第56話 醜くてごめんなさいっ!



「【精霊の審判】から逃れた者が居たと聞き、どんな奴かと思って来てみれば、まさか貴様らのような人間だったとはな」


 ザッと囲んで居る者達を割って、一人の青年が姿を現した。


「人間が審判を抜けられるはずもない。どうやって精霊を誤魔化したのかは知らぬが、生憎だったな。私達が来た以上、決して貴様らを逃しはしない。せめてもの慈悲だ。飢えて苦しむことなく、あっさりと死ねることに感謝するといい」


 男が手を挙げると、周りの者が一斉に弓を引いた。

 チッとジーナが舌打ちし、距離を詰めようとする。だが、それよりも早くラッシュが肩を掴んだ。


「待て、今突っ込んだらそれこそ殺し合いになる」

「バカかテメェは! みすみす殺されるのを見逃せってのか!」


「落ち着け、まだ交渉の余地はある。アンタらも、弓を降ろしちゃくれねぇか? 俺達に敵対する意思はない。ただ、この森に居る守り人に用があって来たんだ。アンタらがその守り人なんじゃないのか?」

「守り人だと?」


 怪訝そうに眉をひそめる男に、そうだとラッシュは頷く。そして、ネコタをエルフ達の前に押し出して言った。


「この少年が、世界を救うために異世界から召喚され、女神の祝福を受けた勇者だ。

【勇者】の力を完全に引き出すために、俺達は各地の女神の祭壇を巡っている。

 この森に女神の祭壇があり、守り人に会えば導いてくれると聞いて此処に来た。アンタらが守り人なんだろう? 

 余所者が来て警戒しているのは察するが、どうか世界を救うために協力してもらいたい」


「守り人に勇者だと? 何を訳の分からんことを……ああ、いや、勇者というのは聞いた覚えがあるな……まさか本当に勇者が来たのか? 

 女神の祝福を受けているなら、精霊に認められることも……いや、しかし守り人とは……」


 怪しげに睨んで居た男が、ブツブツと呟き始める。

 不安そうに、ネコタはラッシュに訊ねた。


「大丈夫なんですか? なんだか疑っているようですけど」

「なに、心配するな。守り人である以上、勇者かもしれない相手を殺す訳にはいかないはずだ」


 自信満々に言うラッシュだが、ネコタは今ひとつ信用しきれなかった。信じるにはあまりにもこの森での醜態が多かった。


「……いいだろう。大人しく我らに従えば、我らの長に会わせてやる」

「隊長!? よろしいのですか!?」


「そこの少年が本当に勇者かは分からんが、【精霊の審判】を抜けたのは事実だ。そこにそれだけの理由があるのだろう。となると、私達では手に余る問題だ。長に判断してもらう他あるまい。何か間違っているか?」

「……いえ、おっしゃる通りかと思います」

「うむ、ならば構うまい。それにだ……お前、あいつらの言っていることが分かったか?」


 隊長エルフは、部下のエルフにヒソヒソと囁いた。


「いえ、申し訳ありません。実は何のことを言っているのか……」

「気にするな、俺もだ。ここで下手に処分して、後で俺達が罰せられるのもまずい。面倒なことは長達に丸投げしてしまおう」

「ああ、それもそうですね」


 真剣な表情で頷きあうエルフ達を見て、ラッシュは小さく笑みを浮かべた。


「何を話しているのかまでは分からんが、ほらな。どうやら大丈夫そうだろ?」

「はい、争わずに済みそうで良かったですね。このまま殺し合いになるかと」


 安心からか、ネコタは泣きそう顔をしながらほっと息を吐く。

 そんなネコタを戒めるように、エルフの男は言った。


「では、私達に従ってもらう。だがその前に、武器をこちらに寄越してもらおうか。危険人物に武器を持たせたまま里に連れて行く訳にはいかんからな。なに、大人しく従えば手荒な真似はせん」

「ああ、分かった。ほら、お前らも早く渡せ」


 率先して、ラッシュは弓をエルフ達の方へ投げた。

 それにジーナが声を荒げる。


「バカかテメェ! 敵かどうかも分からん相手に武器を委ねるとか正気か!?」

「彼らの言っていることは至極真っ当なことだろうが。ここで従わずに相手を刺激させるようなことを言ってどうする。ほら、お前らも武器を渡せ」


「ん、まぁいいけどね。別に無くても問題ないし」

「あの、僕のこれ聖剣なんですけど、本当に預けていいんでしょうか?」

「ああ、渡して構わない。彼らは間違いなく守り人だ。まさか聖剣を壊そうとするような愚かな真似はしないさ」


 アメリアは特に何とも思わず、ネコタもラッシュの言葉に頷き武器をエルフ達に渡した。

 部下達が武器を拾うのを見て、隊長エルフはジーナの方へ厳しい視線を向けた。


「おい、そっちのお前はどうした? 早く武器を投げろ」

「へっ、この格好を見て分かんねぇのか? あたしゃ【格闘家】だ。武器なんぞ持っちゃいねぇよ。強いて言えばこの肉体が武器だ」


 嘲るようにジーナは言った。確かに正しい言い分ではあるが、妙に挑発的だ。大人しく従うのも癪だと思っているらしい。

 それに、隊長エルフはあっさり頷いた。


「そうか。ならロープで後ろ手に腕を縛る。こっちに来い」

「はぁ!? なんであたしだけ!」


「凶暴な【格闘家】の腕を自由にさせる訳にはいかないからだ。そんなことも分からないのか?」

「ぐっ、テメェ……!」


 バカにするような目で隊長エルフは言った。早い意趣返しだった。

 ギリギリと歯を鳴らすジーナに、ラッシュは呆れた声で言った。


「バカだなお前。黙っていればいいものを……」

「クソが……ふざけやがって……ッ!」


 ワナワナと震えるジーナに構わず、エルフは腕を縛り上げた。よっぽど上手く縛ったのか、肘から先がまったく動かない。態度が態度なだけに、どうやらかなり警戒しているようだ。


「よし、これならいいだろう。大人しくするんだな」

「チッ! 下手な縛り方しやがって、跡が残るだろうが!」

「済まんな、凶暴なケモノは油断する訳にもいかんのでな」


「ッ! 人を獣扱いたぁ言ってくれるじゃねぇか。舐めんなよ、腕を縛られたって、足が動くなら十分──」

「そうか。おい、もう一本ロープを寄越せ。足を縛る」


「────」

「余計な事を言うから……」


 哀れむような瞳でラッシュはジーナを見る。内心を隠せない愚直さがなんとも不憫だった。

 手足を拘束され動けなくなったジーナを確認し、隊長エルフはラッシュに命じる。


「よし、それではその女を担いでついて来い。我らがそこまでしてやる義理はないからな」

「ああ、分かった。よし、ジーナ。持ち上げるぞ」

「覚えておけよ耳長共……! この屈辱は絶対に忘れないからな!」


「ほう、見上げた根性だ。どうやらこの女はそこまで我らと敵対したいらしいな?」

「馬鹿野郎! お前はエルフ全員を敵に回すつもりか! 俺達の立場まで悪くなるだろうが!」

「こんな目にあって黙ってられるか! これじゃあ何かあった時、抵抗もできねぇじゃねぇか!」


「心配するな。エルフは高潔であるとされている一族だぞ。そのエルフが、手荒な真似をしないと口にしたんだ。なら、それ相応の扱いをされるはずだ」

「この能天気野郎が! 何かあったら責任を取れよな!? 絶対だぞ!」

「はいはい、本当にそうなったらな。ほら、行くぞ。担ぎにくいから大人しくしてろ」


 ラッシュが芋虫のようになっているジーナを担ぎ、四人はエルフ達の監視の元、彼らの里へと向かった。




 ♦︎   ♦︎




「……えっ? ウサギさん? もしかして兎人族の方ですか!?」


 エドガーを見た固まっていたエルフの少女だったが、急に弾んだ声を出し、エドガーの脇を持ち上げる。

 そしてはしゃいだ様子で、次々と質問を投げ掛けた。


「やっぱり、間違いなく兎人族の方ですよね!? ってことは、まさか森の外から来たんですか? 

 もしかして旅人さんですか? この森には何をしに来たんですか? 観光ですか? それとも私達を訪ねて?

 あ、それと雄ですか? どちらの氏族の方ですか? この森は気に入ってくれましたか?」


「ちょ、ちょい待ち。そうバンバン質問ばっかりすんじゃねぇよ。答えらんねぇだろうが」


 まるで憧れのヒーローに出会った子供のような反応に、さしものエドガーもたじたじとなる。今までもこういったファンのような者は居たが、それでもここまで熱意のある者は初めてだった。


 あっ、と。エルフの少女は顔を真っ赤にして、慌ててエドガーを降ろす。


「も、申し訳ありませんっ! 私ったら……森の外から来た人に出会ったのは生まれて初めてだったので、興奮してしまいまして。ましてや、それが兎人族だったとなると抑えが効かなくて、つい……」

「お、おう、そうか。まぁ喜んで歓迎してくれるなら何よりだ」


「ほ、本当ですか? それじゃあ抱きしめていいですかっ!?」

「なんでそうなるんだ……。別に構わんが、まずは名前だけでも教えてくれないか?」


 はっ、とした顔になって、エルフの少女は言う。


「そ、そうですね。申し遅れました。私はこの森に住むエルフで、オフィーリアと申します。どうぞよろしくお願いします」

「おう、ご丁寧にどうも。俺はエドガーっていう旅のもんだ。よろしくな」

「はっ、はい! よろしくお願いします! —————はわぁ!」


 エドガーが伸ばした手を掴み、そのフワリとした感触にオフィーリアは恍惚な声を漏らした。声も上気してやけに色っぽい。本性を知らなければ誑かされていたなとエドガーは思った。


「感激です。私、本当に兎人族の方とお話をしているんですね……ッ!」

「確かに俺も旅をしている最中に他の兎人族を見たことはなかったが、そこまで嬉しいことか?」


「当たり前じゃないですか! 私達エルフにとって兎人族は何よりも特別な存在ですもの!」

「お、おう、そうか。そこまで言われると流石に照れるな……」


 キラキラとした目を向けられ、照れ照れとエドガーは頭をかく。ここまで純粋な好意を向けられるのは中々なかった。


「そういうお前さんは、エルフ、なんだよな?」

「はい、もちろんで……あ」


 疑問顔で首を傾げるエドガーに、オフィーリアは涙目になり、座ったまま胸を抱え隠すように体を捻る。隠しきれない胸がムニュリと溢れ、服がより尻を浮き上がらせる、実にそそるポーズだった。


「ご、ごめんなさいっ! この森で最初に出会ったエルフが私なんかで……気持ち悪いですよね、こんなの。でも、これでもれっきとしたエルフなんですっ……! 里に帰れば私なんかとは違って綺麗なエルフが居ますので、どうかお嫌いにならないでください……!」


「いや、そこまで言うほどのものか? むしろ良い女だと思うが」

「えっ?」


 目をパチクリとさせて、オフィーリアはエドガーを見た。


「そんな……あ、いえ、いいんです。お気を使わないで」

「いや、別に気を使ってるわけじゃねぇが」


「だって、こんな太った醜い身体なのに……」

「お前のは太ってるんじゃなくて、肉付きが良いっていうんだよ。どちらかと言えば、俺はガリガリに痩せているよりお前みたいのが好きだな」


「ほ、本当ですか? 嘘でも冗談でもなく? 顔だって、こんな崩れた不細工なのに」

「不細工? いや、むしろパーツは整っているし、愛嬌のある顔立ちだろ。太ってるとは言うが、胸と尻がデカイだけで、他はスラッとしているじゃねぇか。むしろ、女として理想的だろ」


 これで不満を持つなど、それこそ全世界の女性を敵に回すようなものだろう。

 唖然として固まって居たオフィーリアだが、エドガーの表情からそれが嘘ではないと分かると、ダーッと涙を流し始めた。


「おわっ!? な、なんだ急に!」

「ご、ごめんなさいっ……! 今までそんなこと言われたことなかったので、嬉しくて……それも、兎人族の方に褒められるなんて……!」


「お前どんだけコンプレックス持ってんだよ。俺が褒めてんのに、お前がそれを受け入れられなかったら、まるで俺が変な趣味を持ってるみたいじゃねぇか。ちゃんと褒めてんだから、泣いてねぇで嬉しそうにしろよ」

「うっ、うぅ……! ──ッ! はい、ありがとうございますっ!」


 オフィーリアはゴシゴシと涙を拭うと、満面の笑み浮かべた。

 感情豊かだが、切り替えの早い子のようだった。あまりの可愛らしさに、なかなか油断ならんとエドガーは警戒した。ここで調子に乗らせるのもまずい。一応、釘を刺しておこう。


「だが、まぁ」


 ふぅ、と。エドガーは失望を隠させないため息を吐く。


「あっ、あのっ。どうかしましたか? や、やっぱり私は可愛くなんて……」

「ああ、いや。可愛いのは間違いないんだ。ただ、なんというか、また巨乳かと」


「えっ? あの、またって……」

「一昔、いや、二昔前だったらエルフなのに巨乳ってギャップがあって、斬新だったんだけどな。今はむしろエルフは巨乳、爆乳がデフォになってるからな。正直、食傷気味っていうか、古き良きエルフは何処へ行ったのかと……」


「え? あの、太ってるエルフって故郷では私ぐらいなんですけど……」

「さっきも言ったが、お前のは太ってるんじゃない。肉付きが良いって言うんだ。あまり自分を卑下するな」

「あ、ありがとうございますっ」


「しかしまぁ、これは間違いなくゼロの人が原因だと思うんだよな。使い魔的な。魅力的な作品だったのは間違いないし、惜しい人を亡くしたとは思うんだが、これほどまでの固定観念をクリエイターに与えてしまったのは罪深いぜ。それだけの影響力があったということではあるんだが……」


「あの、すいません、ゼロの人っていったい……使い魔? 淫魔的な何かでしょうか?」

「そりゃお前のことだろうが。なんつう失礼な事を抜かしてるんだお前。違う、今もファンの心に残る、一時代を築いた偉大なる作家のことだ」

「へぇ、お外にはそんな作家さんが居るんですか。一体どんな作品なんでしょう?」


「気にするな。お前は知る必要のないことだ」

「え。あの、でも、気になるから少しだけでも」


「うるさい! 口答えするんじゃない!」


 フンッ! と、エドガーはデンと突き出された胸を引っ叩いた。ボイン、と激しく揺れる。オフィーリアはあうっと悲痛な声を上げ、胸の重さに耐えきれずその場に倒れこんだ。


「無駄に栄養を溜め込んだこの駄乳エルフめ! 生意気な態度はこの乳が原因か!? このっ、このっ!」

「ご、ごめんなさいっ! 醜くてごめんなさいっ! 許してください!」


 つい先ほどまで褒めていたのはなんだったのか。一転、エドガーは罵りながら執拗に胸を叩き続けた。


 あわれにもエルフは抵抗もできず、腕を振られるたびにボイン、ボインと揺らされ続ける。恥ずかしく、屈辱的な仕打ちだった。というか完全にセクハラだった。


 はぁ、はぁ、はぁ! と、ウサギは目を血走らせ、息を荒げる。なんだ、なんなのだこの気持ちは! 俺の中の何かが、征服しろと叫び続けている!

 

 期せずして芽生えた本能をなんとか押さえつけ、エドガーはオフィーリアの調教を止めた。危ないところだった。あのまま続けていれば、間違いなく自分は闇に堕ちていただろう。恐ろしい女だと、エドガーはオフィーリアの魔性を怖れた。控えめに言って最低のクズである。


 オフィーリアは上気しながら、弱々しく呟く。


「ぁん。うぅうぅ……い、痛いですっ……!」

「ふぅ、ふぅ。ま、こんなもんで許してやる。次からは口の聞き方に気をつけろよ」

「はい、すいませんでした」


 残酷な仕打ちに、エルフは反抗心を根こそぎ奪われた。

 彼女の最大のミスは、このウサギに弱みを見せてしまったことである。もはや、ウサギから逃れる術はなかった。これから彼女にはいくつもの苦難が待ち受けるだろう。強く生きて頂きたい。


「あの、そういえばエドガー様は――」

「待った。様付けなんかされたらムズムズするわ。もっと気軽に呼んでくれていいぜ」

「そ、そうですか? それじゃあ、エドちゃんは――!」


「誰がエドちゃんだ。馴れ馴れしくすんじゃねぇ。捥ぐぞ」

「ご、ごめんなさいっ! 捥がないでっ!」


「天然かよ。臆病で卑屈なくせに変なところで図々しい奴だな。やっぱり様付けで呼べ」

「あっ、はい。それじゃあ私のことはフィー、もしくはフィーリアと。家族は私のことをそう呼びますので」


「おう、改めてよろしくなフィーリア」

「あっ、はい。エドガー様! それで、エドガー様はこの森に何をしに来たんでしょうか? 外の人は中々森の奥には近づかないしはずなんですが」


「ああ。まぁ簡単に言えば、賢者の護衛と勇者の子守かな」

「え? 賢者に勇者の……子守ですか?」


「おお。賢者の方は俺が認める実力なんだが、ろくな力もないくせに口だけは一丁前の奴がいてな。そいつを守るために俺がいるのさ」


「はぁ、それは困った人ですね。恥ずかしいとは思わないんでしょうか?」

「だよな。奴にもそれくらい気づける常識があれば良かったんだが」


 フィーリアは無邪気に口にし、エドガーはくたびれた表情で頷いた。

 この場にネコタがいれば間違いなく喧嘩が始まっているようなやり取りだった。


 エドガーはこの森に来た理由を、一から丁寧にフィーリアに話した。全てを聞いたフィーリアは、神妙な顔を見せる。


「勇者に賢者……私もお伽話として聞いたことがあります。本当に存在したんですね」

「あれ、そんな認識なのか? 俺たちの所では、割と誰でも知っている常識がだったんだが」


「その、この森は外の人と関わりが無いので、世間の情報には疎くて……外の常識も何もかも、親からお話を聞くくらいですので」

「ああ、それじゃあ無理もねぇか」


「で、でも! エドガー様が言うんですから、世界の危機というのも本当なんですよね! もちろん、私に出来ることがあれば協力しますっ!」

「お、おお。そりゃありがたいっ」


 胸元で拳を構え、フンスッと意気込むフィーリアに、エドガーは若干引いた。この無条件の信頼はなんなのだろう? 宗教染みてちょっと怖い。


 ところが、やる気を出していたフィーリアはシュンと落ち込んだような顔をする。


「だけど、ごめんなさい。生まれた時からこの森に住んでいますけど、女神の祭壇という物を見かけたことはありません。それから、その守り人も」

「なに? 祭壇はともかく、守り人も知らないのか? お前らのことじゃないのか?」


「確かにこの森に住んでいる人種はエルフの私達だけですけど、守り人の話なんて誰からも聞いたことがありません。心当たりが全くなくて……」

「そりゃ参ったな。てっきりお前らのことだと思ってたんだが」


 そうなると、本当に手がかりが全くないことになってしまう。面倒なことではあるが、これは一から情報を集め始めたほうがいいかもしれない。まずはアメリア達と合流するところからか……。


「あの、確かに私は聞いたことないですけど、私の両親や里の長老達なら、何か知っている人もいるかもしれません! 私もちょうど帰るところですし、一緒に里まで行きませんか?」

「なに? この森のエルフの里にか?」


「はいっ。本当は外の人を連れて来てはいけないのですけど、エドガー様は別です。みんな喜んで歓迎してくれますよっ」

「それは有難い話なんだが、悪いな。俺は仲間と逸れちまってな。まずはアイツラを探さないといけねぇんだ」


「そうですか……でも、エドガー様と一緒に来たのなら、今頃は里の者が探して保護している所だと思います」

「ん? そうなのか?」


「はい。エドガー様がこの場所に来られたということは、何者かが【精霊の審判】を潜り抜けたと里に伝わっていますから。そうなれば、里の戦士達が森の侵入者を探しに来ているはずです。ですから、わざわざ探さずとも、里に来れば会えると思います」


「【精霊の審判】か。それがこの森の結界の名前か?」

「結界……うーん、厳密には違いますけど、似たようなものです」


「そっか。それじゃあ、先に里に行って待たせてもらうとするか。悪いが 世話になるぜ。美味いもんでも食わせてくれや」

「はいっ、この森の幸をいっぱいご用意いたしますねっ! それじゃあ参りましょう!」


 フィーリアは嬉しそうに頬を綻ばせると、ゆっくり歩き出す。

 しかし、いつまでも動かないエドガーに振り返った。


「あの、エドガー様? どうかしましたか?」

「あん? いや、俺は道が分かんねぇんだから、先に行ってもらわんと困るだろ?」

「えっ、ああ、確かにその通りですけど、出来ればとなりで一緒に歩ければと……」


「どうした? 早く行こうぜ」

「あ、はい、すいません。それじゃあ行きますね」


 ションボリとしつつ、オフィーリアは歩き出した。

 その後を、エドガーはピョンコピョンコ跳ねながらついていく。


「…………フヒヒッ」


 前でフリフリと揺れる尻を視姦し、エドガーはデレッと相好を崩した。

 ──どこまでもゲスなウサギであった。




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