。だが、結構デカイな。何かは知らないが、巻き込まれないように避けて――いや、それどころじゃねぇな」


「あっ、エドガー!?」


 アメリアの焦った声を気にも止めず、エドガーは道から外れ、森の中に入った。

 エドガーの躊躇いのない行動に、ポカンとした目をする五人。その数秒後、揃ってエドガーを追いかける。


「ったく、アイツは本当に。せめて一言相談してからにしろよ……」

「エドガーがあんなに慌てて行ったんだもん。よっぽどのことが有ったんだよ」

「そうかもしれませんね。わりと真面目な顔でしたし、僕達はともかく、アメリアさんを置いて行ったんですから。まぁ、気まぐれっていう可能性も無くはないですけど」


「はぁっ、はぁ、はっ、はぁ! もっ、もう駄目ですっ……皆さん、もうちょっとゆっくり……っ!」

「キツイだろうが今は頑張れ。ほら、手伝ってやるからよ」


「はぁっ……! む、無理です無理ですっ! 無理無理っ! ひっ、ひっ……し、死んじゃうっ! たどり着く前に死んじゃう……!」

「そう言ってる間は死なねぇよ。限界を超えたら逆に気持ちよくなるから、ほら、走れ走れ」


 ラッシュを先頭に、遅れているフィーリアをジーナが押して走り続ける。

 エドガーが通った跡が残っており、追いかけるのは難しくはない。しかし、走れど走れど、一向にエドガーの影すら見えない。


「こんだけ走って追いつかないとか、どんだけ速いんだよアイツ! ありえんだろ!」

「しかも、これだけ離れてる音を聞き取ったってことですからね。忘れがちですけど、やっぱりあの人とんでもないですね……」


 ラッシュとネコタは驚きを通り越して呆れていた。相変わらずとんでもない身体能力だ。


 これで日頃の言動がマトモなら、素直に尊敬できるのに……ああ、なぜ神はあんな奴にこれだけの才能を与えてしまったのか。いや、それとも才能を与えてしまった分、内面でバランスを取っているのだろうか。


 神の悪戯ともいうべき采配に、二人は真剣に頭を悩ましていた。神様はもう少し、融通を聞かせても良いと思う。


 そうしている間に、森の光景に変化が見られる。幹の太い木が倒れ、岩が砕かれている。これが出来るだけの大型生物が暴れたということだ。

 

 それを察し各々は緊張した表情を見せた。なお、フィーリアは体力切れで死にかけていた。今にも吐きそうな、女が見せてはいけない切迫した表情だった。それでも背中を押し続けるジーナ。鬼である。


 走るにつれ、森の荒れ方が大きくなっていく。そしてとうとう、五人はエドガーに追いついた。


「――ッ! エドガー!」

「おお。意外と早かったな。もう少しかかるかと思ったが」


 エドガーのすぐ側に、大人が見上げるほど大きい猪が首から血を流し倒れていた。これが森で暴れていた生物の正体なのだろう。


 アメリアが心配そうな顔で駆け寄るが、エドガーはのんびりとしたものだった。ヒュンッ、と軽く剣を振り、血を払う。さして疲労している様子もない。駆けつけ、あっさりと首を切り裂いて終わらせたのだろう。


「大丈夫? どこか痛いところはない?」

「なに、心配するな。この程度の相手ならまったく問題ない」


「本当に? 痩せ我慢してない? 痛いところがあったら言ってね?」

「大丈夫だって。ほれ見ろ、怪我一つしてないだろ」


「……うん、本当に大丈夫みたいだね。良かった、あんな大きな猪が相手じゃ、てっきり死ぬような目にあったのかと」

「アメリアは心配性だな。もう少し俺を信じろよ。こんなとこで死ぬような目に会うわけないだろ?」


「ぐひゅ……! エ、エドガー様……げふっ、ごひゅっ……! ご、御無事で……かはっ!」

「なんでお前が死にそうになってんの?」


 必死なフィーリアにエドガーは少々引いた。荒れた呼吸が見苦しい。もう少し女であることを意識してほしいものである。


 珍しく申し訳なさそうに、ぽりぽりとジーナは頬を指でかく。


「背中を押して手伝ってやったんだがな……やっぱ無理させすぎたか。背負ってやりゃあ良かったな」

「良いんじゃねぇか? たまには運動させないとぶくぶく太るだけだからな」


「ひっ、酷い……! 頑張って走ったのに……!」

「憐れな。一応、お前を心配して追いかけたってのにな。それで、なんで急に走り出したんだ? まさか、わざわざコイツを仕留める為だけって訳じゃないだろうな?」


 ジト目をしながら猪を顎で指すラッシュに、エドガーはムッとしながら答える。


「当たり前だろ。早く行かねえと間に合わない所だったんだよ」

「間に合わない? 何がだよ」

「ほれ、そこに居るだろ」


 エドガーの指した方向に、五人は一斉に目を向けた。

 猪の巨体、その陰に座り込み、足に怪我を負った初老の男が、仏頂面でエドガー達を睨んでいた。



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